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Four-leaf Cross〔Shota〕

◆第五十三話◆

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 葡萄の果肉をプチュと突き刺す。潰れた箇所から赤黒い果汁が次から次に溢れ出て、辺り一面を朱に染めていく。このままだと溺れてしまう・・怖くなって逃げ出そうとしても足が地面に張り付いてしまったかのように動かない。そうしている間にも、並々と溜まっていく血の海。

「助けてくれ」

 叫びながら手を伸ばすと、誰かがその手を掴んでくれた。

「ヒッ・・」

 自分の口から悲鳴が漏れる。視線の先で、血の涙を流した律が笑っている・・。

 ガタンと大きく電車が揺れて須藤 祥太は目を覚ました。あの日から連日見続けている夢。最初は恐ろしくて眠れなくなったけれど、最近ではそれが夢であると理解できるため、目覚めた瞬間に取り乱すことも無くなった。

「だからぁ、結構面白いから見てみてよ!」

 須藤は耳に響く大きな声に眉を顰める。横に立っている二人組の若い女性がスマートフォンを熱心に覗き込んでいた。見たくなくても視界に入ってくる位置、小さな画面の中で人影が蠢いている。

「ゲイとか気持ち悪いって思ってたけど、見出したらハマっちゃった」

「えー、これなんてやつ?」

 そこで駅に停車し、女性二人は話を中断して電車を降りた。須藤は静かになった車内でもう一度瞼を閉じる。自分の降りる駅まではまだまだ時間があるから仮眠したいのに、今の女性達の会話のせいで、昼間の出来事が頭をよぎり目が冴えてしまった。
 突然自分の前に現れた裕臣さんの恋人だと言う男。そして彼の口から語られた真実。自分にとって、これ以上無いくらいに望まれた内容だった。けれど、今自分が置かれている状況がそれを許さない。手に入れられるはずの幸せが自分の手からこぼれ落ちていくのを、黙って見ているしか出来ない。
 一ヶ月半前、律とビアガーデンに行った日、律はたまたま居合わせた裕臣さんの恋人を追いかけて道に迷い、酔っ払った二人の男に酷い性暴行を受けた。スマートフォンを店に忘れて行ってしまったがために、連絡が取れず。ようやく見つけ出せたのは、翌朝になってからだった。
 律は自分の目の前で、笑いながら律自身の眼球に指を突き刺した。足がすくんで動けなくなった自分に代わり、交番の警察官がすぐに気付いて止めてくれたおかげで自傷行為は右目だけで済んだが、傷が深く、片目を失明してしまった。
 律の心と頭が壊れてしまったきっかけは間違いなくレイプされたことだ。でも根源はそれじゃない。何故、律が自身の瞳を手にかけたのか、淡く綺麗な瞳が赤黒く染まる様を見て自分はゾッとした。律は直接口にはしないが、原因は自分の裕臣さんへの未練にある。
 あの頃自分は律の瞳を通して、いつも裕臣さんを見ていた。それを自分の中だけの問題だと思っていたのが甘かった。律は誰か分からない存在を敏感に感じ取っていたのだ。恋人にそんな事をされていたらショックを受け、不信感を持って当然だろう。
 自分には律をおかしくしてしまった責任がある。だから何があっても彼の傍にいて、一生をかけて償わなくちゃいけないと思っている。
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