10 / 16
2113年 ハジメの場合
☆出撃せり-3☆
しおりを挟む
(榊原巡査の場合)
自分は、円良田湖周辺のパトロールをしていた。いま、大里郡一帯は、連邦軍により住民の避難勧告が発令され、警察と自衛隊が、その任に当たっている。
自分の任務は、避難が完了しているかを確かめるため、パトカーで巡回することだった。
特に、「ジャイアントを間近で見たい」と考える、不届きで人騒がせなヤツ……。もとい、住民が居ないか警戒していた。
自分が所属する警察署は、数日前から大騒ぎだった。もちろん、全住民の避難誘導は大規模だし、現場は大変になる。だが、署内もかなり大変な事態が発生していた。その理由は、連邦特別法の施行にある。
つまり、警察署に連邦軍が乗り込んで来たのだ。
連邦軍は、全ての政府機関を統轄する権利を持っていて、警察や自衛隊のみならず、病院、消防、学校、図書館まで支配した。
連邦特別法には、「ジャイアントを殲滅する目的に限り」の一文があるが、それは、どんな解釈の仕方もできるアバウトさがある。
極端な話、やろうと思えば鉛筆一本を買うことさえ制限する事ができた。そして、なにより呆れたのは、警察署の幹部たちで、地域住民を守る立場にありながら、避難誘導の指示はそっちのけで、連邦軍幹部への媚びへつらいには余念がない。
自分は、何だか全てが馬鹿馬鹿しく感じ、車を停めた。
円良田湖は、縦長な淡水湖で、140号線から入って、少林寺の先に位置する。湖面は穏やかで、風は無い。気温差からか、靄がかかり、少し神秘的な感じがした。
もっとも、神秘的に感じるのは、人が居ないからかも知れない。普段なら釣り人が釣果を競っている。
「さて、異常なし。他をパトロールするか……」
自分が立ち去ろうとすると、異変が起きた。湖面から水鳥たちが大慌てで飛び立つ。少し遅れて、木々の小鳥が後を追う。「置いて行かないで」とばかりに、カラスまで急いで飛んで行く。
その慌てっぷりに、野性的直感が鈍くなった霊長類の一員である自分も、不安を覚える。
そして、不安は的中。上空から巨大な物が、ゆっくりと降下してくる。それは、とにかく馬鹿でかいサイズで、サンシャインビルとか六本木ヒルズとか、とにかく高層ビルがそっくり落ちて来る感じがした。
たぶん、隕石だったら、落下の衝撃で関東地方がそっくりクレーターになるかも知れない?
幸か不幸か、その物体は降下速度が遅いから、完全に調整している。つまり、ある意思を持って操つられている。
表面が焼け焦げた卵形の巨大な物体。これは、ニュースで見た事がある。
自分は、慌てて無線で報告する。
「ジャイアントエッグが円良田湖北部に降下中!」
その時、目の前のジャイアントエッグが着陸する前に、背後で物凄い音がした。振り返ると、もう一つ、別のジャイアントエッグが地面にめりこんでいる。
(ハジメの場合)
連邦軍本部となった養成所は、朝から慌ただしかった。だが、それも仕方がない事態が起きていた。
跪いて待機する愛機に、慣れたようすで乗り込み、エンジンに点火する。
ジェトエンジンのファンが、上から順に回り始め、回転数が上がるにつれ、音が軽快になっていく。過吸機から来る空気と、燃料が混合され、20個の高速ファンが、下へ下へと圧縮して行く。
高圧縮された燃料は、最下部の噴射口で爆発し、青白い噴射焔を上げる。
僕は、シートから伝わる振動と、軽快で甲高いエンジン音から、鋼殻体の調子を判断する。整備士に親指を立てて見せ、安心させた。
鋼殻体の心臓とも言えるジェトエンジンが始動すると、機体の血液に当たる電力が充たされる。
コックピットのハッチを閉じ、目の前には、メインカメラからのモニターと、機体情報、通信、マップ、等のデータが広がる。胸部の装甲を閉じ、機体を立ち上がらせる。
養成所の長いスロープ状の坂道を、世界中から集まった鋼殻体が降りて行く。その姿は、オリンポス神殿から下界へ進撃する戦闘神を思わせた。
神話では、巨人タイタンを倒すために進撃した神々だが、現代では、昆虫型エイリアン、ジャイアントを倒すために進撃する。
そんな中、僕は212小隊の小隊長を務めていた。
普通、下士官では隊長にはなれないが、不測の事態で急な対応策だった。生き残れれば、准尉(仮の士官)になれるかも知れない? あくまで、生き残れば、なのだが……。
さて、所属する中隊は35中隊で、中隊長は櫻井少佐になる。櫻井ファンの佐之助は、イヤでもテンションが上がるが、そこがちょっと心配だった。もっとも、自分も少佐とは縁があり、彼女の命令なら悪い気はしない。
ジャイアントエッグが落ちたのは二つで、一つは、円良田湖の近くで、もう一つは、そこから1.2㌔離れたゴルフ場だった。
櫻井少佐率いる35中隊は、ゴルフ場へ向かって行軍する。
鋼殻体は、人工筋肉を使う事により、スムーズで滑らかな動きをする事ができる。だから、乗り心地は良い。現地到着予定は10:00で、命令では、目的地まで直線ルートを使え。との事。つまり、直線上にある建物は、踏まれるか、または、壊されるかの悲惨な運命にあった。
僕には、壊された建物が弁償されるのかが気になった。
「そう言えば、ジャイアント殲滅を目的とした場合、公的、私的を問わず、全ての権利を放棄する。的な事が、連邦特別法にあったような?」
そう思い出し、とりあえず、自分の隊だけでも配慮させようと決める。
圭介、佐之助、ススムにコールすると、小さなモニターに三人の顔が映る。
「建物はなるべく壊さないように進軍しよう」
命令と言うより提案をしてみる。すると、佐之助の懺悔を聞くはめになった。
「俺、ベンツを踏み潰しちゃった」
そう言いながら、全く反省していない佐之助に、「こいつ、絶対悪いと思っていない」と感じたので、不吉な話で応戦する。
「佐之助、一つ予言してあげよう。たぶん、君は将来、高級車を買うだろう。それは、鋼殻体に踏み潰される。高級住宅ともどもな!」
「……。了解」
佐之助の表情は曇り、圭介は苦笑い。ススムは、相変わらず無表情だった。
自分は、円良田湖周辺のパトロールをしていた。いま、大里郡一帯は、連邦軍により住民の避難勧告が発令され、警察と自衛隊が、その任に当たっている。
自分の任務は、避難が完了しているかを確かめるため、パトカーで巡回することだった。
特に、「ジャイアントを間近で見たい」と考える、不届きで人騒がせなヤツ……。もとい、住民が居ないか警戒していた。
自分が所属する警察署は、数日前から大騒ぎだった。もちろん、全住民の避難誘導は大規模だし、現場は大変になる。だが、署内もかなり大変な事態が発生していた。その理由は、連邦特別法の施行にある。
つまり、警察署に連邦軍が乗り込んで来たのだ。
連邦軍は、全ての政府機関を統轄する権利を持っていて、警察や自衛隊のみならず、病院、消防、学校、図書館まで支配した。
連邦特別法には、「ジャイアントを殲滅する目的に限り」の一文があるが、それは、どんな解釈の仕方もできるアバウトさがある。
極端な話、やろうと思えば鉛筆一本を買うことさえ制限する事ができた。そして、なにより呆れたのは、警察署の幹部たちで、地域住民を守る立場にありながら、避難誘導の指示はそっちのけで、連邦軍幹部への媚びへつらいには余念がない。
自分は、何だか全てが馬鹿馬鹿しく感じ、車を停めた。
円良田湖は、縦長な淡水湖で、140号線から入って、少林寺の先に位置する。湖面は穏やかで、風は無い。気温差からか、靄がかかり、少し神秘的な感じがした。
もっとも、神秘的に感じるのは、人が居ないからかも知れない。普段なら釣り人が釣果を競っている。
「さて、異常なし。他をパトロールするか……」
自分が立ち去ろうとすると、異変が起きた。湖面から水鳥たちが大慌てで飛び立つ。少し遅れて、木々の小鳥が後を追う。「置いて行かないで」とばかりに、カラスまで急いで飛んで行く。
その慌てっぷりに、野性的直感が鈍くなった霊長類の一員である自分も、不安を覚える。
そして、不安は的中。上空から巨大な物が、ゆっくりと降下してくる。それは、とにかく馬鹿でかいサイズで、サンシャインビルとか六本木ヒルズとか、とにかく高層ビルがそっくり落ちて来る感じがした。
たぶん、隕石だったら、落下の衝撃で関東地方がそっくりクレーターになるかも知れない?
幸か不幸か、その物体は降下速度が遅いから、完全に調整している。つまり、ある意思を持って操つられている。
表面が焼け焦げた卵形の巨大な物体。これは、ニュースで見た事がある。
自分は、慌てて無線で報告する。
「ジャイアントエッグが円良田湖北部に降下中!」
その時、目の前のジャイアントエッグが着陸する前に、背後で物凄い音がした。振り返ると、もう一つ、別のジャイアントエッグが地面にめりこんでいる。
(ハジメの場合)
連邦軍本部となった養成所は、朝から慌ただしかった。だが、それも仕方がない事態が起きていた。
跪いて待機する愛機に、慣れたようすで乗り込み、エンジンに点火する。
ジェトエンジンのファンが、上から順に回り始め、回転数が上がるにつれ、音が軽快になっていく。過吸機から来る空気と、燃料が混合され、20個の高速ファンが、下へ下へと圧縮して行く。
高圧縮された燃料は、最下部の噴射口で爆発し、青白い噴射焔を上げる。
僕は、シートから伝わる振動と、軽快で甲高いエンジン音から、鋼殻体の調子を判断する。整備士に親指を立てて見せ、安心させた。
鋼殻体の心臓とも言えるジェトエンジンが始動すると、機体の血液に当たる電力が充たされる。
コックピットのハッチを閉じ、目の前には、メインカメラからのモニターと、機体情報、通信、マップ、等のデータが広がる。胸部の装甲を閉じ、機体を立ち上がらせる。
養成所の長いスロープ状の坂道を、世界中から集まった鋼殻体が降りて行く。その姿は、オリンポス神殿から下界へ進撃する戦闘神を思わせた。
神話では、巨人タイタンを倒すために進撃した神々だが、現代では、昆虫型エイリアン、ジャイアントを倒すために進撃する。
そんな中、僕は212小隊の小隊長を務めていた。
普通、下士官では隊長にはなれないが、不測の事態で急な対応策だった。生き残れれば、准尉(仮の士官)になれるかも知れない? あくまで、生き残れば、なのだが……。
さて、所属する中隊は35中隊で、中隊長は櫻井少佐になる。櫻井ファンの佐之助は、イヤでもテンションが上がるが、そこがちょっと心配だった。もっとも、自分も少佐とは縁があり、彼女の命令なら悪い気はしない。
ジャイアントエッグが落ちたのは二つで、一つは、円良田湖の近くで、もう一つは、そこから1.2㌔離れたゴルフ場だった。
櫻井少佐率いる35中隊は、ゴルフ場へ向かって行軍する。
鋼殻体は、人工筋肉を使う事により、スムーズで滑らかな動きをする事ができる。だから、乗り心地は良い。現地到着予定は10:00で、命令では、目的地まで直線ルートを使え。との事。つまり、直線上にある建物は、踏まれるか、または、壊されるかの悲惨な運命にあった。
僕には、壊された建物が弁償されるのかが気になった。
「そう言えば、ジャイアント殲滅を目的とした場合、公的、私的を問わず、全ての権利を放棄する。的な事が、連邦特別法にあったような?」
そう思い出し、とりあえず、自分の隊だけでも配慮させようと決める。
圭介、佐之助、ススムにコールすると、小さなモニターに三人の顔が映る。
「建物はなるべく壊さないように進軍しよう」
命令と言うより提案をしてみる。すると、佐之助の懺悔を聞くはめになった。
「俺、ベンツを踏み潰しちゃった」
そう言いながら、全く反省していない佐之助に、「こいつ、絶対悪いと思っていない」と感じたので、不吉な話で応戦する。
「佐之助、一つ予言してあげよう。たぶん、君は将来、高級車を買うだろう。それは、鋼殻体に踏み潰される。高級住宅ともどもな!」
「……。了解」
佐之助の表情は曇り、圭介は苦笑い。ススムは、相変わらず無表情だった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる