上 下
9 / 16
2113年 ハジメの場合

☆出撃せり-2 ☆

しおりを挟む
臨時ニュースより↓


 2113 .11.8.AM10:00

 月面からジャイアントエッグが2つ射出されたのを確認。
 1つ目は、ニュース映像で流れた物と判明。高さ、400㍍、直径100㍍。
 2つ目は、クレーターの中に隠れるように存在して、まるでビックリ箱のように飛び出した為、詳しい情報は不明。
 地球までの距離、約384000キロメートル。
 約5日で到達。
 到達場所、日本列島。
 連邦軍日本支部は、厳戒体制で臨むべし。


その二日後、臨時ニュースより↓

AM 11:00

 国会に黒塗りのリムジンが乗り付ける。ボディーには、目に鮮やかな碧を基調として、地球をイメージさせるロゴがあり、降り立つのは、あおい詰襟の軍服姿で、彼らは、連邦軍の幹部たちだった。
 余計な挨拶はいっさい抜きで、険しい表情のまま国会内を進み、そのまま大会議場へ突入する。
 会議場では、連邦特別法を容認するか否かの投票が行われていた。
 国会に乗り込んだ藤堂中将は、身の内に怒りが湧いて来るのを感じていた。国政を預かり、国民の生命と財産を守り、幸せにすべき代表が、目の前に危機が迫っているのに、のんびりと話し合いの末、やっと投票に至った。
 ジャイアントエッグが月面から飛び出してから、既に二日が経ち、まだ評決していない。言わば、二日を無駄にしたも同然だった。

 彼らは、既得権益を連邦軍に取られはしまいかと、そればかり気にしている。中将は、議員たちを残らず射殺したい気分を抑えるのに必死だった。
 だが、射殺はしないし、その必要もない。
 藤堂中将は、部下と共に議長席へ向かう。
 恰幅の良い体つきと、迫力のある顔立ちと、連邦軍の制服。これを止める事ができるほど骨のあるヤツは、議員の中には居ない。
 藤堂中将は、議長席を占拠し、高らかに宣言する。

「世界政府より、今回のジャイアントエッグの日本への襲来は、地球の危機に当たると判断された。よって、連邦特別法第1条の一項を施行する!」

 世界政府は、十年前までは国際連合と言う名称で、頼りない組織だったが、連邦軍の軍事力をバックにパワーアップした。
 今では、全ての国に強制力を持っている。

 世界政府のモットーは、「蟲が攻めて来るのに、人間同士で争っている場合ではない!」と言うシンプルなもので、この解りやすさが支持されていた。


 さて、その現場を国会中継をしていた番組スタッフは、ビックリしていた。いきなり連邦軍の軍人が現れて、議長席で宣言を始めたから、かなり慌ててしまう。

 連邦特別法、第1条の一項は、以下の通り。

「連邦軍は、地球外の敵を撲滅する事を目的とした場合に限り、国、及び、国民を指揮下に置く事ができる。
また、国権、国民、あらゆる機関は、その権利を放棄し、連邦軍に従わなければならない。
また、連邦特別法 第1条一項が施行された後、その命令に従わない場合、個人、国家に関わらず、地球の敵とみなし、武力行使の権利を与えるものとする」

 ひとたび施行されれば、かなり自由な解釈で権利を行使できる。
 報道陣の中の一人、金原久美子は、先行の怪しさを感じていた。民意で選ばれない機関への権力の集中に、不安を覚えるのは当然かも知れない。


 連邦特別法の施行から二日後。



(ハジメの場合)

 ジャイアントエッグの落下地点は、埼玉県大里郡との予測が出る。つまり、特別訓練生養成所の近くにいらっしゃるようだ。それに備えて、僕たち訓練生は繰り上げ卒業する事になり、卒業式は明日と急展開になる。

 軍事下の事情に翻弄されるのは、敵に合わせる都合上、仕方がない状況と言えた。卒業後は、そのまま軍人としての初陣となる。とりあえず、鋼殻体ポッドの部隊、鋼殻戦闘隊に入るわけだが、小隊編成は班分けで決まる事になった。つまり、僕は小隊長に抜擢され、他の班員より階級が上がり、軍曹に決定した。
 班長で良かったのか? 悪かったのか? かなり急な編成だったから、仕方がない事情はある。

 その日は、明日の晴れ舞台で着る連邦軍の制服を貰い、ちょっと興奮気味になった。特に佐之助はオオハシャギしていた。

「蟻を片っ端から退治して、ハジメを追い越したいぞ」

 佐之助の発言には、相変わらず苦笑しか出ない。

「お前なら元帥も夢じゃないよ」

 とりあえず適当に言っておくと、途端にニコニコ顔になり、かなり分かりやすい。ほんと、佐之助は単純でいい。

「それにしても、小隊長とは大変やな。なるべく協力しますよ、ハジメ軍曹」

 圭介の言葉は助かる。新米隊長としては、上からの指導と、下からの協力が必要不可欠になる。

「ありがとう圭介。本当に頼むよ。自分がいま、いちばん恐れているのは、死ぬ事でもジャイアントでも無く、皆の期待に応えられない事だよ」

 僕の本音は、圭介にも、佐之助にも、そして、我関せずを貫いているススムの胸にも響いていると思う。それぞれが、本当は未知の不安と戦っている。だが、蟲の脅威から人類を守るため、不安や恐怖を乗り越え、道を切り開かなければならない。鋼殻戦闘隊が進む道は、一本しかない。


 次の日、訓練生全員が、最初に集まった講堂に勢揃いする。最初と違うのは、揃いの軍服を着ている点と、顔付と体付きで、約一年弱の養成所生活は、普通の男女を連邦軍の兵士に変えていた。もう、コンビニのレジ係りや、単純労働者には見えない筈。そして、壇上には、最初の時と同じように杉山校長が登場する。

 校長、感無量なのか? それとも、言う事を忘れたのか? かなり長く感じる時間が無言のままだった。
 そして、いい加減心配になった頃、唐突に話が始まった。
 
「最初に会った時の諸君は、死んだ魚の目をしていた! しかも、半分は腐りかけの」

 この人は、相変わらず声がでかい。そして、口が悪い。だが、丸顔でハゲ頭の校長は、どこか憎めない所があり、悪口を言っても許されるタイプだった。

「死んだ魚が活魚になったには、理由があるはず。その理由を考えてもらいたい」

 わりと素直な性格の僕は、早速シンキングタイムに入るが、その途端に答え。

「それは、諸君に目的意識ができたからだ!」

 杉山校長は、本当にせっかちだった。

「諸君は、生きている事に意義を見いだす事は、素晴らしいとは思わんか? これから起こる戦いは、全て意義ある勲章として、諸君らの人生を照らすだろう。子や孫が、鋼殻戦闘隊の戦いぶりを訊ねた時、諸君らは、愛する者や世界を守るため、ベストを尽くしたと誇れるだろうか? 死を恐れる必要は無い。それより、我欲からでは無い、崇高な目的を見失う事を恐れて欲しい。諸君、卒業おめでとう!」

 卒業式が終わると、祝賀ムードもそこそこに、すぐに来るべきいくさに備える。ジャイアントエッグの落下予想地点が近い事もあり、特別訓練生養成所が、作戦司令部になった。


 国道254を、続々と車両が続いて来る。すべて、ネイビーブルーの連邦カラーで塗られた軍用車両ばかりで、高台にある養成所からは、その様子が見渡せた。

 一般車は全く見当たらない。なぜなら、連邦軍の命令で、大里郡一帯の市民はすでに避難済みだった。だから、緑豊かなこの町は、軍事一色に変わる。

 そんな中、僕は鋼殻体に乗って車両のお出迎えをしていた。
 ふと、燃料を積んだタンクローリーが気になり、近付く。

「そこのタンクローリー、停車しろ!」

 ちょっと威嚇すると、車両は急停車し、なんか笑える。

「貴様、階級と姓名は!」

 鉄の巨人に脅され、タンクローリーの運転手は縮み上がる。

「はい! 小山博司二等兵であります」

「良い返事だぞ、ヒロシ」

 鋼殻体のハッチを開け、胸のコックピットから手を振る。それを見て、ヒロシはビックリしていた。その顔は、ヤツの最高の黒歴史として讃えたいほど面白い。ヒロシとは、徴兵検査以来の再会だった。

「ハジメでも、鋼殻体に乗れたんだ」

 ヒロシの失礼な発言は、ちょっと腹立たしい。

「連絡しただろ!」

「いや、不適合で落第したのかと……。いや、何にしても良かった。おめでとう」

「ありがとう。ところで、何を積んでいるんだ?」

 ヒロシが運転する車両は、装甲と武装を施して強化したタンクローリーだった。燃料を入れるタンクの部分に、「M A T U」と赤く書いてある。

「鋼殻体のオッパイだよ。母ちゃんが恋しくなったら来なよ。ハジメ……」

「軍曹」

 旧友ではあるが、階級差はわきまえているようで、一人前に敬礼してきた。

「斎藤 一軍曹。失礼いたします!」

 話しは尽きないが、長話もできない。博司の車両は、所定の場所へ移動した。
しおりを挟む

処理中です...