ヒューリアン 巨人の惑星

雨川 海(旧 つくね)

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2113年 ハジメの場合

☆出撃せり☆

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(ハジメの場合)

 訓練生活も半年が過ぎ、かなり軍人らしくなって来た。そう思えるのは、自分に自信が付いてきたからだろう。
 最初は右も左も解らず、戸惑う事ばかりだった。
 訓練の厳しさもさる事ながら、規則正しい生活にも慣れが必要になる。もっとも、規則正しい生活には、特に佐之助が苦労していた。
 今まで、よほど自堕落な生活をしてきたのか? なかなか馴染めないようで、ピリッとしない。かと言って面倒をみなければ連帯責任が待っているので、見放す訳にはいかなかった。

 ところで、佐之助の他は、みんな手が懸からない。ススムは、極端に無口だが作業はきっちりこなすし、圭介は何でも人より早い上に、何をやらせても上手い。何はともあれ、訓練は順調に進んでいた。
 そして、それを待っていたかのように、実戦の機会が近付きつつあった。

 訓練生養成所の食堂には、50インチのテレビモニターがあるのだが、点いていた試しがなかった。それが、昼食時にいきなり点灯し、ニュースが流れ始めた。
 あまりに唐突なできごとに、心霊現象かと勘違いする。
 それを見て、目の前の圭介が容赦なく笑うので、表情で軽く抗議したが、本人には通じない様子。

 他の班員はと言うと、ススムは黙々と「食べる」作業に没頭中で、佐之助は自分と同類なので、笑うどころじゃなかった。


 そんな時、教官の声が響く。
「食べながらでいい。ニュースに注目!」

 ニュース映像は、月面の様子が映っていて、画面の中央には、巨大な卵型の物体があり、無数のジャイアントが動き回っている。

 荒涼とした大地に、不自然なほど巨大な卵が、存在を誇示している。その姿は、暗黒空間へ向かって背伸びをしているようだった。

「これ、ジャイアントエッグ?」

 疑問に答えるように、アナウンサーが画面の向こうから解説する。

「これは、いま現在の月の映像です。ジャイアントエッグが発射準備を調えているようです。専門家の話では、地球に向けて発射される確率が高いようです」

 当たり前の事を勿体ぶって言うアナウンサーに、佐之助が小声でツッコミを入れる。

「確率が高いじゃなくて、確実だろ! 今まで、中国、南米、オーストラリアに落下したんだから!」

 班長としては、普通にスルーしておく。テレビと会話する人は放っておく主義だし、佐之助のパスをアシストすると、とんでもない方向に蹴る事は解っていた。
 佐之助の怒りをよそに、番組は続く。

「今回は、何処に墜ちるのでしょう?」

 リクルートスーツも初々しい男性アナは、解説役のその道の権威に間抜けな質問をする。

「発射されてみないと何とも? ただ、射出数十秒後には、おおよその地域は特定できます。ジャイアントエッグの軌道は読みやすいのですよ。例えるなら、カヌーを漕いで海を移動する裸族みたいなものです」

 金縁眼鏡の宇宙物理学の権威は、アナウンサーを見下すような表情で解説した。
 その時、金縁イヤミの隣に座っていた年配の男性が、口を挟む。

「古代生物学の中山です。少しジャイアントについて言わせてください」

 そこで、突然テレビモニターがブラックアウトした。今度は、誰も心霊現象だとは思わない。

 僕は、中山教授が何を発言したのかが、凄く気になっていた。
「まさか、ジャイアントと話し合えば和解できる……。とか? さすがにそれはナシナシ。いや、ジャイアントだからアリアリ。う~ん、声に出したら圭介にバカにされそうなセンス。ミヤコなら受けるかな?」
 とりとめの無い事を妄想していると、教官から檄《げき》が飛ぶ。

「月面では、ジャイアントが地球進攻の準備を始めている。もしかすると、諸君らの初陣があるかも知れない。世界の為に戦えるように、覚悟を決めて欲しい!」

 教官の言葉は、胸に響いていた。戦争が現実に起こる事を、訓練生全員が実感する。
 それ以来、訓練生のみならず、教官の方も、いっそう真剣に訓練に励む。ピリピリした空気が、養成所全体に流れていた。


 そんなある時、久しぶりにミヤコと話す機会を得る。お互いに備品庫でばったり、と言うパターンだった。

「偶然だね」

 とりあえず無難な掴みを投入。相手の出方を窺う。

「うん、偶然だね」

 ミヤコの方はオウム返し。喜んで貰えているのか? そんな不安を抱きつつ、ミヤコを観察する。

 彼女は、出会った頃に比べて、だいぶ引き締まっていた。毎日の水泳の成果が表れ、ボディーラインが完璧になっている。顔も前より小顔になった感じがする。もっとも、その変化は自分にも訪れていた。体が逞しくなり、顔は精悍な感じに変わっている。

 健康な男女が、人気の無い備品庫で会うと言うのは、ちょっと怪しい展開だが、二人とも晩稲おくてな方なので、近況報告に流れてしまう。

「訓練の方はどう?」

 ミヤコの可愛らしい笑顔に見とれつつ、聞いてみる。

「一応、鋼殻体ポッドのパイロット。ちょっと愚図だから、前線は任せられないみたい。でも、リコ遺伝子の持ち主は、鋼殻体のパイロットからは外せないらしくて、狙撃部隊に入ってます」

 僕は、話し半分、ボディーラインの観察半分な感じで聞いていた。

「狙撃部隊って、あのバカデカイ銃を使う所? 前に、鋼殻体三機で運んでいるのを見た事がある」

「そう、それ。レールガン。観測手と狙撃手と助手の三機で行動するの」

「ミヤコは助手だろ?」

 この発言に、ミヤコは驚いた顔をする。この顔は、なかなか良い。

「なんで知っているの?」

「誰でも予想できるよ」

 ミヤコは、僕の失礼な言動に怒る様子もなく同意する。

「そうだね」

 相変わらず、おっとりしている。僕には、ミヤコの笑顔が眩しかった。 
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