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ちゃんと友達だ
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俺が午前中だけとはいえ学校をサボったことは親に知らされて、その日はこっぴとく叱られた。
次やったらお小遣い半年無しを言い渡されて、それは勘弁してくれと土下座してなんとか収まったから良かったけど。
毎朝のこととなった満員電車に乗って、ドア近くのどうにか収まりのいい場所を探す。
篁が乗ってくるのは一駅先だ。
都合よく合流出来るとは思っていなかったが、ソワソワと開く扉を見てしまう。
駅に着き、扉が開くのと同時に動く人波のなか、ひょこひょこ揺れるわたあめみたいな紫色の髪の毛が見えた。
「篁!」
思わずそう叫ぶと、わたあめがこちらを振り返る。
こんな頭のやつ、そうそう見間違えようがない。
どうにかその腕を掴んで近くに引き寄せ、なんとか壁が背になるように誘導すると、驚いた顔をしながら篁が俺を見てきた。
「け、健斗くん」
「はよ」
「お、はよ」
キョトンとしている篁を見るのは何度目だろう。見飽きないくらいには篁の顔は整っているのを再確認する。
「最初から俺んとこいたら学校まで辿り着けるだろ」
「──!、ふふ、そうだね」
小さく笑う篁にどきりとする。初めて会った時から、こいつの笑顔にはどうにも弱い。
思わず目を逸らして、動画広告を見るふりをする。ぶっちゃけこの動画広告もこっちにきて初めて見た。
「ところで健斗くん」
「ん?」
「壁際にエスコートしてくれたのは嬉しいんだけど、足、踏んでる」
「わ、わりい!」
何事もなく学校の最寄りに着いて、改札を抜ける。
電車の中では目を合わせて会話をしてくれていた篁の表情が、どんどん強ばっていくのが傍目にもよくわかった。
同じ学校の生徒が遠巻きにちらちらとこちらを見てくるのが嫌でも分かる。
何も後ろめたいことが無くてもこんな視線鬱陶しいのに、心身を傷つけられたままの篁は、きっともっとしんどかったんだろう。
「……離れて歩いた方がいいんじゃない」
「そういうのいらねぇって」
俯いたまま、浮かない声の篁を制する。
うん、と小さく頷いて、篁は俺の隣を歩き始めた。
自分を抱き締めるように右手で左腕に縋り、俯く篁の姿は胸が痛む。
「篁ってさ、星見たことある?」
「……それ、馬鹿にしてる?」
「だって都会ってさ、星全然見えねぇじゃん。俺マジでそれが寂しくてさ」
俺の言葉に篁の視線が少し上がる。
長めの髪の毛の間から、くりっとした少し色素の薄い瞳がこちらを見つめ返してきた。
「俺の地元で見える星、篁が思ってるよりずっと壮大でめちゃくちゃ綺麗なんだよ。俺んち山の上の方にあったから空が近くて」
「ふうん」
「何となくだけど、篁好きだと思うんだよな、あの星空」
「ふふ、何それ」
ガチガチに固まっていた篁の表情が少し和らいだ。
しかし。
「あや」
校門を目の前にした所で、篁が誰かに呼び止められる。
さっきようやく少し解れた篁の表情がまた強ばった。
声のする先には昨日俺に声をかけてきたイケメン、もとい、生徒会長の小野里櫂が居た。
「あや、会えて嬉しいよ。道中何も無かった?教室まで送ろうか」
人好きのする笑顔で近づいてくる小野里と距離を取るように篁が後ずさる。
小野里はまるで俺の事など視界に入っていないかのように篁だけ見ていた。
「ねぇあや、いい加減僕と一緒に登下校しようよ。その方が絶対にいい。あやの為に言ってるんだよ」
「いや……や、やだって言ったじゃないですか」
「あやには僕が必要だよ、ね、分かるよね」
この2人に何があったか、俺には全く分からない。
でもどこか怯えているような篁の様子と、昨日聞いたストーカー予備軍っていうのが脳裏を過って、思わず篁の腕を掴んだ。
「け、健斗くん!?」
「行くぞ」
足早に小野里の隣を通り去ろうとする瞬間、一際鋭い視線を感じた。
とても爽やかなイケメンとは言えないような視線を向ける小野里を無視して早歩きで校舎へ向かう。
下駄箱まで来て、小野里が追って来てないか見ながら上履きに変える。その間も篁の腕を離す気にはなれなかった。
「け、健斗くん、痛いよ、ねぇ」
「わりぃ、急ぐぞ」
「ね、待って、ちょっと!」
篁の上履きも出してやって、慌てて履き替える篁が脱ぎ捨てたスニーカーも放り出して駆け出す。
どこか、誰も来ないような所、誰にも見つけられない所に行かなければ。
「健斗くん、ちょ、どこ行くの、ねぇってば!」
「わかんねぇ!」
「はあ?!」
「誰も居ねぇとこ!」
すれ違う生徒達が皆俺たちを見ている。決して心地よくない視線の群れから逃れる隙は見当たらない。篁は、こんな中にずっと居たのか。
「健斗くんっ」
「お、わっ」
今まで聞いた事のないような大きな声で篁が俺を呼ぶ。
驚いて振り向くと、今度は腕を掴んでいた手を剥がされて、そのまま手を引かれた。
「こっち」
踵を返した篁は、俺を引き連れて校舎と校舎を繋ぐ渡り廊下まで行くと、上履きのまま外に飛び出して行った。
視聴覚室や美術室といった特別教室がある特別棟の裏側までいき、そこにあった非常階段を登っていく。
木陰になっているそこは薄暗くて夏なのに妙に涼しい。
ともすれば不気味だなと思うような場所なのに、階段を踏みしめる篁の一歩には校門前で見たような怯えはなかった。
「着いた」
たどり着いたのは特別棟の屋上で、篁は立ち入り禁止と書かれた札のある柵をひょいと越えていった。
「おい、いいのかよ」
「知らない。でもこれで健斗くんもサボりの共犯」
悪戯っぽく笑う篁の頬が赤くなっている。さっき走ったからだろうか。
少しだけ躊躇って、俺の腰元までしかない柵を超えると、両手を篁に掴まれた。
「っはは!俺、生徒会長から逃げきれたのはじめて!」
心底楽しそうに篁が笑う。今まで見たどの表情よりも可憐で、生き生きとしていて、これから初夏を迎えようとする陽射しに照らされるわたあめ色の髪の毛は、きらきらの飴細工みたいだった。
「すごいね、健斗くん。健斗くんはいつもこうやって俺を逃がしてくれるんだ」
そう言って小首を傾げる様は、無垢な少女のようにあどけない。体温が少し上がるのが分かった。
「逃げ切れたって、ここマジで居ていいのか?いつもなんかあった時保健室いるってんなら、そっちのほうが」
「保健室なんて行ってたらきっと捕まってたよ。それに、あの様子じゃしばらく粘着してくるかもだからここで良いの」
篁は少し歩いて貯水タンクの影に腰掛ける。足を投げ出して座る篁と少し離れた隣に俺も座り込んだ。
「ここ、多分俺以外誰も知らないんだ。中等部の時、たまに抜け出してきてた」
「中等部?……って、うわ、ここ目の前なんだな」
校舎の裏を敷き詰めるように聳える木立の向こうに学院の中等部校舎と広いグラウンドが見えた。
塀で隔ててる訳でも無いから、来ようとは思えばすぐに来ることは出来るだろうが、あの広いグラウンドを越えてくるのは一苦労だろうなと想像がつく。それでなくとも、高等部と中等部の敷地には、結構た高低差があり、中等部の教室からここまで来るには階段もないような坂を登ってくるしかないのだ。
「わざわざこっちまできてサボってるなんて、教師もだれも思わないでしょ?」
「お前……結構やるな」
「ふふ……でも、来たのは久しぶりだけどね」
篁の声のトーンが少し落ちる。
隣を見ると、篁は寂しげな人形のような無表情で中等部の方を眺めていた。
「……篁?」
「……俺をここで見つけてくれたの、先生だけだったんだ」
「先生?」
「…………」
問い返しても、篁からは何も返ってこない。
ゆっくりと篁の視線が沈んでいく。少し強い風が吹いて、飴細工の髪の毛たちが靡いた。
「……なんで、健斗くんにはこんなに喋っちゃうんだろう」
視線は下を向いたまま、篁が呟くように言う。
そのまま体勢を体育座りの形にかえた篁は、また中等部の方に視線をやった。
「ここにだって、来るつもり無かったのに」
「……知らねぇよ、俺はお前に着いてきただけなんだから」
「うん、確かに……そうなんだけどね」
歯切れの悪い返答をする篁から視線を外して空を見上げる。
抜けるような青は思ったよりも近くにあるように感じた。
吹き抜ける風が少しずつ上がった体温を冷ます。まだ空気は春のままだ。
「ねぇ」
篁の声が聞こえるのと同時に、制服の裾がきゅ、と掴まれる。
返事をする代わりに視線をやると、少し下から覗き込むように篁が俺を見ていた。
「…………俺の話、その……ちゃんと、他のことも全部話しても、友達でいてくれる?」
眉を八の字に下げてそう言う篁の表情には、また不安と怯えが見え隠れしていた。
頷いて、ポケットから取り出したスマホに志村の番号を表示させる。
「篁、一瞬だけ待ってて」
「え、うん……?」
電話をかけると2コール目で元気な声が聞こえてきた。
『おー!どした?』
「志村悪い、ホームルームとあと一限、俺保健室かトイレにいることにしといて」
『お?なんだよまたサボりか?』
「ちょっとな」
『しゃあねぇなぁ、清水は下痢ですって言っといてやるわ』
「要らんことはいうなって」
ゲラゲラ笑う志村の声が思ったよりもデカくて思わずスマホから耳を離す。
もう切っちまおうと思って声を上げる前に、志村が呟いた。
『頼んだぜ』
なんの事とは言われなかったが、何を意味しているかは直ぐにわかった。
「おう」
通話を切り、篁に向き直る。
突然の俺の一挙一動を不思議そうに見ていた篁を真っ直ぐ見すえた。
「志村に頼んだからこれでサボりにはならない。ここならもう誰の目もないし、俺はお前の何を知ったとしても、お前の味方だし、ちゃんと友達だ」
まあるく見開かれた篁の目は直ぐに細くなり、泣いてしまいそうな、でもとても嬉しそうな表情で、篁は頷いた。
次やったらお小遣い半年無しを言い渡されて、それは勘弁してくれと土下座してなんとか収まったから良かったけど。
毎朝のこととなった満員電車に乗って、ドア近くのどうにか収まりのいい場所を探す。
篁が乗ってくるのは一駅先だ。
都合よく合流出来るとは思っていなかったが、ソワソワと開く扉を見てしまう。
駅に着き、扉が開くのと同時に動く人波のなか、ひょこひょこ揺れるわたあめみたいな紫色の髪の毛が見えた。
「篁!」
思わずそう叫ぶと、わたあめがこちらを振り返る。
こんな頭のやつ、そうそう見間違えようがない。
どうにかその腕を掴んで近くに引き寄せ、なんとか壁が背になるように誘導すると、驚いた顔をしながら篁が俺を見てきた。
「け、健斗くん」
「はよ」
「お、はよ」
キョトンとしている篁を見るのは何度目だろう。見飽きないくらいには篁の顔は整っているのを再確認する。
「最初から俺んとこいたら学校まで辿り着けるだろ」
「──!、ふふ、そうだね」
小さく笑う篁にどきりとする。初めて会った時から、こいつの笑顔にはどうにも弱い。
思わず目を逸らして、動画広告を見るふりをする。ぶっちゃけこの動画広告もこっちにきて初めて見た。
「ところで健斗くん」
「ん?」
「壁際にエスコートしてくれたのは嬉しいんだけど、足、踏んでる」
「わ、わりい!」
何事もなく学校の最寄りに着いて、改札を抜ける。
電車の中では目を合わせて会話をしてくれていた篁の表情が、どんどん強ばっていくのが傍目にもよくわかった。
同じ学校の生徒が遠巻きにちらちらとこちらを見てくるのが嫌でも分かる。
何も後ろめたいことが無くてもこんな視線鬱陶しいのに、心身を傷つけられたままの篁は、きっともっとしんどかったんだろう。
「……離れて歩いた方がいいんじゃない」
「そういうのいらねぇって」
俯いたまま、浮かない声の篁を制する。
うん、と小さく頷いて、篁は俺の隣を歩き始めた。
自分を抱き締めるように右手で左腕に縋り、俯く篁の姿は胸が痛む。
「篁ってさ、星見たことある?」
「……それ、馬鹿にしてる?」
「だって都会ってさ、星全然見えねぇじゃん。俺マジでそれが寂しくてさ」
俺の言葉に篁の視線が少し上がる。
長めの髪の毛の間から、くりっとした少し色素の薄い瞳がこちらを見つめ返してきた。
「俺の地元で見える星、篁が思ってるよりずっと壮大でめちゃくちゃ綺麗なんだよ。俺んち山の上の方にあったから空が近くて」
「ふうん」
「何となくだけど、篁好きだと思うんだよな、あの星空」
「ふふ、何それ」
ガチガチに固まっていた篁の表情が少し和らいだ。
しかし。
「あや」
校門を目の前にした所で、篁が誰かに呼び止められる。
さっきようやく少し解れた篁の表情がまた強ばった。
声のする先には昨日俺に声をかけてきたイケメン、もとい、生徒会長の小野里櫂が居た。
「あや、会えて嬉しいよ。道中何も無かった?教室まで送ろうか」
人好きのする笑顔で近づいてくる小野里と距離を取るように篁が後ずさる。
小野里はまるで俺の事など視界に入っていないかのように篁だけ見ていた。
「ねぇあや、いい加減僕と一緒に登下校しようよ。その方が絶対にいい。あやの為に言ってるんだよ」
「いや……や、やだって言ったじゃないですか」
「あやには僕が必要だよ、ね、分かるよね」
この2人に何があったか、俺には全く分からない。
でもどこか怯えているような篁の様子と、昨日聞いたストーカー予備軍っていうのが脳裏を過って、思わず篁の腕を掴んだ。
「け、健斗くん!?」
「行くぞ」
足早に小野里の隣を通り去ろうとする瞬間、一際鋭い視線を感じた。
とても爽やかなイケメンとは言えないような視線を向ける小野里を無視して早歩きで校舎へ向かう。
下駄箱まで来て、小野里が追って来てないか見ながら上履きに変える。その間も篁の腕を離す気にはなれなかった。
「け、健斗くん、痛いよ、ねぇ」
「わりぃ、急ぐぞ」
「ね、待って、ちょっと!」
篁の上履きも出してやって、慌てて履き替える篁が脱ぎ捨てたスニーカーも放り出して駆け出す。
どこか、誰も来ないような所、誰にも見つけられない所に行かなければ。
「健斗くん、ちょ、どこ行くの、ねぇってば!」
「わかんねぇ!」
「はあ?!」
「誰も居ねぇとこ!」
すれ違う生徒達が皆俺たちを見ている。決して心地よくない視線の群れから逃れる隙は見当たらない。篁は、こんな中にずっと居たのか。
「健斗くんっ」
「お、わっ」
今まで聞いた事のないような大きな声で篁が俺を呼ぶ。
驚いて振り向くと、今度は腕を掴んでいた手を剥がされて、そのまま手を引かれた。
「こっち」
踵を返した篁は、俺を引き連れて校舎と校舎を繋ぐ渡り廊下まで行くと、上履きのまま外に飛び出して行った。
視聴覚室や美術室といった特別教室がある特別棟の裏側までいき、そこにあった非常階段を登っていく。
木陰になっているそこは薄暗くて夏なのに妙に涼しい。
ともすれば不気味だなと思うような場所なのに、階段を踏みしめる篁の一歩には校門前で見たような怯えはなかった。
「着いた」
たどり着いたのは特別棟の屋上で、篁は立ち入り禁止と書かれた札のある柵をひょいと越えていった。
「おい、いいのかよ」
「知らない。でもこれで健斗くんもサボりの共犯」
悪戯っぽく笑う篁の頬が赤くなっている。さっき走ったからだろうか。
少しだけ躊躇って、俺の腰元までしかない柵を超えると、両手を篁に掴まれた。
「っはは!俺、生徒会長から逃げきれたのはじめて!」
心底楽しそうに篁が笑う。今まで見たどの表情よりも可憐で、生き生きとしていて、これから初夏を迎えようとする陽射しに照らされるわたあめ色の髪の毛は、きらきらの飴細工みたいだった。
「すごいね、健斗くん。健斗くんはいつもこうやって俺を逃がしてくれるんだ」
そう言って小首を傾げる様は、無垢な少女のようにあどけない。体温が少し上がるのが分かった。
「逃げ切れたって、ここマジで居ていいのか?いつもなんかあった時保健室いるってんなら、そっちのほうが」
「保健室なんて行ってたらきっと捕まってたよ。それに、あの様子じゃしばらく粘着してくるかもだからここで良いの」
篁は少し歩いて貯水タンクの影に腰掛ける。足を投げ出して座る篁と少し離れた隣に俺も座り込んだ。
「ここ、多分俺以外誰も知らないんだ。中等部の時、たまに抜け出してきてた」
「中等部?……って、うわ、ここ目の前なんだな」
校舎の裏を敷き詰めるように聳える木立の向こうに学院の中等部校舎と広いグラウンドが見えた。
塀で隔ててる訳でも無いから、来ようとは思えばすぐに来ることは出来るだろうが、あの広いグラウンドを越えてくるのは一苦労だろうなと想像がつく。それでなくとも、高等部と中等部の敷地には、結構た高低差があり、中等部の教室からここまで来るには階段もないような坂を登ってくるしかないのだ。
「わざわざこっちまできてサボってるなんて、教師もだれも思わないでしょ?」
「お前……結構やるな」
「ふふ……でも、来たのは久しぶりだけどね」
篁の声のトーンが少し落ちる。
隣を見ると、篁は寂しげな人形のような無表情で中等部の方を眺めていた。
「……篁?」
「……俺をここで見つけてくれたの、先生だけだったんだ」
「先生?」
「…………」
問い返しても、篁からは何も返ってこない。
ゆっくりと篁の視線が沈んでいく。少し強い風が吹いて、飴細工の髪の毛たちが靡いた。
「……なんで、健斗くんにはこんなに喋っちゃうんだろう」
視線は下を向いたまま、篁が呟くように言う。
そのまま体勢を体育座りの形にかえた篁は、また中等部の方に視線をやった。
「ここにだって、来るつもり無かったのに」
「……知らねぇよ、俺はお前に着いてきただけなんだから」
「うん、確かに……そうなんだけどね」
歯切れの悪い返答をする篁から視線を外して空を見上げる。
抜けるような青は思ったよりも近くにあるように感じた。
吹き抜ける風が少しずつ上がった体温を冷ます。まだ空気は春のままだ。
「ねぇ」
篁の声が聞こえるのと同時に、制服の裾がきゅ、と掴まれる。
返事をする代わりに視線をやると、少し下から覗き込むように篁が俺を見ていた。
「…………俺の話、その……ちゃんと、他のことも全部話しても、友達でいてくれる?」
眉を八の字に下げてそう言う篁の表情には、また不安と怯えが見え隠れしていた。
頷いて、ポケットから取り出したスマホに志村の番号を表示させる。
「篁、一瞬だけ待ってて」
「え、うん……?」
電話をかけると2コール目で元気な声が聞こえてきた。
『おー!どした?』
「志村悪い、ホームルームとあと一限、俺保健室かトイレにいることにしといて」
『お?なんだよまたサボりか?』
「ちょっとな」
『しゃあねぇなぁ、清水は下痢ですって言っといてやるわ』
「要らんことはいうなって」
ゲラゲラ笑う志村の声が思ったよりもデカくて思わずスマホから耳を離す。
もう切っちまおうと思って声を上げる前に、志村が呟いた。
『頼んだぜ』
なんの事とは言われなかったが、何を意味しているかは直ぐにわかった。
「おう」
通話を切り、篁に向き直る。
突然の俺の一挙一動を不思議そうに見ていた篁を真っ直ぐ見すえた。
「志村に頼んだからこれでサボりにはならない。ここならもう誰の目もないし、俺はお前の何を知ったとしても、お前の味方だし、ちゃんと友達だ」
まあるく見開かれた篁の目は直ぐに細くなり、泣いてしまいそうな、でもとても嬉しそうな表情で、篁は頷いた。
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