悲偽

弾風京作

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思郷

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葬儀から帰って来て、ようやく落ち着いた頃。
突然タクミが部屋に乱入して来た。

ヤツとは二年前にあるゲイバーで知り合った。
上京しても友人も居ないでいたオレは
寂しい気持ちの隙間にすんなり入って来たヤツと
弾みで付き合うようになった。
生まれは四国。
大阪の有名な大学を卒業して、IT関係の会社で
『誰にも任せられない仕事をしている。』
そのようなことを言っていた。
給料は見合った額をもらっているが
『俺の能力ならもっと上を目指せる。
そしたらマンション生活だな。』
とも豪語した。
田舎者のオレにヤツを判断するには能力不足だが、
リスペクト出来る先輩達に比べると
どこか程遠いように感じていた。

次第にヤツの態度に疑問を持ち始めた。
初めにもっと店の友人などに聞けばいい問題だったが、
当初はそんなヤツの言葉を否定する事すら頭には無かった。
「今度タクミの住んでるとこが見たい」
一度そう頼んでみたが
『住んで居るとこはアパートの一室で会社の寮の扱いなんだ。』
それで、
『だから他人は部屋には入れられないんだ。』
そういう理由で場所や最寄りの駅さえも教えられなかった。
そして、最近ではこの部屋に入り浸るようになった。

ある日帰宅すると、ゲームの機器がTVにつながったままで
アルコールの缶類や菓子袋が散乱していてた。
傍らにはヤツの眠りこける姿があった。
平日にも関わらず仕事にも行ってないその様子に不信感を覚えた。
しまいには金をせびるようにもなった。
最近では、借金しながらも店を渡り歩いてるという噂も耳にした。
徐々にウソを纏ったトンデモナイ男だ、と気づくが遅かった。
『貸してくれ』という割には全然返してくれない金。
うざくなり始めた現在だった。

そのタクミが部屋に入ってくるなりオレを殴って来た。
不意の行動に
「何だよ!」
言葉が乱れた。
「何だ、だと?帰って来たのも知らせずに飲みに行きやがって。」
帰って来たのを知らせなかったのは会いたくなかったから。
外に飲みにも出てはいなかった。
「飲みに?行ってねぇよ。」
「嘘を付け、新橋に行ってただろ。」
「新橋?」
「ジュンが、新橋に出来た新しい店に行ったらお前が居て、
挨拶したのにキョトンとされて他人の振りされたって言ってたんだぞ。」
「新しい店?知らねぇよ。
ジュンちゃんともしばらく会ってないし。変な事言うなよ。」
ジュンちゃんとは共通の友人で、
馴染みの店でたまに会って談笑する仲であった。
「そうか分かった。そこまで言うならジュンに電話するからな。
やましくなかったら出れるよな。」
「何だよしつこいなぁ。じゃあ掛けろよ。」
タクミは携帯を取り出して操作した。
「ジュン?俺タクミ。耕太のヤツ新橋に行ってねぇってよ。
うん。うん。ちょっと待って。」
嫌な目つきで携帯を突き出した。
「ジュンちゃん?耕太です。
オレ新橋の店になんて行ってないんだけど。
・・うん。23日?父の一周忌で田舎に帰ってた。
・・髪形?変わってないよ。
・・ホントだって。
ん?これから?いいよ、おいでよ。」
ジュンちゃんも信じられないって。どういう事だろう。
だけど会えば分かるらしい。
招き入れることにした。

ジュンちゃんを待ってる間、タクミとは一言も口を利かなかった。
玄関のチャイムが鳴り
『アタシ・・』ジュンが顔を出した。
「こんばんは。ヤダもう、もめてんのかしら?
あらっ!どうしたの耕太、その顔!
ちょっとタクミ、あんた何してんのよ?!」
部屋に入るなり、顔のアザにジュンは驚きを隠さなかった。
「コイツが新橋に居たって言ったよな。」
「言ったわ。言ったけど、ほんの報告のつもりだったのよ。
貴方達の仲をどうのうって気持ちは無かったの。信じて。
ただ、挨拶したのに無視されたような形になったから・・
ってあら、おかしいわね。耕太、以前と変わりないのね。
店では両脇を刈り上げてずっと短めな髪形だったわ。
イメチェンかと思ったけど、
こんなに早く伸びたりしないわよねぇ・・。」

「酔ってたからじゃない?」
オレはジュンちゃんに問うた。
「いいえ。オープンという事で飲み放題だったから、
そこで酔おうと、パンプとシラフで行ったんだもの。」
まじまじとオレの顔を見て
「ヤダぁ。ホント誰だったのかしら。
他人の空似にしてはビックリするくらい似てたわよ。」

「そいつはそれからどうしたの」
自分に似た存在の行動に少し興味を示した。
「ずっと一人だったみたい。
アタシたちはチーママ相手に楽しくしてたけど、
会話に入って来なかったし、いつの間にか消えてた。
パンプに『耕太だったよね。』って聞いたけど、
『挨拶したのに目が合っても無視されたね。
あんな奴じゃないのに』って不思議がってたのよ。」
「二重人格だったりしてな。」
タクミが口を挿んだ。
「よしなさいよ。そんなことあるわけないじゃない。
耕太ごめんね。間違いだったようね。」
どうやら確認無しの人違いのようだ。
迷走してる事態に溜め息をついた。

「ね、兄弟とかは居ないの?」
「アニキが居るよ。」
「そう・・ じゃあ、その方でもないわね。 
ねぇ、顔腫れて来たわよ。
冷やした方がいいんじゃない?」
「あぁ、うん、ありがと」
「あの、アタシこれで帰るね。じゃあね」
確認を済ませたジュンは
気まずさからか、慌ただしく帰って行った。

相変わらず黙り込んでいるタクミは謝りもしない。
「ねぇ、タクミも帰ってくれないかな。
そして、合鍵返してくれよ。
もうここに来て欲しくないんだ。」
限界が言葉に出た。
「人違いだったからって勝ち誇ったように言うなよ。」
その言葉に、タクミに対しての嫌気が決定的になった。
「もういい加減にしてくれ!」
睨みつけるオレに
「なんだよ。ちょっと誤解したからって。
そんな顔したって怖かねぇよ。へっ、偉そうに!」
そう吐いてドアを飛び出して行った。
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