悲偽

弾風京作

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思郷

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納骨式、四十九日、新盆、一周忌・・
亡き父を弔う儀式は思った以上に早く訪れた。
お陰で兄に会う機会も増えた。

一周忌のその日、
一年前とは打って変わって朝から雪がちらつき、
喪服にジャケットを羽織った。
オレの都合を優先して日程を決めてくれた修ちゃんは、
少し元気が戻った様子だった。
父には弟が居たが、娘2人を残しすでに天国に召されていた。
行き来するほどの親戚ではなかったが、
この従姉妹達が唯一の血縁関係であった。
我等兄弟と彼女達を含めた4人は
寺で供養してもらい墓参りをした。

修ちゃんが前もって掃除を済ませた墓には、
意外にも多くの花が飾られ賑やかだった。
そんなところからも父の親交が見て取れた。
従姉妹の一人が
「ねぇ、この花束って名前が書いてある。
修二だって。知り合い?」
修ちゃんに尋ねていた。
『修二』
「あれ?ホントだ。修二って・・?」
それに気付いたオレは修ちゃんに聞いた。
修ちゃんは驚いたようにそれを見ていたが、
「知らないなぁ。どこか他の墓と間違えたんじゃないか」
どこかとぼけたように応えて、その話題を引きずらせなかった。
ただオレは、修一と修二、このあまりにも繋がりのある名前に
秘密めいた匂いを感じた。

墓参りの後、兄の知り合いの店で食事会となった。
夕方にはまだ早かったが
「おじちゃんの一周忌なんだから、
この時間から飲んでも罰は当たらないわよ。
おじちゃんだってお酒好きだったし、ほら、供養供養」
そう言って、従姉妹はビールをすすめて来た。
修ちゃんも
「オレも飲むから、オヤジを弔ってあげようぜ。」
そうして献杯した。
旨い料理にアルコールが進んだ。
たわいもない話題で従姉妹達と会談するも
「おにいちゃん達、もういい歳過ぎてるんだから
早くお嫁さんをもらいなさいよ。
わたし達だって赤ちゃんの顔を見たいんだから。」
そう説教した彼女達は、
料理を空にすると早々に帰って行った。

帰宅と共に堅苦しい喪服姿は解放された。
「疲れただろ?風呂を浴びてサッパリするか。」
「オレはシャワーだけでもいいよ。」
「いや、お湯を溜めるからのんびり入れよ。
こんな天気になって寒かっただろうし。」
「うん。じゃあオレが準備するよ。」
「そうか。じゃあ俺は明日の店の準備でもしておこうかな。」
「明日店開くの?」
「当たり前だよ。
今日は一周忌を理由に休ませてもらったけど、
客にはそんなの関係ないからな。」
そう言いながら店の方へと移動していった。

先に風呂をもらってくつろいでいると、
準備を終えた修ちゃんが
「まだ飲めるだろ?」
缶ビールをテーブルに置いて風呂に向かった。
その背中にオレには気がかりなことが一つあった。
『修二・・』
墓に供えられていた花を思い出していた。
『修ちゃんは修一で長男・・修二って、
まさか兄弟だったりしないだろうか?』
オレが生まれる前の歴史には何か秘密があるのかも。
勝手に想像するが、その域を出ることはなかった。

「ふぅ、さっぱりした。俺も飲もうかな。」
風呂から出て来た修ちゃんはホッとした顔を見せた。
「お疲れ様でした。全て任せちゃってごめん。」
「いいんだ。耕太はお客様だ。当たり前だ。気にするな。」
「お客様・・か」
オレが複雑な顔でそこを繰り返すと
「いやいや、変に誤解するなよ。お前の家だよここは。
でも、せっかく東京からやって来てくれたから・・」
慌てぶりが可愛くて、オレは軽く噴き出した。
「おい、もう!」
からかわれたと悟った修ちゃんは
そう言ってビールで喉を鳴らした。

しばらくそうして一日を労わった。
寝るには早い時間だったが、
アルコールの酔いと疲れは眠気を誘った。
客間を利用してたオレだったが、
寒さを理由に暖房費がもったいないから、と
修ちゃんの部屋に布団を並べた。
「小さかった頃、こんな寒い夜には
いつも修ちゃんの布団に入り込んでたよなぁ。」
隣の修ちゃんに懐かしく思い出を話した。
「耕太は悪戯っ子でな。入って来ては俺をくすぐって。」
修ちゃんも懐かしさに小さく笑った。
「じゃあ、昔に戻って入っちゃおうかな。」
半分冗談で掛布団をめくって入ろうとした。
驚く事に拒否されなかった。
むしろ、その腕の中に昔のように迎え入れられた。
石鹸の匂いと共に、修ちゃんの大人の匂いがした。
優しく抱いてくれてるこの状況に
戸惑いと懐かしさが渦を巻く。

すると、その腕が急に強く抱き着いて来た。
そして、修ちゃんの嗚咽が聞こえた。
「えっ・・」
オレの頬の横で涙を流す修ちゃんが居た。
しばらくそのままにした。
「悪ぃ。嫌われていた理由が分からず、どう接したらいいか迷ってた。
けど、こうしてまた俺の腕の中に居るのが嬉しくてな。すまない。」
「いや・・」
オレが修ちゃんを嫌っていた?
そうか、オレの今まだの態度はそんな誤解を生むよな。
だけど、だけど、本当の理由なんて言えない。
オレは軽く脂肪の付いたそのガタイを強く抱いて
「違う。違う。オレ修ちゃんを嫌ってなんかない。」
それ以上は言えなかった。
オレは離れたくなくて力を入れた。

どうやらこのまま眠ったらしい。
離れがたい気持ちであったが、
朝に気まずい思いをしそうで
そっと修ちゃんの布団から自分の布団に戻った。
その腕には二度と帰れないだろうが、
これだけで充分だと自分に言い聞かせた。
それ以上の関係にはなりえるはずがないのだった。
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