黒魔女リリィは世界を壊したい!!〜転生者たちの治める国で呪われた魔女と騎士〜

tanakan

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第二話 転生者たちの住む白い街

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 リリィが僕の袖をそで握り、足へ力を入れてねる。わずかに跳ねて振りかぶった杖先で地面を叩く。ズボンの裾は揺れず風を感じることはない。

 それだけだったはずなのに視界をおおっていたはずの土塊が離れていく。

 離れるどころか、まばたきをする間で、通りに立ち並ぶ店の軒先がはるか足下へ移動した。

 リリィの魔法。日常生活を豊かにする程度の魔法と、事象じしょう改変かいへん。ただ素早く逃げ出すための魔法。やはり、途方もないエネルギー量だ。世界の法則を無視している。

 剣を下ろしたロゼが、僕たちを見上げていた。後ろに控える他の騎士たちも、腰の剣に手を当てている。ロゼは片手を広げて騎士たちをせいしていた。

 空に浮かぶ雲が近くに見えるほどに飛び上がり、リリィはせい! とかけ声と共に足で空をると、次は眼下に見える森が近付いてくる。

「おろしてくだせえ! あっしは高いところが苦手で!」

 シュバルツがバタバタと手足を震わせ、リリィの視線は背後を向いていた。視線の下にはリリィの家が見える。都市はもはやかすむほどに遠くにあった。

「どうやって着地するんだ!? これほど速度がついてしまったら止まれないぞ」

 大丈夫。とリリィは口角を広げて、得意げにうなずいた。

「私の名付けた残身ざんしんの魔法は、他の魔法とは違うの。残像ざんぞうを残すほどの速度で動き、一瞬で止まれる。すごいでしょ!?」

「地味な魔法だが・・・すごく強力だ。ことわりの外にある」

 ことわりぃ!? リリィはすでに視界の端で流れ始めた森を横目に、杖を強く握る。体が薄い皮膜ひまくに包まれているような、奇妙な感覚だ。目には見えないはずなのに、リリィから流れ出した皮膜が僕へ流れている。

 僕たちはリリィの言った通りに地面へと着地し、リリィはピタリと立ち止まるのが見えた。しかし僕たちに与えられたエネルギーは留まるどころか勢いを増す。

 へっ? とリリィが首をかしげるのは見えたが、すぐに視界から離れた。

 シュバルツは僕の体を抱きかかえ丸まる。与えられた速度と質量で身を打つ木々は倒れ、土煙つちけむりに視界が包まれる。森にわだちを作りつつ、体に強い衝撃を感じた時、やっと僕たちは止まった。

 振り向くと頭をさするシュバルツの後ろに、家ほどある大きな岩石がくぼみを作っている。

「やっぱり人虎は人よりも優秀で頑強だ。人だったら粉々だよ」

「それだけがあっしの取り柄ですから。しかし魔女の魔法は凄まじいもんですな」

 削られた草木は土をあらわにして、僕たちが飛ばされてきた道をしるべにして戻る。・・・魔法と言えるのだろうか。

 とにかくリリィに苦言をていさねば。僕が立ち上がるとシュバルツが、じっと手のひらを眺めていた。手に握られていたはずの人形がなくなっている。

「さぁ。旦那。魔女さまのところに急いで戻りやしょう。白騎士がこのままだとは思えねえ。身を隠さねば」

「そうだな。騎士たちは目的を達成していない。急ごう」

 シュバルツは僕を背に乗せて走りだす。両手を前に出して四足獣しそくじゅうにあるべき本来の速度で木々を避け、小川を飛び越し地面に刻まれた轍を駆けた。

 しばらくして森が開け、リリィの住む小屋にたどり着く。シュバルツは立ち止まり体を弛緩させ、背中から降りた僕もシュバルツの隣に立ち、手足の力が抜けた。

 リリィの家は燃えていた。井戸は破壊され、小さな田畑には巨大な爪でえぐられたかのような跡がある。リリィは杖を頼りの片膝を付き、周囲には田畑をえぐったのと同じ傷跡が地面に刻まれていた。リリィの向こう側に白銀色の甲冑が並んでいる。

「リリィ!」

 僕は駆け出しリリィの隣に腰を下ろす。肩を出すとリリィはうつむき、瞳を濡らしていた。つややかな黒髪は乱れ、頬に張り付いている。

 シャツの胸元が涙で濡れる。ズボンの裾をぎゅっと握り、リリィが口元だけを動かす。視線は僕よりもずっと遠くへ置かれていた。

「どうしてまたこんな風になっちゃうのかなぁ。もう嫌だよ・・・」

 リリィは力なくうつむいたままひとり言のようにつぶやいた。怒りなのだろうか僕の背中には再び悪寒が走る。煮えたぎる心と違い、体はひどく冷えていた。

 なぜしいたげる? 力は存分にあるはずだろう? 才能もあるはずだ。持てる者であるはずなのに、なぜ持たざる者をあざけるのだ。
 
 かつての世界で僕を包んだ視線と変わらない。そして僕には力がない。沸々ふつふつと胸が温度を増して、反比例して背中が冷えていく。

 甲冑の一団が横並びとなり、数は三十を超えていた。一団の中央にはロゼがいた。剣を両手で地面に突き刺し、僕の方を見ようとはせず視線をそらす。

 隣には同じ甲冑に身を包み、縁のない丸眼鏡と豊かな栗毛くりげの女性がいる。

 そしてふたりに挟まれるようにして、少年が立っていた。逆手に持った背丈ほどある大剣を地面に刺している。

 幼い顔立ちにはそぐわない、口角を片方だけ上げる邪悪な笑み。グリーンの瞳と黄金色の髪は耳元で揺れている。それはまるで絵物語の勇者だった。

 あつらえたような勇者の姿が、僕にはどうしようもないほどみにくく見えた。

 少年は大剣を静かに持ち上げ肩へかけ、演技かかった仕草で息を吐く。

 まるで勇者といった仕草で、僕たちを見据みすえていた。
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