3 / 13
第3話 無礼に千万
しおりを挟む
街を出て、舗装された砂利道を半日ほど歩いて、ようやく道が途絶える。広々とした草原が広がり、雑草が腰のあたりまで伸びている。僕は村へと続く獣道を、むせかえるような緑の香りに包まれて歩いた。
体力だけはあるのだから、疲れはしない。しかしこうも身をもたげながら歩かざるを得ないのは、心がひどく疲れているからだろう。
「母さんにどう説明しようか」
僕を送り出した母は、期待に満ちた瞳をしていた。きっと慰めてくれるのだろうけど、落ち込むだろうな。
そう考えていると、足先にグニャリとした柔らかな感触があった。
魔獣の屍体だろうか、と思いながら、先ほど駆け抜けていった勇者一行を思い出す。草木を払うと、黒い塊があった。黒くつやつやとしたローブに包まれており、頭部からは白い肌が見える。
それは少女に見えた。
「大丈夫ですか。あの、蹴ってすみません!」
僕が少女を抱え上げると、頭を包むローブがはだける。白い肌はどこか病弱に見え、首元では赤い玉石のネックレスが揺れていた。隙間から見える髪は長く、空を溶かしたようなまだらの色をしていた。
そして小ぶりな鼻先に木苺ほどの唇があった。そして少女の瞼がゆっくりと開かれる。右目は青く、そして左目は燃えるように赤い変わった瞳をしている。
まつげは陰を落とすほど長く、昔に森で見たきらびやかな鳥を僕は思い出した。
「無礼千万!! 妾がいかに美しいとはいえ、慎ましい体に足先で触れるなど、天罰が下るぞ! むしろ落とす」
「気にはしないで大丈夫。魔獣の屍体と思っていたから他意はない」
「ようし決めた。おぬしに天罰を下す。絶対に落とす!」
少女は両手を僕の首へと伸ばした。病弱に思えるほどに細く頼りない。そして少女の両手は僕の首に到達するまでに、力を失った。
異様な装いではあるものの、おそらく道に迷った少女なのだろうか。街ではあまり見たことがない。ともかく放っておくわけにはいかないと僕は少女を抱える。そして獣道を駆けた。
抱える少女の体は骨ばっていてひどくやせていた。ただ冷たい体の奥から、陽に手をかざした時のように、暖かさが両手に伝わってくる。
「くそう。こんな男に妾の肉体が触れられておる。屈辱だ。なんたる恥辱」
手足に力が入らなくても少女の口は元気なようだと僕は安心する。
「ねぇ。キミの名前は? どこから来たの?」
獣道を走りながら僕は尋ねる。しかし少女は僕から顔を背けて黙り込む。
まだまだ幼いから照れているんだな。僕がそう考えた瞬間、稲光が走り、雷鳴が轟いた。
空気の振動で僕の肌がしびれた。足を止め、飛び退くと目の前で雷光が光った。驚いて見やると、草木は燃え、むき出しになった地面が焼け焦げていた。
「これはまさか、キミの天罰か?」
僕が問うと少女は首を横に振る。
「阿呆。妾自身にも天罰が当たるだろうが」
少女がバタバタと手足を震わせる。すると、足音と金属の擦れる音がした。僕が振り向くと、大斧を掲げた戦士が歩み寄ってくる。
隣には青い甲冑の男がいて、街で僕を押しのけた勇者だとすぐにわかった。整った顔立ちに金色の髪が目元にかかっている。彼は剣を引き抜き、切っ先を僕と少女に向ける。
体力だけはあるのだから、疲れはしない。しかしこうも身をもたげながら歩かざるを得ないのは、心がひどく疲れているからだろう。
「母さんにどう説明しようか」
僕を送り出した母は、期待に満ちた瞳をしていた。きっと慰めてくれるのだろうけど、落ち込むだろうな。
そう考えていると、足先にグニャリとした柔らかな感触があった。
魔獣の屍体だろうか、と思いながら、先ほど駆け抜けていった勇者一行を思い出す。草木を払うと、黒い塊があった。黒くつやつやとしたローブに包まれており、頭部からは白い肌が見える。
それは少女に見えた。
「大丈夫ですか。あの、蹴ってすみません!」
僕が少女を抱え上げると、頭を包むローブがはだける。白い肌はどこか病弱に見え、首元では赤い玉石のネックレスが揺れていた。隙間から見える髪は長く、空を溶かしたようなまだらの色をしていた。
そして小ぶりな鼻先に木苺ほどの唇があった。そして少女の瞼がゆっくりと開かれる。右目は青く、そして左目は燃えるように赤い変わった瞳をしている。
まつげは陰を落とすほど長く、昔に森で見たきらびやかな鳥を僕は思い出した。
「無礼千万!! 妾がいかに美しいとはいえ、慎ましい体に足先で触れるなど、天罰が下るぞ! むしろ落とす」
「気にはしないで大丈夫。魔獣の屍体と思っていたから他意はない」
「ようし決めた。おぬしに天罰を下す。絶対に落とす!」
少女は両手を僕の首へと伸ばした。病弱に思えるほどに細く頼りない。そして少女の両手は僕の首に到達するまでに、力を失った。
異様な装いではあるものの、おそらく道に迷った少女なのだろうか。街ではあまり見たことがない。ともかく放っておくわけにはいかないと僕は少女を抱える。そして獣道を駆けた。
抱える少女の体は骨ばっていてひどくやせていた。ただ冷たい体の奥から、陽に手をかざした時のように、暖かさが両手に伝わってくる。
「くそう。こんな男に妾の肉体が触れられておる。屈辱だ。なんたる恥辱」
手足に力が入らなくても少女の口は元気なようだと僕は安心する。
「ねぇ。キミの名前は? どこから来たの?」
獣道を走りながら僕は尋ねる。しかし少女は僕から顔を背けて黙り込む。
まだまだ幼いから照れているんだな。僕がそう考えた瞬間、稲光が走り、雷鳴が轟いた。
空気の振動で僕の肌がしびれた。足を止め、飛び退くと目の前で雷光が光った。驚いて見やると、草木は燃え、むき出しになった地面が焼け焦げていた。
「これはまさか、キミの天罰か?」
僕が問うと少女は首を横に振る。
「阿呆。妾自身にも天罰が当たるだろうが」
少女がバタバタと手足を震わせる。すると、足音と金属の擦れる音がした。僕が振り向くと、大斧を掲げた戦士が歩み寄ってくる。
隣には青い甲冑の男がいて、街で僕を押しのけた勇者だとすぐにわかった。整った顔立ちに金色の髪が目元にかかっている。彼は剣を引き抜き、切っ先を僕と少女に向ける。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜
まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、
専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活
現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。
しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。
彼は大陸一の富を誇る名門貴族――
ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。
カイルに与えられたのは
・世界一とも言える圧倒的な財力
・財力に比例して増大する規格外の魔力
そして何より彼を驚かせたのは――
彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。
献身的なエルフのメイド長リリア。
護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。
さらに個性豊かな巨乳メイドたち。
カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。
すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――
「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」
領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、
時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、
最強の御曹司カイルは
世界一幸せなハーレムを築いていく。
最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。
触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜
桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。
上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。
「私も……私も交配したい」
太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身
にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。
姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる