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第二章 竜の文化、人の文化

二十七話

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『で、だ』

 何がで、だと顔をしかめそうになり、ヘイルはそれをぐっと堪えた。

『その後の様子はどうなんだ?』

 いつものように城の一室に魔導具で鏡が張られ、竜の都のおさ達、その会議の場が作られている。
 今、玻璃の長はりのおさとしてここにいるヘイルは、

『あの人間の』

 瑠璃の長るりのおさであり二番目の兄であるマーガントの言葉に、溜め息と憤りを抑えるのに苦労していた。

「……何も問題は無いと報告も上げたが?」
『お前の口から聞く意味もあるだろう。人間に対しての印象が変わったのかどうかも、あれじゃあ分からないからな』

 マーガントは、挑むかのような顔つきをして腕を組む。
 しゃらり、と肩の装飾が音を立てた。

「印象、な。対象者は他の竜とも交流し、とても友好的な面を見せている。今のところ揉め事など、」

 ヘイルは一瞬眉をひそめかけ、

「──起きてはいない。平穏そのものと言えるが」

 言い切り、肩を竦めた。

『少し間があったように思えるけど』

 マーガントの奥から声がかかる。

『起きそう、だったりするのかな? ヘイル』

 目を細めた長兄シュツラの、蜂蜜色の髪が煌めく。優しげな微笑みを湛えたその顔は、見た目と裏腹な印象を受ける。

「……なんだ、ここは尋問の場か?」

 片眉を上げたヘイルの言葉に、シュツラは笑いながら応じた。

『悪かったよ。……しかし、交流というのは気にかかってるね。その他竜たしゃというのも、多数が子供というじゃないか。親御さんは、相手が〈人間〉であるという意味を本当に理解しているのかな?』
「どういう意図での発言か理解しかねる。もし対象者を貶めるような意味合いが含まれているのなら、謝罪を要求するが」

 ヘイルは眉間に皺を寄せ、シュツラは『そうか、それは済まない』と軽く頭を下げた。

「……対象者の活動や交友関係の記録など、ほぼそちらが求める態勢で行っている。これは玻璃の都としての最大の譲歩だ」

 全体を、特にシュツラとマーガントを睨みつけ、ヘイルは低く言葉を重ねる。

「それ以上を求めるという事は、以前にも言ったが都同士の独立性を脅かす事になる。そのような事は許されないと理解しておられるだろう?」

 対してマーガントが口を開き、

『そこ、三竜さんにんだけで話を進めないでよ』

 プツェンが青紫に艶めく髪を揺らしながら口を挟んだ。

『っ、プツェン!』
『兄さん達はさ、交流の何を問題視してるのよ? その子が他の竜と沢山会うって事は、それだけこっち・・・の判断材料も増えるって事でしょ?』

 何も悪い事ないじゃない、と言うプツェンに、マーガントが目を剥いた。

『プツェン……〈人間〉の特性を忘れたか』

 苦々しく言われるそれに、プツェンは首を傾げて続きを促す。

『あら、何だったかしら』
『〈人間〉は狡猾だ。巧みに他者の心に入り込み、あまつさえ操り、己の利益のためならばそれ・・に情けもかけないと』

 それを聞いていたヘイルは嘆息し、プツェンは口元を弛ませた。

『信心深いわよね、マーガント兄さん』

 その返しに、マーガントは思わずといった風に身を乗り出す。

『っ……先代もそうなったろう! 人間のせいで!』


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