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第二章 竜の文化、人の文化
二十八話
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途端、その場は水を打ったように静寂が満ちた。
『…………瑠璃の長、その話は本筋から大きく外れるかと』
すぐ下の妹であるレーゲに、抑えた声で言われ。
マーガントはぐっと堪えるようにして姿勢を正し、
『……失礼した』
一言そう言った。
「──では」
静まり返った空間に、ヘイルの声が響く。
「こちらからは追加報告もない。先の質問内容からしても、これ以上この話を続けても特段進展がないと思われるが、如何か」
それにマーガントは歯噛みし、シュツラは浅く頷く。
『そうね……』
そこにプツェンが、
『会ってみたいかもね、その子に』
そんな事を言った。
『はあ?!』
マーガントの声が盛大に響き渡り、ヘイルは目を見開く。
『あ、ごめんなさい。これも本題から逸れるわね』
気にしないで? とプツェンは笑顔で言い、周りが呆気にとられる中、また一つ嘆息の音が落とされた。
『では、玻璃の長の通り、この話は終いとしよう』
金華の長、そして統ノ長であるヴァサバルの厳かな声が鏡から届く。
『次の議題は生誕祭だったな』
◆
会議が終わり、壁一面に展開されていた鏡が溶けるように消え去る。
「はぁ……」
(肩が凝った……)
ヘイルは力んでしまっていた肩を回し、同じく力の入っていた眉間を揉んだ。
「人間に噛みつき過ぎだろう……」
結局その後も、事ある毎につつかれた。
それに対応してしまう自分も律せてはいないと思うが、しかし流して良い話でもない。
(特にマーガントが、相変わらずか)
やれやれと首を振りながら部屋を後にする。
あの二番目の兄はどうにも、人間以外の事でも。
(というか俺にばかり色々と)
食ってかかるな、と最近特にそう思うヘイルだった。
「……昔はそれほどでも、なかったと思うんだがな」
いつからああなったか……と、首を捻りながら回廊を歩いていたら。
「……?」
ざわり、と胸の辺りで何かがさざめいた。
足を止め、不可解さの元を辿るように窓へ目を向ける。
「…………」
巨大な水晶から切り出して作られた、これまた大きな窓からは、雲一つない抜けるような青空が見える。
ヘイルはそのまま窓へ寄り、水晶へ触れた。
継ぎ目など無いはずのそれは花が開くように開け放たれ、ヘイルはそこから身を乗り出す。
会議のためと編んで垂らしていた髪が、空の青を弾き返した。
そして、金剛の瞳がそれを捉える。
「……?」
自分へ向けられたものを確かめるようにと上を向いた顔が、一度大きくしかめられ。
「……っ?!」
目を瞬き、息を呑んだ。
まだ遠く、天高く。その上小さいようではっきりとした形が捉えられないが。
あの、落ちてくる竜の魔力は──
「アイリス?!」
『…………瑠璃の長、その話は本筋から大きく外れるかと』
すぐ下の妹であるレーゲに、抑えた声で言われ。
マーガントはぐっと堪えるようにして姿勢を正し、
『……失礼した』
一言そう言った。
「──では」
静まり返った空間に、ヘイルの声が響く。
「こちらからは追加報告もない。先の質問内容からしても、これ以上この話を続けても特段進展がないと思われるが、如何か」
それにマーガントは歯噛みし、シュツラは浅く頷く。
『そうね……』
そこにプツェンが、
『会ってみたいかもね、その子に』
そんな事を言った。
『はあ?!』
マーガントの声が盛大に響き渡り、ヘイルは目を見開く。
『あ、ごめんなさい。これも本題から逸れるわね』
気にしないで? とプツェンは笑顔で言い、周りが呆気にとられる中、また一つ嘆息の音が落とされた。
『では、玻璃の長の通り、この話は終いとしよう』
金華の長、そして統ノ長であるヴァサバルの厳かな声が鏡から届く。
『次の議題は生誕祭だったな』
◆
会議が終わり、壁一面に展開されていた鏡が溶けるように消え去る。
「はぁ……」
(肩が凝った……)
ヘイルは力んでしまっていた肩を回し、同じく力の入っていた眉間を揉んだ。
「人間に噛みつき過ぎだろう……」
結局その後も、事ある毎につつかれた。
それに対応してしまう自分も律せてはいないと思うが、しかし流して良い話でもない。
(特にマーガントが、相変わらずか)
やれやれと首を振りながら部屋を後にする。
あの二番目の兄はどうにも、人間以外の事でも。
(というか俺にばかり色々と)
食ってかかるな、と最近特にそう思うヘイルだった。
「……昔はそれほどでも、なかったと思うんだがな」
いつからああなったか……と、首を捻りながら回廊を歩いていたら。
「……?」
ざわり、と胸の辺りで何かがさざめいた。
足を止め、不可解さの元を辿るように窓へ目を向ける。
「…………」
巨大な水晶から切り出して作られた、これまた大きな窓からは、雲一つない抜けるような青空が見える。
ヘイルはそのまま窓へ寄り、水晶へ触れた。
継ぎ目など無いはずのそれは花が開くように開け放たれ、ヘイルはそこから身を乗り出す。
会議のためと編んで垂らしていた髪が、空の青を弾き返した。
そして、金剛の瞳がそれを捉える。
「……?」
自分へ向けられたものを確かめるようにと上を向いた顔が、一度大きくしかめられ。
「……っ?!」
目を瞬き、息を呑んだ。
まだ遠く、天高く。その上小さいようではっきりとした形が捉えられないが。
あの、落ちてくる竜の魔力は──
「アイリス?!」
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