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ヴリコードの街

ヴリコード

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「あれがヴリコード?」
「……そうだと思いますけど……でも、ええ……?」
「?」

 登りきった丘の上で、進行方向を眺める。ここから少しだけ見える建造物と、その手前の開けた土地は畑だ。

「ヴリコードですね……?」

 街から煉瓦の道も延びているから間違いない。でも、納得というか、理解が出来ないというか。

「なに?」
「ずいぶん、早く着いたなと。リベスを出てからまだ二日ですよ。しかもお昼前ですよ」

 実質一日しか経ってない。

「なんでこんな早く着いたのか疑問で……あ」
「?」
「昨日走った分……?」

 イグル様が走りたがって一緒に走った、あれが? そんなに距離を稼いでた?

「早く着くのはだめなの?」

 こてん、とイグル様が頭を傾ける。

「いえ、帰れるなら早く帰った方が良いです……そうですね」

 無事に着いたんだし。あれこれ考えるのは今は置いとこう。

「うん! もうちょっとですね! あと一息頑張りましょう!」

 家帰ったら聞こう。……聞けるかな?

「街まで走っていい?」
「それはだめです!」



 街は変わった様子もなく、いつも通り人でごった返してる。ま、数日で何か変わることもないか。

「……、……、……、」

 イグル様は無言であっちこっち見回す。時折ふらーっと離れていくので、念のため手を繋いだ。

「一旦家に帰りたいので、その後に街を案内しますね」
「うん……」

 上の空かな、これ。
 目的地に着いたからさよならー、でも良いんだろうけど、精霊様だし。
 それにこの状態のイグル様をそのままにすると、何かしらに巻き込まれそうな気がする。

「こっちですよー」
「ん……」

 今度は良い音と匂いの出店に吸い寄せられてく腕を引いて……引いて、動かない。

「あれ、何」
「あれはベニエです。中にジャムとか果物が入った、甘い揚げ菓子ですよ」
「へえ」

 ジュウジュウパチパチと油の音が鳴り、香ばしくて甘い匂いが鼻をくすぐる。

「今は人が動き出す時期ですから、こういった出店が多いんです。芽吹きのお祭りもありますし」

 微動だにしないイグル様の視線は、ベニエのお店に釘付け。このまま強引に引っ張っていくことも出来るけど……。

「……食べます?」
「食べたい」
「じゃあ買いましょうか。手、離さないで下さいね」

 何人か並んでるけど、すぐ買えるでしょ。回転早いし。

「いらっしゃい!」

 予想通り、すぐ順番が来た。勘定をしていた子が……あれ?

「ウチのベニエはそんじょそこらのものとは……あ?」

 その子はフードの下の顔を見ようと、顔を近付けてきた。

「んお? …………お前……ハナ?」


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