2 / 8
2 大丈夫だよ
しおりを挟む
コイツと出会ったばかりの頃、なんていう種類の猫か特定しようと試みた。
周囲も分からないと言うし、周囲と手分けしてネットや本で調べても、それらしい品種は出てこない。
ネットで画像検索するためにと、写真を撮っても、動画で撮っても、あれこれ周囲と試行錯誤して撮ったけど。
どれもこれも、滲んだりピンボケみたいになったりと、ハッキリ写らない。
雑種であれ純血種であれ、系統くらいは特定できるなら、それに越したことはない。
それに、見た目は健康そうなコイツが本当に健康かどうか、獣医に確かめてもらわないといけない。
品種を特定することは、診てもらう時の判断材料にする意味もあった。
その獣医探しも、なかなかに大変で。
この『特殊な感じの猫』を診てもらえそうな動物病院はどこか、診てくれそうな獣医にツテはないか。
品種特定作業と並行して、周囲と調べたり相談したりしていたら、横っ面に猫パンチならぬ猫体当たりを食らった。
どうしたパニックでも起こしたのか、と猫へ顔を向けたら。
──そちらばかりと何やらしていないで、こちらへ気を回せ。
不満そうに、目で語られた。
周囲と長時間やり取りしていたのが、お気に召さなかったらしい。
猫の機嫌を取りつつ、調べたり連絡したり相談したりして。
幸いなことに、周囲と付き合いがある獣医さんの動物病院で診てもらえることになった。
自分たちだけでの品種特定は難しそうだからと一旦脇に置いて、動物病院とのやり取りに集中する。
なにせ、診てもらうのは『特殊な感じの猫』だ。
そうでなくても、先に渡せるなら、渡せるだけ情報を渡しといたほうが、前情報なく診るよりスムーズに進む。
病院側の負担も、少しは軽くなるはずだし。
それに、病院へ着いてから「すみません、特殊過ぎて診れません」なんてことにならないためにも。
とか思いながら、色々していたら。
また猫体当たりを、今度は後頭部に食らった。
同じ理由で怒られた。
目で、強めに。
すみません。そちらにも気を回します。
◇
引っ越してきたばかりの俺は、情けないが正直言って、土地勘交通尋常じゃない人の多さその他諸々、この地域にまだ慣れていなかった。
一人では病院に辿り着くことすら困難な俺へ──他にも理由はあったけれど──周囲は力を貸してくれた。
みんな忙しいのに、二人の先輩が同行してくれることになって、車移動で、コイツを動物病院へ連れて行った。
コイツは移動時に使うキャリーバッグにも、車にも。
キャリーに入ってもらって車に乗せても、そのまま車を少し走らせてみても。
パニックを起こしたり、怯えを見せたりとかも、なかった。
移動のための準備中も、移動中も静かだった。
病院へ着いても、待ち合い室にいる時も、キャリーを診察台近くの専用スペースへ置いても、落ち着いているように見えていた。
キャリーを開けたら、コイツは自分から出てきた。
けど。
獣医さんを含めた病院の人たちへ、そして慣れてきていたように思えた先輩たちへも。
俺以外の全員へ向けて、コイツは威嚇しまくった。威嚇を越えて、攻撃しそうな勢いで。
命の危機とかで切羽詰まっているなら、場合によっては投薬とかをしてでも落ち着かせないといけない。
どう対応するか。
話していた『あの対応』をしてみるべきか。
威嚇みたいなことをするかもと事前に伝えてあったので、獣医さんたちと相談しようとした、俺の中に。
俺以外へ向けて威嚇するコイツから『コイツの中にあるもの』が流れ込んで来た。
コイツが俺に何かして、流れ込んで来る訳じゃない。
威嚇と一緒に、もしくはそれに向かって威嚇するように外へ放って、俺が勝手に受け取ってしまうらしい『コイツの中にあるもの』。
たぶんコイツの、様々な──マイナス方面が多いように思える──感情らしきもの。
威嚇もだけど、そっちに気を取られ──引っ張られ──、重なりかけて。
自分で自分が分からなくなりかけた俺は、すぐに取るべき『あの対応』を取れなかった。
流れ込んで来る『コイツの中にあるもの』を、体はともかく頭のはどうにか──なんかたぶん気合いとかで──追い出すんだか押し込めるんだかして。
俺が『自分』をそれなりに取り戻し、動けるようになった時には。
断続的な停電、通信障害が起きていた。
晴れてたはずの外では、暴風、豪雨、轟雷、オマケに雹まで降っていた。
診てもらうどころじゃなくなりそうなくらいに、大変な状況になっていた。
体感時間は一瞬にも永遠にも思えて訳が分からないが、俺が重なりかけてから自分を取り戻すまで実際にかかった時間は、三分弱。
カップ麺作れない。
あ、そういや、ものによっちゃ作れるのある──じゃないだろ。
『自分』をしっかり現実に戻せよ、俺のバカ野郎が。
こうなる前にしておくべきだったと後悔しながら、俺は最後の手段になってしまった『あの対応』、それらをした。
病院の人たちが慌ただしく動きだす中、こんな時でもやっぱり俺にだけは威嚇しないコイツを、威嚇しないからといって気を抜いたりせず、慎重に抱き上げる。
俺のためじゃなく、コイツをこれ以上怯えさせないために。
抱き上げながら、用意していた『特製おやつ』をコイツの見える位置に置いて。
「大丈夫だよ」
抱き上げた状態で、背中を撫でて、声にして、言葉で伝える。
周囲も分からないと言うし、周囲と手分けしてネットや本で調べても、それらしい品種は出てこない。
ネットで画像検索するためにと、写真を撮っても、動画で撮っても、あれこれ周囲と試行錯誤して撮ったけど。
どれもこれも、滲んだりピンボケみたいになったりと、ハッキリ写らない。
雑種であれ純血種であれ、系統くらいは特定できるなら、それに越したことはない。
それに、見た目は健康そうなコイツが本当に健康かどうか、獣医に確かめてもらわないといけない。
品種を特定することは、診てもらう時の判断材料にする意味もあった。
その獣医探しも、なかなかに大変で。
この『特殊な感じの猫』を診てもらえそうな動物病院はどこか、診てくれそうな獣医にツテはないか。
品種特定作業と並行して、周囲と調べたり相談したりしていたら、横っ面に猫パンチならぬ猫体当たりを食らった。
どうしたパニックでも起こしたのか、と猫へ顔を向けたら。
──そちらばかりと何やらしていないで、こちらへ気を回せ。
不満そうに、目で語られた。
周囲と長時間やり取りしていたのが、お気に召さなかったらしい。
猫の機嫌を取りつつ、調べたり連絡したり相談したりして。
幸いなことに、周囲と付き合いがある獣医さんの動物病院で診てもらえることになった。
自分たちだけでの品種特定は難しそうだからと一旦脇に置いて、動物病院とのやり取りに集中する。
なにせ、診てもらうのは『特殊な感じの猫』だ。
そうでなくても、先に渡せるなら、渡せるだけ情報を渡しといたほうが、前情報なく診るよりスムーズに進む。
病院側の負担も、少しは軽くなるはずだし。
それに、病院へ着いてから「すみません、特殊過ぎて診れません」なんてことにならないためにも。
とか思いながら、色々していたら。
また猫体当たりを、今度は後頭部に食らった。
同じ理由で怒られた。
目で、強めに。
すみません。そちらにも気を回します。
◇
引っ越してきたばかりの俺は、情けないが正直言って、土地勘交通尋常じゃない人の多さその他諸々、この地域にまだ慣れていなかった。
一人では病院に辿り着くことすら困難な俺へ──他にも理由はあったけれど──周囲は力を貸してくれた。
みんな忙しいのに、二人の先輩が同行してくれることになって、車移動で、コイツを動物病院へ連れて行った。
コイツは移動時に使うキャリーバッグにも、車にも。
キャリーに入ってもらって車に乗せても、そのまま車を少し走らせてみても。
パニックを起こしたり、怯えを見せたりとかも、なかった。
移動のための準備中も、移動中も静かだった。
病院へ着いても、待ち合い室にいる時も、キャリーを診察台近くの専用スペースへ置いても、落ち着いているように見えていた。
キャリーを開けたら、コイツは自分から出てきた。
けど。
獣医さんを含めた病院の人たちへ、そして慣れてきていたように思えた先輩たちへも。
俺以外の全員へ向けて、コイツは威嚇しまくった。威嚇を越えて、攻撃しそうな勢いで。
命の危機とかで切羽詰まっているなら、場合によっては投薬とかをしてでも落ち着かせないといけない。
どう対応するか。
話していた『あの対応』をしてみるべきか。
威嚇みたいなことをするかもと事前に伝えてあったので、獣医さんたちと相談しようとした、俺の中に。
俺以外へ向けて威嚇するコイツから『コイツの中にあるもの』が流れ込んで来た。
コイツが俺に何かして、流れ込んで来る訳じゃない。
威嚇と一緒に、もしくはそれに向かって威嚇するように外へ放って、俺が勝手に受け取ってしまうらしい『コイツの中にあるもの』。
たぶんコイツの、様々な──マイナス方面が多いように思える──感情らしきもの。
威嚇もだけど、そっちに気を取られ──引っ張られ──、重なりかけて。
自分で自分が分からなくなりかけた俺は、すぐに取るべき『あの対応』を取れなかった。
流れ込んで来る『コイツの中にあるもの』を、体はともかく頭のはどうにか──なんかたぶん気合いとかで──追い出すんだか押し込めるんだかして。
俺が『自分』をそれなりに取り戻し、動けるようになった時には。
断続的な停電、通信障害が起きていた。
晴れてたはずの外では、暴風、豪雨、轟雷、オマケに雹まで降っていた。
診てもらうどころじゃなくなりそうなくらいに、大変な状況になっていた。
体感時間は一瞬にも永遠にも思えて訳が分からないが、俺が重なりかけてから自分を取り戻すまで実際にかかった時間は、三分弱。
カップ麺作れない。
あ、そういや、ものによっちゃ作れるのある──じゃないだろ。
『自分』をしっかり現実に戻せよ、俺のバカ野郎が。
こうなる前にしておくべきだったと後悔しながら、俺は最後の手段になってしまった『あの対応』、それらをした。
病院の人たちが慌ただしく動きだす中、こんな時でもやっぱり俺にだけは威嚇しないコイツを、威嚇しないからといって気を抜いたりせず、慎重に抱き上げる。
俺のためじゃなく、コイツをこれ以上怯えさせないために。
抱き上げながら、用意していた『特製おやつ』をコイツの見える位置に置いて。
「大丈夫だよ」
抱き上げた状態で、背中を撫でて、声にして、言葉で伝える。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
三十六日間の忘れ物
香澄 翔
ライト文芸
三月六日。その日、僕は事故にあった――らしい。
そして三十六日間の記憶をなくしてしまった。
なくしてしまった記憶に、でも日常の記憶なんて少しくらい失っても何もないと思っていた。
記憶を失ったまま幼なじみの美優に告白され、僕は彼女に「はい」と答えた。
楽しい恋人関係が始まったそのとき。
僕は失った記憶の中で出会った少女のことを思いだす――
そして僕はその子に恋をしていたと……
友希が出会った少女は今どこにいるのか。どうして友希は事故にあったのか。そもそも起きた事故とは何だったのか。
この作品は少しだけ不思議な一人の少年の切ない恋の物語です。
イラストはいもねこ様よりいただきました。ありがとうございます!
第5回ライト文芸大賞で奨励賞をいただきました。
応援してくださった皆様、そして選考してくださった編集部の方々、本当にありがとうございました。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
異世界で至った男は帰還したがファンタジーに巻き込まれていく
竹桜
ファンタジー
神社のお参り帰りに異世界召喚に巻き込まれた主人公。
巻き込まれただけなのに、狂った姿を見たい為に何も無い真っ白な空間で閉じ込められる。
千年間も。
それなのに主人公は鍛錬をする。
1つのことだけを。
やがて、真っ白な空間から異世界に戻るが、その時に至っていたのだ。
これは異世界で至った男が帰還した現実世界でファンタジーに巻き込まれていく物語だ。
そして、主人公は至った力を存分に振るう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる