猫じゃない気もするけど猫だと思うからやっぱ猫。

山法師

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2 大丈夫だよ

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 コイツと出会ったばかりの頃、なんていう種類の猫か特定しようと試みた。

 周囲も分からないと言うし、周囲と手分けしてネットや本で調べても、それらしい品種は出てこない。
 ネットで画像検索するためにと、写真を撮っても、動画で撮っても、あれこれ周囲と試行錯誤して撮ったけど。
 どれもこれも、滲んだりピンボケみたいになったりと、ハッキリ写らない。

 雑種であれ純血種であれ、系統くらいは特定できるなら、それに越したことはない。
 それに、見た目は健康そうなコイツが本当に健康かどうか、獣医プロに確かめてもらわないといけない。
 品種を特定することは、診てもらう時の判断材料にする意味もあった。

 その獣医探しも、なかなかに大変で。

 この『特殊な感じの猫』を診てもらえそうな動物病院はどこか、診てくれそうな獣医にツテはないか。
 品種特定作業と並行して、周囲と調べたり相談したりしていたら、横っ面に猫パンチならぬ猫体当たりを食らった。
 どうしたパニックでも起こしたのか、と猫へ顔を向けたら。

 ──そちらばかりと何やらしていないで、こちらへ気を回せ。

 不満そうに、目で語られた。

 周囲と長時間やり取りしていたのが、お気に召さなかったらしい。

 猫の機嫌を取りつつ、調べたり連絡したり相談したりして。

 幸いなことに、周囲と付き合いがある獣医さんの動物病院で診てもらえることになった。
 自分たちだけでの品種特定は難しそうだからと一旦脇に置いて、動物病院とのやり取りに集中する。
 なにせ、診てもらうのは『特殊な感じの猫』だ。
 そうでなくても、先に渡せるなら、渡せるだけ情報を渡しといたほうが、前情報なく診るよりスムーズに進む。
 病院側の負担も、少しは軽くなるはずだし。
 それに、病院へ着いてから「すみません、特殊過ぎて診れません」なんてことにならないためにも。
 とか思いながら、色々していたら。

 また猫体当たりを、今度は後頭部に食らった。

 同じ理由で怒られた。

 目で、強めに。

 すみません。そちらにも気を回します。

 ◇

 引っ越してきたばかりの俺は、情けないが正直言って、土地勘交通尋常じゃない人の多さその他諸々、この地域にまだ慣れていなかった。
 一人では病院に辿り着くことすら困難な俺へ──他にも理由はあったけれど──周囲は力を貸してくれた。
 みんな忙しいのに、二人の先輩が同行してくれることになって、車移動で、コイツを動物病院へ連れて行った。

 コイツは移動時に使うキャリーバッグにも、車にも。
 キャリーに入ってもらって車に乗せても、そのまま車を少し走らせてみても。
 パニックを起こしたり、怯えを見せたりとかも、なかった。
 移動のための準備中も、移動中も静かだった。
 病院へ着いても、待ち合い室にいる時も、キャリーを診察台近くの専用スペースへ置いても、落ち着いているように見えていた。
 キャリーを開けたら、コイツは自分から出てきた。

 けど。

 獣医さんを含めた病院の人たちへ、そして慣れてきていたように思えた先輩たちへも。
 俺以外の全員へ向けて、コイツは威嚇しまくった。威嚇を越えて、攻撃しそうな勢いで。

 命の危機とかで切羽詰まっているなら、場合によっては投薬とかをしてでも落ち着かせないといけない。

 どう対応するか。

 話していた『あの対応』をしてみるべきか。

 威嚇みたいなことをするかもと事前に伝えてあったので、獣医さんたちと相談しようとした、俺の中に。

 俺以外へ向けて威嚇するコイツから『コイツの中にあるもの』が流れ込んで来た。

 コイツが俺に何かして、流れ込んで来る訳じゃない。
 威嚇と一緒に、もしくはそれに向かって威嚇するように外へはなって、俺が勝手に受け取ってしまうらしい『コイツの中にあるもの』。

 たぶんコイツの、様々な──マイナス方面が多いように思える──感情らしきもの。

 威嚇もだけど、そっちに気を取られ──引っ張られ──、重なり・・・かけて。
 自分で自分が分からなくなりかけた俺は、すぐに取るべき『あの対応』を取れなかった。

 流れ込んで来る『コイツの中にあるもの』を、体はともかく頭のはどうにか──なんかたぶん気合いとかで──追い出すんだか押し込めるんだかして。
 俺が『自分』をそれなりに取り戻し、動けるようになった時には。

 断続的な停電、通信障害が起きていた。
 晴れてたはずの外では、暴風、豪雨、轟雷、オマケに雹まで降っていた。
 診てもらうどころじゃなくなりそうなくらいに、大変な状況になっていた。

 体感時間は一瞬にも永遠にも思えて訳が分からないが、俺が重なり・・・かけてから自分を取り戻すまで実際にかかった時間は、三分弱。
 カップ麺作れない。
 あ、そういや、ものによっちゃ作れるのある──じゃないだろ。
『自分』をしっかり現実こっちに戻せよ、俺のバカ野郎が。

 こうなる前にしておくべきだったと後悔しながら、俺は最後の手段になってしまった『あの対応』、それらをした。

 病院の人たちが慌ただしく動きだす中、こんな時でもやっぱり俺にだけは威嚇しないコイツを、威嚇しないからといって気を抜いたりせず、慎重に抱き上げる。
 俺のためじゃなく、コイツをこれ以上怯えさせないために。
 抱き上げながら、用意していた『特製おやつ』をコイツの見える位置に置いて。

「大丈夫だよ」

 抱き上げた状態で、背中を撫でて、声にして、言葉で伝える。

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