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グリーヂェ
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この気弱そうな男は誰だ。
せっかく私とこの娘が二人で話していたところなのに、水を差すような真似をしやがって。あまりこの界隈では見ないような身なりだ。さながら、どこかの貴族の使用人のような。そんな印象を受けた。
「誰だ、何か困りごとか?」
もしかしたらこっちに旅行にでも来た地方貴族の従者かもしれない。そう思って声をかけたが、どうやら目当ては軍服を着た私ではなく、ボロ布を着た娘らしい。
娘が大きなため息を吐く。その様子からしてお知り合いのようだ。
「いえ、そちらの娘さんに少し・・・・・・」
「また、あんた?」
「ええまあ、仕事ですので」
娘が分かりやすく顔を歪める。こんな顔は初めて見る。どうやら、良いお友達というわけではなさそうだな。
「何度もすみません。ですが、そろそろ滞納されてる税金を、と上からのご達しでして・・・・・・」
「・・・・・・だから、前から伝えてるように、もう少し待ってほしいんだって」
税金を取り立てに来たということはこの男は小役人か。私が入っていける話ではなさそうだ。しばらく傍観することとしよう。話を聞いていればもしかしたら助けられることがあるかもしれない。
「最近父さんも死んじゃって、ロクな稼ぎもないし・・・・・・当分は払えそうにないよ」
「それは重々承知しておりますが、私も上からの催促にほとほと困っている状態でして」
「・・・・・・分かってるんなら帰って上に伝えておくれよ。『ない金をどうやって払うんだ!』 って」
「ですがお店も大変賑わっているようですし、少しだけでも払えないものですかねぇ」
「あんたね、あの店の売り上げのうちのいくらが私たちに入ってくると思ってるの? いくら店が儲かったところで稼ぎは大して変わらないよ。多少稼ぎが増えただけで、たかが知れてるんだよ」
「しかし、これ以上払えないようであれば、グリーヂェさん本人を連れてくるようにと、上官から言われておりまして」
小役人がそう言い終わるのが早いが先か、娘の右腕を強引に掴んだ。娘が、激しく抵抗する。
「! やめてよ、まだ子供の弟だっているのに!」
「おい! やめろ!」
考えるよりも先に体が動く。私の右手がその小役人の手をはたき落した。
「痛たたたた・・・・・・」
「痛いか? この娘の方がもっと痛かったろうな」
「兵隊さん・・・・・・」
「さっきから聞いてればなんだ? 貴様ら役所の人間は市民の安全を守るのが仕事だろう? それを、市民の事情も考えずに支払いだけ命じて金がないと分かったら娘を連れてこうって、それがこの街の役人のやり方なのか?」
さっきはたき落とすのに使った右手がジンジンと痛む。
「・・・・・・これは失礼しました。しかし、こちらのグリーヂェさんはもう三ヶ月も税金を滞納されてるんですよ」
グリーヂェ・・・・・・。初めて娘の名を聞いた。できればこいつの口からではなく、娘本人の口から聞きたかった。
「兵隊さん、私が払えないのが悪いんだよ。だから、兵隊さんは怒らなくてもいいんだよ?」
「違う!」
自分でも驚くほどの大声が出た。ここで自分に感心できるくらいには冷静なようだ。
「悪いのはこの国だ! 皇帝も! ラスプーチンも! なにもかも間違ってる! なぜ農民が苦しまねばならない? なぜ貴族は楽をして生きていける? 同じロシア人が、なぜ手を取り合って生きていくことができないんだ!」
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
間の悪い沈黙だ。税金の件で娘は悪くないと言ったが、この空気は完全に私が悪いな。感情的になってしまった・・・・・・。私らしくもない。小役人は私の怒声に、まるで子羊のように足をガクガク震わせ怯えている。
沈黙を破ったのは娘だった。
「そんなこと言ってくれる人、今までいなかった・・・・・・ありがとう」
娘のその言葉は何よりも重みがあった。それこそ、嘘偽りのない言葉にだけ宿る重さがその言葉にはあった。
私は礼を言われるほどのことは言っていない。現に今の言葉は考えて言ったわけではなく、口から勝手に出たものだ。到底、褒められるようなことではない。
「いや、いいんだ・・・・・・。役人の方もすまなかったね。急に大きな声を出したりして」
「いえ、わ、私は特に・・・・・・その、お構いなく」
「そうだ、担保にこれを持って行ったらどうだ。私のお守りのペンダントだ。自分で言うのもなんだがなかなかの価値だぞ?」
「これは・・・・・・! 確かにとても綺麗な模様ですね! これなら上司もきっと納得してくれます!」
「兵隊さん! なにもそこまでしなくても」
「いや、いいんだ。そうでもしなきゃ君も帰れないだろう?」
実際は、私が母上に貰ったもので、そう価値なんてないんだがね。
「ありがとうございます! あの、あなたのお名前は・・・・・・?」
「私か? フェリックス・フォンブランドだ」
「ではフェリックスさん! ありがとうございます! 上司にかけあってみます!」
小役人はそれだけ行って半ば駆け足で夜の闇に消えていった。
ふぅ。
ちょっと感情的になったが、上手く終わってくれた。
「兵隊さん! 本当にあれ、良かったの・・・・・・?」
「いいんだ。どうせ税金を払えば返ってくる。早く払えるように、私も部下を連れて酒場に通うよ。チップもはずむように言っておく」
「兵隊さ・・・・・・いや、フェリックスさん! ありがとう! 私、いっぱい歌うね!」
おお、娘・・・・・・グリーヂェ、だったか。初めて私の名前を呼んでくれた。感慨深いものがある。そういえば今までお互い名前も知らなかった。いやそれも重要だがそれより・・・・・・。
今の私、カッコ良くないか?
せっかく私とこの娘が二人で話していたところなのに、水を差すような真似をしやがって。あまりこの界隈では見ないような身なりだ。さながら、どこかの貴族の使用人のような。そんな印象を受けた。
「誰だ、何か困りごとか?」
もしかしたらこっちに旅行にでも来た地方貴族の従者かもしれない。そう思って声をかけたが、どうやら目当ては軍服を着た私ではなく、ボロ布を着た娘らしい。
娘が大きなため息を吐く。その様子からしてお知り合いのようだ。
「いえ、そちらの娘さんに少し・・・・・・」
「また、あんた?」
「ええまあ、仕事ですので」
娘が分かりやすく顔を歪める。こんな顔は初めて見る。どうやら、良いお友達というわけではなさそうだな。
「何度もすみません。ですが、そろそろ滞納されてる税金を、と上からのご達しでして・・・・・・」
「・・・・・・だから、前から伝えてるように、もう少し待ってほしいんだって」
税金を取り立てに来たということはこの男は小役人か。私が入っていける話ではなさそうだ。しばらく傍観することとしよう。話を聞いていればもしかしたら助けられることがあるかもしれない。
「最近父さんも死んじゃって、ロクな稼ぎもないし・・・・・・当分は払えそうにないよ」
「それは重々承知しておりますが、私も上からの催促にほとほと困っている状態でして」
「・・・・・・分かってるんなら帰って上に伝えておくれよ。『ない金をどうやって払うんだ!』 って」
「ですがお店も大変賑わっているようですし、少しだけでも払えないものですかねぇ」
「あんたね、あの店の売り上げのうちのいくらが私たちに入ってくると思ってるの? いくら店が儲かったところで稼ぎは大して変わらないよ。多少稼ぎが増えただけで、たかが知れてるんだよ」
「しかし、これ以上払えないようであれば、グリーヂェさん本人を連れてくるようにと、上官から言われておりまして」
小役人がそう言い終わるのが早いが先か、娘の右腕を強引に掴んだ。娘が、激しく抵抗する。
「! やめてよ、まだ子供の弟だっているのに!」
「おい! やめろ!」
考えるよりも先に体が動く。私の右手がその小役人の手をはたき落した。
「痛たたたた・・・・・・」
「痛いか? この娘の方がもっと痛かったろうな」
「兵隊さん・・・・・・」
「さっきから聞いてればなんだ? 貴様ら役所の人間は市民の安全を守るのが仕事だろう? それを、市民の事情も考えずに支払いだけ命じて金がないと分かったら娘を連れてこうって、それがこの街の役人のやり方なのか?」
さっきはたき落とすのに使った右手がジンジンと痛む。
「・・・・・・これは失礼しました。しかし、こちらのグリーヂェさんはもう三ヶ月も税金を滞納されてるんですよ」
グリーヂェ・・・・・・。初めて娘の名を聞いた。できればこいつの口からではなく、娘本人の口から聞きたかった。
「兵隊さん、私が払えないのが悪いんだよ。だから、兵隊さんは怒らなくてもいいんだよ?」
「違う!」
自分でも驚くほどの大声が出た。ここで自分に感心できるくらいには冷静なようだ。
「悪いのはこの国だ! 皇帝も! ラスプーチンも! なにもかも間違ってる! なぜ農民が苦しまねばならない? なぜ貴族は楽をして生きていける? 同じロシア人が、なぜ手を取り合って生きていくことができないんだ!」
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
間の悪い沈黙だ。税金の件で娘は悪くないと言ったが、この空気は完全に私が悪いな。感情的になってしまった・・・・・・。私らしくもない。小役人は私の怒声に、まるで子羊のように足をガクガク震わせ怯えている。
沈黙を破ったのは娘だった。
「そんなこと言ってくれる人、今までいなかった・・・・・・ありがとう」
娘のその言葉は何よりも重みがあった。それこそ、嘘偽りのない言葉にだけ宿る重さがその言葉にはあった。
私は礼を言われるほどのことは言っていない。現に今の言葉は考えて言ったわけではなく、口から勝手に出たものだ。到底、褒められるようなことではない。
「いや、いいんだ・・・・・・。役人の方もすまなかったね。急に大きな声を出したりして」
「いえ、わ、私は特に・・・・・・その、お構いなく」
「そうだ、担保にこれを持って行ったらどうだ。私のお守りのペンダントだ。自分で言うのもなんだがなかなかの価値だぞ?」
「これは・・・・・・! 確かにとても綺麗な模様ですね! これなら上司もきっと納得してくれます!」
「兵隊さん! なにもそこまでしなくても」
「いや、いいんだ。そうでもしなきゃ君も帰れないだろう?」
実際は、私が母上に貰ったもので、そう価値なんてないんだがね。
「ありがとうございます! あの、あなたのお名前は・・・・・・?」
「私か? フェリックス・フォンブランドだ」
「ではフェリックスさん! ありがとうございます! 上司にかけあってみます!」
小役人はそれだけ行って半ば駆け足で夜の闇に消えていった。
ふぅ。
ちょっと感情的になったが、上手く終わってくれた。
「兵隊さん! 本当にあれ、良かったの・・・・・・?」
「いいんだ。どうせ税金を払えば返ってくる。早く払えるように、私も部下を連れて酒場に通うよ。チップもはずむように言っておく」
「兵隊さ・・・・・・いや、フェリックスさん! ありがとう! 私、いっぱい歌うね!」
おお、娘・・・・・・グリーヂェ、だったか。初めて私の名前を呼んでくれた。感慨深いものがある。そういえば今までお互い名前も知らなかった。いやそれも重要だがそれより・・・・・・。
今の私、カッコ良くないか?
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