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第一章 春は出逢いの季節
夏休みの計画
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僕の容姿は他人より優れていると思う。これは自分を過大評価したわけでも、自意識が過剰なわけでもなく、客観的に自分を評価した結果そう思うに至った。
今まで何人に告白されてきたか。正直言って中三の夏以降は覚えてない。ギリギリ両手で数えきれるかどうかくらいの人数に好意を寄せられれば、嫌でも自分は容姿が良いと再確認させられる。
でも僕はそれを鼻にかけて他人を貶めたり、それを利用して女遊びしたりなんてことはしたくない。
その証拠に、僕はみんなが恋心を抱き始める中学二年生くらいから今まで、良い返事を出したことが一度もない。
まだ僕は人を好きになったことがない。
と言っても友達を思いやる心はあるし、家族を大事にする心もある。
ただ一つ、みんなが言う恋愛感情というものが僕には理解出来ない。なんなら性欲もないから同級生の話にたまについていけなくなる。
誰かを好きになろうとしたことはあった。でも好きという感情が体の奥底から湧いてくるものなのか、それとも天から降ってくるものなのかを知らない僕の挑戦はあえなく頓挫した。
自分が人を好きになったことがないから、誰から告白されても他人からの好意というものがよく分からないでいる。
だけど今はそういう相手がまだ現れていないだけだと、気付き始めている現実から目を逸らす。僕にだって恋愛感情はあるはず。そう自分に言い聞かせた。
好きになれないんじゃない、まだ人を好きになったことがないんだ。きっと誰かが僕の凝り固まって動かなくなった心を解き放ってくれるはずだ。・・・・・・多分。
◇◇
「船井、今年の夏はなにか予定してる?」
夏服に完全移行して数日が過ぎた。あと一ヶ月もすれば夏休みという名の超大型連休が僕らを待っている。およそ四〇日を数える連休を前に心踊らないわけがない。
「いやー、まだ何にも決まってないな」
「僕たち来年は受験で忙しくなるだろ? だから今年は色んなところ行って色々思い出を作りたいと思ってね」
「そっか、浅尾も進学希望だったなー」
船井は東北地方の大学、僕は東京の大学が第一希望。今年は今年でオープンキャンパスに行ったりするので、比較的忙しくなる予定だが、受験を目前に控える来年は、進学希望の生徒は毎日補習を受けたり勉強合宿だったりで殆ど自由が利かなくなる。
「田中が羨ましいぜ、あいつ家業の手伝いつって地元に残るんだからな」
田中だけがこの九州の片田舎に残り、おかえりを言う側になる。それはつまり、船井とも疎遠になってしまうということだ。
この二人が別れるところは想像がつかないけど、会えなくなった時のためにも思い出ってのはやっぱり必要だろう。それに僕もこの夏は大切にしたい理由がある。
なんだかんだ言って田中も船井も中学の時からの腐れ縁だ。ずっと一緒のクラスでつるんできたから妙な仲間意識みたいなものもある。いつか僕たちが疎遠になってもこの夏は特別だったって言えるような夏にしたい。
「どうせ田中もまだ予定なんて決まってないだろうし、俺から言ってみるよ」
「うん、船井頼んだよ」
多分僕から提案するよりも船井から言ってくれた方が田中も喜ぶことだろう。
「星川はどうする? 誘うか?」
船井の何気ない問いに少し目眩がした。星川美麗・・・・・・頭の片隅にその名前がなかったわけじゃないが、あまり考えないようにしていた。去年まで四人でグループを作っていたようなものだし、お人好しで友達思いの船井が名前を出すのは至極当然のことだ。
「美麗ね、船井が誘いたいなら誘いなよ」
苛立った感情が言葉の端に出てしまったのを感じた。別に星川美麗を意識しているわけじゃないが、あいつの話題になるとどうも言葉に棘が生えてしまう。悪い癖だと自覚はしているが治らないものだと若干諦めている。
「えー、浅尾が誘えよ」
「なんで?」
「俺が田中を誘って、浅尾が星川を誘えば良い感じじゃん」
なにが良い感じなことか。僕の気も知らないで・・・・・・。でも確かに船井にばかり負担をかけるのも見るに忍びない。
「じゃあ一応声だけはかけてみるけど、あんまり期待するなよ」
「へいへい、その代わり田中は任せといて」
そりゃ田中は船井が誘えばほぼ間違いなく来るだろうさ、だけど星川美麗は僕が誘ったところで来ない確率の方が高いだろう。それに、僕が星川美麗に気があるように思われるのが気に食わない。
はぁ、嫌だ、面倒だ。胃のあたりが嫌な感じでキリキリ痛んだ。
今まで何人に告白されてきたか。正直言って中三の夏以降は覚えてない。ギリギリ両手で数えきれるかどうかくらいの人数に好意を寄せられれば、嫌でも自分は容姿が良いと再確認させられる。
でも僕はそれを鼻にかけて他人を貶めたり、それを利用して女遊びしたりなんてことはしたくない。
その証拠に、僕はみんなが恋心を抱き始める中学二年生くらいから今まで、良い返事を出したことが一度もない。
まだ僕は人を好きになったことがない。
と言っても友達を思いやる心はあるし、家族を大事にする心もある。
ただ一つ、みんなが言う恋愛感情というものが僕には理解出来ない。なんなら性欲もないから同級生の話にたまについていけなくなる。
誰かを好きになろうとしたことはあった。でも好きという感情が体の奥底から湧いてくるものなのか、それとも天から降ってくるものなのかを知らない僕の挑戦はあえなく頓挫した。
自分が人を好きになったことがないから、誰から告白されても他人からの好意というものがよく分からないでいる。
だけど今はそういう相手がまだ現れていないだけだと、気付き始めている現実から目を逸らす。僕にだって恋愛感情はあるはず。そう自分に言い聞かせた。
好きになれないんじゃない、まだ人を好きになったことがないんだ。きっと誰かが僕の凝り固まって動かなくなった心を解き放ってくれるはずだ。・・・・・・多分。
◇◇
「船井、今年の夏はなにか予定してる?」
夏服に完全移行して数日が過ぎた。あと一ヶ月もすれば夏休みという名の超大型連休が僕らを待っている。およそ四〇日を数える連休を前に心踊らないわけがない。
「いやー、まだ何にも決まってないな」
「僕たち来年は受験で忙しくなるだろ? だから今年は色んなところ行って色々思い出を作りたいと思ってね」
「そっか、浅尾も進学希望だったなー」
船井は東北地方の大学、僕は東京の大学が第一希望。今年は今年でオープンキャンパスに行ったりするので、比較的忙しくなる予定だが、受験を目前に控える来年は、進学希望の生徒は毎日補習を受けたり勉強合宿だったりで殆ど自由が利かなくなる。
「田中が羨ましいぜ、あいつ家業の手伝いつって地元に残るんだからな」
田中だけがこの九州の片田舎に残り、おかえりを言う側になる。それはつまり、船井とも疎遠になってしまうということだ。
この二人が別れるところは想像がつかないけど、会えなくなった時のためにも思い出ってのはやっぱり必要だろう。それに僕もこの夏は大切にしたい理由がある。
なんだかんだ言って田中も船井も中学の時からの腐れ縁だ。ずっと一緒のクラスでつるんできたから妙な仲間意識みたいなものもある。いつか僕たちが疎遠になってもこの夏は特別だったって言えるような夏にしたい。
「どうせ田中もまだ予定なんて決まってないだろうし、俺から言ってみるよ」
「うん、船井頼んだよ」
多分僕から提案するよりも船井から言ってくれた方が田中も喜ぶことだろう。
「星川はどうする? 誘うか?」
船井の何気ない問いに少し目眩がした。星川美麗・・・・・・頭の片隅にその名前がなかったわけじゃないが、あまり考えないようにしていた。去年まで四人でグループを作っていたようなものだし、お人好しで友達思いの船井が名前を出すのは至極当然のことだ。
「美麗ね、船井が誘いたいなら誘いなよ」
苛立った感情が言葉の端に出てしまったのを感じた。別に星川美麗を意識しているわけじゃないが、あいつの話題になるとどうも言葉に棘が生えてしまう。悪い癖だと自覚はしているが治らないものだと若干諦めている。
「えー、浅尾が誘えよ」
「なんで?」
「俺が田中を誘って、浅尾が星川を誘えば良い感じじゃん」
なにが良い感じなことか。僕の気も知らないで・・・・・・。でも確かに船井にばかり負担をかけるのも見るに忍びない。
「じゃあ一応声だけはかけてみるけど、あんまり期待するなよ」
「へいへい、その代わり田中は任せといて」
そりゃ田中は船井が誘えばほぼ間違いなく来るだろうさ、だけど星川美麗は僕が誘ったところで来ない確率の方が高いだろう。それに、僕が星川美麗に気があるように思われるのが気に食わない。
はぁ、嫌だ、面倒だ。胃のあたりが嫌な感じでキリキリ痛んだ。
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