知識欲の鬼才と叡黎書(アルトワール) 第一章

麒麟

文字の大きさ
3 / 25
序章

真実の慧眼

しおりを挟む
 コツコツと岩石を踏む足音が洞窟内を谺響する。

 暗黒の洞窟に光が差し込み、次いで男のシルエットが映る。

 このシルエットの者こそ、今まさに伝説級アイテム、真実の慧眼に向かって歩を進めるシルヴァである。

 だが、彼の頬は少し痩せこけ、足取りも良くはない。視線もたまに揺れ動き、定まっていないようだ。

「お腹空いたぁ~」

 虚しき声が、洞窟を震わせた。

 彼は、もう三日も何も口にしていない。シルヴァは探究心を満たすため、食欲を無視しながら歩き続けてきた。だが、さすがにもう限界だった。

「何か……何か食べ物が欲しい」

 だが、洞窟内に都合よく食べ物がある訳では無い。ここには、生命の一つも感じられなかった。

「ひぇー、餓死するのは嫌だ。何か食べ物をくださいなー」

 ふらふらと歩いていると、突然洞窟の奥から羽音が聞こえてくる。シルヴァが身構えた時、奥から蝙蝠の群れが飛び込んできた。

「うわ、蝙蝠の群れか。……あ、そうだ」

 屈んで拳大の石を掴む。きりなく流れてくる蝙蝠の群れの中に、思い切り石を投げた。

「ほい!」
「ギギッ」

 三匹の蝙蝠が気絶して落ちた。この瞬間を逃さずに、シルヴァは蝙蝠の体を掴み、魔法を唱えた。

「〈風爪ウインドカッター〉、〈ウォーター〉」

 木属性中位階魔法の〈風爪ウインドカッター〉で蝙蝠の首を落としだ後逆さ吊りにして血を抜き、少し経ったら水属性低位階魔法の〈ウォーター〉で血を洗う。

「よし……っと、最後に〈ファイア〉」

 蝙蝠を気絶させてからものの数十分で、蝙蝠の丸焼きが出来た。

「あー……。香辛料が欲しい」

 シルヴァの家では、肉料理には少量だが香辛料が練り込まれていた。だが、香辛料などないこの状況では、蝙蝠の獣臭さに耐えるしかなかった。

「う……いただきます」

 蝙蝠の羽と骨を取り除き、僅かに残った肉の部分に食いつく。

「ん、不味い。獣臭い。獣焼きは香辛料が必須だな」

 苦虫を噛み潰したような顔をしながら、シルヴァはもきゅもきゅと咀嚼する。手のひらより小さかった肉は、あっという間に無くなってしまった。

「んー、残り二つはどうしようか。出来れば残しておきたいな」

 考えていると、突然叡黎書アルトワールが飛び出し、蝙蝠の肉を本に閉じ込んだ。

「ふぁ! え、俺の肉!」

 慌ててページを捲る。すると、新たに保管ページという項目があった。そこには、先程の蝙蝠の肉だろうか。蝙蝠の素焼き×2と明記されていた。

「んん、いや、あのどうやって取り出せばいいんだよ。これこの中に肉が入っているってことでいいんか?」

 本のページを撫でていると、突然、ページの中に手が呑まれた。まるで水の中に手を突っ込むようであった。

「うわ!」

 慌てて手を抜く。すると、そこには先程の蝙蝠の肉が握られていた。

「あー、なるほど。このページの中に物を管理するってことね」

 再度、蝙蝠の肉を入れる。すんなりと入った後、先程取り出したことにより蝙蝠の素焼き×1と明記されていたのが、蝙蝠の素焼き×2に変わっていた。

「へぇ……便利だな。あー、なんでこんなのはが世の中に出なかったんだろう。これ悪用すれば物盗み放題とかいけるし」

 だが、もうこの本の主人はシルヴァだ。シルヴァはそんな物盗りをする気はさらさらない。それより、物集めの方がよっぽど面白そうだ。

「えーっと、真実の慧眼まで後どれくらいだ……?」

 叡黎書アルトワールを開く。

「お、後少しじゃあないか。……ん?」

 洞窟の終わり。だが、行き止まりという訳では無い。別の空間……それも、より大きい空間へと繋がっていた。

「なるほど。ダンジョンドロップという訳か」

 ダンジョン。それは、様々な資源を生み出す場所。何時生成されるか。どこに生成されるかは、誰にもわからない。

 屈強な魔物が住み着き、ダンジョンの遺物を守護する。その守護魔物を討伐したり、遺物をぶんどるのが、所謂冒険者と呼ばれる人達の仕事だ。

 当然、学園の書庫の中には魔物についての知識も豊富にあった。なので、シルヴァはなるべく音を立てないように静かにダンジョンに潜り込む。

 魔物は基本、音と動くものに敏感だ。稀に別の方法で此方を悟る魔物もいるが、ほとんどの魔物は視覚と聴覚に頼っている。

(だが……ここは不自然だ)

 そう。ここは、静かすぎるのだ。

(他に冒険者が見当たらない……つまり、ここはまだ発見されてないダンジョンという訳か? それとも、危険すぎて近づけないダンジョンなのか……?)

 だが、シルヴァは進む。未発見のダンジョン。もしくは危険なダンジョン。甘美な響きだ。シルヴァは、いとも簡単により深くに潜入することを決めた。

(さて……それにしても、魔物もいないのか? 魔物が闊歩する音、魔物同士の縄張り争いもあっておかしくは無いはずだ)

 隠密系のアイテムが無い分、慎重を極める。ゆっくりと叡黎書アルトワールを開き、真実の慧眼の位置を確認する。

(ここから北東に100メートルほど……簡単すぎやしないか?)

 入り組んだ道を歩く。そして、ある小部屋にたどり着いた。

(ここだ……ここの部屋の中だ……)

 そーっと部屋を覗いてみる。だが、部屋の中でさえ魔物は居らず、トラップの類も見られない。

(拍子抜け……? 無駄に警戒した俺が馬鹿だったか……?)

 ゆっくりと部屋に踏み入る。重量系トラップも発動することはなかった。

(この部屋の……掛け軸の後ろ?)

 そっと掛け軸を避けてみる。そこには、小さな、本当に小さな突起物があった。

(これを……押す? 押してみるか)

 だが、その小さな突起物は、見た目によらず押し込めない。

(ん……? よっと……こうか?)

 試行錯誤してどうにか押し込めた。すると、突起物を中心とした正方形の部分がゆっくりと開かれた。

(お、お、おおお! 凄い。やはり叡黎書アルトワールはアイテムの場所を示していたのか!) 

 そこには、妖しく緑色に光る何かの液体に、白い虹彩に真紅の瞳孔を備える、一つの目玉が漬けられていた。

(これが……真実の慧眼? ……ん?なんだ?これは)

 謎の文字が書かれていた。この文字は、シルヴァが初めて見る文字。だが、何の因果か、シルヴァにはこの文字が読めたのだ。

(「真実を得る者、その代償として己の目を払え」……? なんだ? 目をくり抜いてそこにこれを入れればいいのか? 面白い)

 一切の迷いなし。シルヴァは嬉々としながら左目に手を突っ込んだ。

(痛っ! 痛たたたたた! やばいやばいやばい。意識が吹き飛びそうだ)

 だが、無理やり痛みで意識を保ちながら、左目をくり抜く。血が飛び散り、血溜まりが作られる。それでも、シルヴァはその手を止めなかった。

 くり抜いた左目を謎の液体に入れ、その液体の中から目玉を取り出し、自分のくり抜かれた所へと入れる。神経と神経が擦り合う極度の痛みがシルヴァを襲ったが、それでも意識は手放さなかった。

(はぁっ、はぁっ……よし……入った……)

 それを最後に、シルヴァは意識を手放す。

 彼が意識を手放したのは、真実の慧眼が自分の目の部分に収まり、神経との接続を開始したことによる安心感で、緊張の糸が途切れたからであった。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

処理中です...