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第9話 エルフの涙
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アイルとリリィは、夜も深まってから塔の外に出て森の中を歩いた。
フクロウがどこかで、ホウホウと鳴いている。
夜のしじまの中に、ただ二人のゆっくり歩く音だけが微かに聞こえていた。
「……さっきはごめんなさい。あなたを苦しめるつもりはないのよ」
「わかってるさ。でも、幸せはただでは手に入らない。代償が必要なんだ」
「そうね。わたしもそう思うわ」
二人の影は互いに寄り添い、一つとなって進んでいく。
「俺たちの、この先の話をしないか」
「ええ、いいわ。何から話しましょうか」
「金はあるし、顔も利く。欲しいものは何でも手に入るだろうし、住みたい場所に住めるだろう」
「だって、勇者様ですものね。当然の権利だわ」
「リリィは何が欲しい?」
「あなたからの愛以外に?」
「ああ」
「そうね……幸せ、かしら。永遠に続く幸せ。明日を不安に思わなくてもいい幸せ。安住の地」
「何でも手に入るっていっただろう? まだ不安なのか?」
「ええ、少し」
アイルは大木にリリィを押し付けると、強引にキスをした。
「……これでもまだ不安なのか」
「……あなたにはわからないのよ。わたしがどんな気持ちで、たった一人であの塔に幽閉されていたかを」
「いまはもう自由じゃないか。暴虐の魔王は死んだ。勇者の俺がいる。幸せを、感じてもいいはずだ」
「違うの、違うのよ」
リリィはアイルの腕をすり抜けた。
アイルは、チキを思い出していた。
「……あなたが、憎いのよ」
「何だって?」
「憎くて憎くて仕方がないの……だってあなたはお仲間たちと、一緒に旅をして、楽しく話をして、魔王を倒して、感謝されて……幸せばっかり……!」
「リリィ……」
「わたし、ずっと寂しかった……かろうじて、窓から見える魔物たちを魔法で操るのが、唯一の生きがいだった……わたしはエルフで長生きだけど、失った時間はもう、取り戻せないわ……」
「それをいまから俺と一緒に取り戻すんだろう?」
「こんなわたしになったのに!?」
感情を爆発させたリリィの剣幕に、アイルは圧倒された。
「……一度人間に汚されたエルフは終わりなのよ。一族から追放され、種族の恥だと罵られる。見た目にはわからないでしょうけど、同族にはわかるのよ、人間と交わったって……」
「周りがどういおうと俺たちには関係ないだろう?」
「わたしはね、アイル、普通に生きたかった。エルフの森で他のエルフたちと同じように暮らしたかった。でも、魔王にさらわれてわたしの運命は決まったわ。一生汚いエルフとして生きないといけないのよ……」
微笑みながら涙をぼろぼろ流すリリィ。
アイルは、かける言葉を探した。
「俺は……きみの気持ちを全く理解してなかったんだな……」
「いいのよ、アイル、いいの。あなたは、いい人間、でしょう? きっとそうよね? わたしはね、ね、アイル、それを証明してほしいのよ」
「……俺に、何ができる?」
リリィはいった。
「殺して、あなたの大切なお仲間たちを。一刻も早く。わたしと同じになって。もう耐えられない。汚くなって! 下劣で最悪な勇者と罵られてよ!! いまのあなたは、遠すぎる……地の底まで降りてきて。わたしはそこにいるのよ。そうしたらやっと……やっと本当の意味で……一緒になれるから……」
「……わかった」
アイルは、固く決心した。
フクロウがどこかで、ホウホウと鳴いている。
夜のしじまの中に、ただ二人のゆっくり歩く音だけが微かに聞こえていた。
「……さっきはごめんなさい。あなたを苦しめるつもりはないのよ」
「わかってるさ。でも、幸せはただでは手に入らない。代償が必要なんだ」
「そうね。わたしもそう思うわ」
二人の影は互いに寄り添い、一つとなって進んでいく。
「俺たちの、この先の話をしないか」
「ええ、いいわ。何から話しましょうか」
「金はあるし、顔も利く。欲しいものは何でも手に入るだろうし、住みたい場所に住めるだろう」
「だって、勇者様ですものね。当然の権利だわ」
「リリィは何が欲しい?」
「あなたからの愛以外に?」
「ああ」
「そうね……幸せ、かしら。永遠に続く幸せ。明日を不安に思わなくてもいい幸せ。安住の地」
「何でも手に入るっていっただろう? まだ不安なのか?」
「ええ、少し」
アイルは大木にリリィを押し付けると、強引にキスをした。
「……これでもまだ不安なのか」
「……あなたにはわからないのよ。わたしがどんな気持ちで、たった一人であの塔に幽閉されていたかを」
「いまはもう自由じゃないか。暴虐の魔王は死んだ。勇者の俺がいる。幸せを、感じてもいいはずだ」
「違うの、違うのよ」
リリィはアイルの腕をすり抜けた。
アイルは、チキを思い出していた。
「……あなたが、憎いのよ」
「何だって?」
「憎くて憎くて仕方がないの……だってあなたはお仲間たちと、一緒に旅をして、楽しく話をして、魔王を倒して、感謝されて……幸せばっかり……!」
「リリィ……」
「わたし、ずっと寂しかった……かろうじて、窓から見える魔物たちを魔法で操るのが、唯一の生きがいだった……わたしはエルフで長生きだけど、失った時間はもう、取り戻せないわ……」
「それをいまから俺と一緒に取り戻すんだろう?」
「こんなわたしになったのに!?」
感情を爆発させたリリィの剣幕に、アイルは圧倒された。
「……一度人間に汚されたエルフは終わりなのよ。一族から追放され、種族の恥だと罵られる。見た目にはわからないでしょうけど、同族にはわかるのよ、人間と交わったって……」
「周りがどういおうと俺たちには関係ないだろう?」
「わたしはね、アイル、普通に生きたかった。エルフの森で他のエルフたちと同じように暮らしたかった。でも、魔王にさらわれてわたしの運命は決まったわ。一生汚いエルフとして生きないといけないのよ……」
微笑みながら涙をぼろぼろ流すリリィ。
アイルは、かける言葉を探した。
「俺は……きみの気持ちを全く理解してなかったんだな……」
「いいのよ、アイル、いいの。あなたは、いい人間、でしょう? きっとそうよね? わたしはね、ね、アイル、それを証明してほしいのよ」
「……俺に、何ができる?」
リリィはいった。
「殺して、あなたの大切なお仲間たちを。一刻も早く。わたしと同じになって。もう耐えられない。汚くなって! 下劣で最悪な勇者と罵られてよ!! いまのあなたは、遠すぎる……地の底まで降りてきて。わたしはそこにいるのよ。そうしたらやっと……やっと本当の意味で……一緒になれるから……」
「……わかった」
アイルは、固く決心した。
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