断罪される未来を知る悪役令嬢ですが、冷徹なはずの婚約者に勘違いされて溺愛ルートに入りました

六角

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第4話:恐怖のプレゼント攻撃

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ゼノン様に「健気な少女」だと勘違いされてから数日。
私の周囲で、明らかにおかしなことが起こり始めた。

まず、朝。
私が目を覚ますと、枕元に見知らぬ小箱が置かれている。
開けてみると、日替わりで美しい宝石があしらわれた髪飾りやイヤリングが入っているのだ。

昼。
学園での昼食の時間になると、どこからともなくシルヴァーグ公爵家の従者が現れ、三ツ星レストランのシェフが作った豪華なランチを届けてくる。
周りの生徒たちの視線が、痛い。

そして、放課後。
私が教室を出ると、廊下には毎日のように、抱えきれないほどの花束を持ったゼノン様本人が立っている。

「イザベラ、今日も息災だったか」

無表情でそう言いながら、私にドサリと花束を押し付けてくるのだ。
バラ、ユリ、蘭…どれも最高級品ばかり。
もはや、花屋が開けるレベルだ。

周囲の令嬢たちは、黄色い悲鳴を上げている。
「まあ、イザベラ様、ゼノン様にまたお花を!」
「なんて情熱的なのかしら!」
「氷の貴公子が、あんなにも…!」

やめてくれ。

その情熱(と私が勝手に思っているもの)は、すべて勘違いから生まれているのだ。
私は、ただただ恐怖しか感じない。

「ゼノン様、あの、このようなことは…」

「遠慮はするな。お前が喜ぶかと思って、俺が選んだ」

喜んでません。怖いです。

私の心の声は、もちろん彼には届かない。
彼は私が戸惑っているのを、「照れている」とでも解釈しているらしい。
そのアイスブルーの瞳の奥に、ほんのりと満足気な色が浮かんでいるのが、本当に恐ろしい。

そして今日、事件は起きた。

放課後、私が大量の花束を抱えて自分の馬車に向かっていると、またしてもゼノン様が待ち構えていた。
彼の隣には、シルヴァーグ公爵家の紋章が入った、巨大な箱がいくつも積まれている。

『な、なにあれ…』

嫌な予感しかしない。

「イザベラ」

私を見つけたゼノン様が、静かに歩み寄ってくる。

「先日、建国記念式典のためのドレスのデザイナーを寄越させると言っただろう。いくつか見繕わせてみた」

彼はそう言うと、従者たちに目配せした。
従者たちは、恭しく巨大な箱の蓋を開けていく。

中から現れたのは――目も眩むような、豪華絢爛なドレスの数々だった。

シルク、サテン、レース。
ふんだんに使われた宝石と、金銀の刺繍。
どれもこれも、小さな国の国家予算くらいは軽く吹き飛びそうな、超一級品ばかり。
しかも、その数が尋常じゃない。
ざっと見ただけでも、10着は超えている。

「ぜ、ゼノン様…これは、いくらなんでも…」

「気に入ったものはあったか?」

そういう問題じゃありません。

「もし、この中に好みのものがなければ、すぐに別のものを用意させるが」

「いえ、十分すぎます! ですが、こんなにたくさんは…」

私が必死に断ろうとすると、ゼノン様は不思議そうに首を傾げた。

「なぜだ? お前は、俺からの贈り物が欲しいのだろう?」

「え?」

「この前の、ネックレスの件のように。俺の気を引くために、また何かするつもりではないのか?」

してません! あれは事故です!

「だとしたら、先手を打っておくのが最善だと思ってな。お前が望むものは、言われる前にすべて与えてやろう」

望んでません!

彼は、私のために良かれと思ってやっているのだ。
すべて、すべて、あの「健気な少女」という勘違いから。
彼の善意が、私をどんどん追い詰めていく。

周囲の生徒たちが、遠巻きに私たちを見ている。
「すごいわ…イザベラ様、愛されてるのね…」
「あんなにたくさんのドレス、まるでお姫様だわ…」

違う、違うの! これは溺愛じゃない、呪いよ!

「さあ、どれがいい? それとも、全部屋敷に運ばせた方がいいか?」

無表情で、とんでもないことを言うゼノン様。
彼の瞳は、ただ純粋に、私の答えを待っている。

私は、あまりの恐怖とプレッシャーに、目の前がクラクラしてきた。
断罪される未来よりも、この勘違い溺愛地獄の方が、精神的にキツイかもしれない。

「…あ…」

何か言わなければ。
この誤解を、解かなければ。

そう思うのに、言葉が出てこない。
私の沈黙を、彼はまた肯定と受け取ったらしい。

「そうか、全部か。わかった」

彼は満足げに頷くと、従者たちに「すべてヴァレンシュタイン公爵家へ届けろ」と命じた。

ああ、もうダメだ。
誰か、この暴走する氷の貴公子を止めて。

私が絶望に打ちひしがれていると、ふと、視界の端に可憐な姿が映った。

桜色の髪。
潤んだ大きな瞳。

リリアナ・スチュアート。

彼女が、心配そうな顔で、こちらをじっと見つめていた。
ゲームのヒロインの登場。

それは、この悪夢のような状況を打開する、最後の希望の光のはずだった。

…そう、この時の私は、まだ本気でそう信じていたのだ。
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