白い結婚十年目、ようやく離縁できると思ったのに 〜冷酷公爵は今さら私を手放さない〜

なつめ

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第三十三話 最後の書状


 夜会の熱が完全に引いたあと、王都の屋敷は妙な静けさに包まれる。

 誰も眠っていないわけではない。
 むしろ、疲れ切って早く床へ就いた者も多いだろう。
 だが一度、公の場であれだけ大きく何かが崩れると、屋敷そのものがしばらく息をひそめるようになる。石壁の内側に、人の気配とは別の緊張が残るのだ。廊下を渡る足音は必要以上に小さくなり、扉はいつもより静かに閉じられ、下働きの囁きでさえ布に包まれたように鈍る。

 オルタシア公爵夫人が公の場で切り離された夜。
 帳簿の数字と使途不明金が、女たちの噂を追い抜いて広間の中央へ出た夜。
 そして、セヴェリオンが「この家を十年支えたのは妻イゼルディナだ」と宣言した夜。

 その夜のあとで、アルクライド公爵邸は明らかに音の質を変えていた。

 北の別邸から戻ったのは深夜だった。馬車が屋敷の正面へ滑り込み、石段の前で止まった時、窓のいくつかにはまだ灯りが残っていた。眠りに就けぬ者がいるのだろう。今夜のことを、主の帰還を、義母の顔色を、親族の動きを、物音ひとつ立てぬようにしながら気にしている者たちが。

 イゼルディナは、その灯りを見ても何も言わなかった。

 疲れていた。
 だがそれは、肉体の疲れだけではなかった。

 王都の夜会で自分の名前が公の光の下へ出たこと。
 義母の輪がほどけ、ラヴェル伯爵夫人もシェスティ侯爵未亡人も、ひとつずつ距離を取り始めたこと。
 ミュリエンヌが自分の名で立ったこと。
 セヴェリオンが母を切り、公の場で自分を「妻イゼルディナ」と呼んだこと。
 そのすべてが、疲労の中でまだ身体の奥にざらつきを残していた。

 部屋へ戻っても、すぐには眠れなかった。

 エウラが湯を運び、髪をほどき、夜着を整え、暖炉の火を足して下がったあとも、イゼルディナはしばらく鏡台の前に座っていた。頬にはまだ薄い熱が残っている。瞼は重いのに、意識だけが深く沈まない。

 鏡の中の自分は、夜会の飾りを落としたあとの素顔だった。
 髪飾りも、首元の宝石も、手袋もない。
 左の薬指にはやはり白い痕があり、それだけが今夜も変わらず残っている。

 その痕を見ていると、ふいに「最後の書状」のことを思い出した。

 あの離縁状。

 十年目の朝、正式な書状が届き、自分は深い安堵を覚えた。
 ようやく終われる。
 ようやくここから出られる。
 悲しいより先に、そう思ってしまった朝。

 それからもう、いくつのことが起きただろう。
 署名。
 離縁は認めないというセヴェリオンの拒絶。
 義母の嘲り。
 白薔薇の失敗。
 公爵家の暗い記録。
 守るためだったという告白。
 檻。
 許さないと告げた朝。
 北の別邸。
 雪解けの土地。
 義母の反撃。
 数字。
 ミュリエンヌの証言。
 王都の夜会。

 あの離縁状は、今もまだ机の引き出しのどこかにある。

 そこに書かれていたのは、自分の結婚の終わりのはずだった。
 なのに今では、それは終わりではなく、むしろ一つの入口のように見える。
 では、自分は本当は何を求めていたのだろう。
 自由か。
 復讐か。
 それとも愛か。

 その問いが、眠る前の静けさの中で急に大きくなる。

 イゼルディナは立ち上がった。

 暖炉の火は小さく、揺れている。部屋の中には、木の焦げる匂いと、夜の冷えと、少し残った香油の匂いがあった。彼女は夜着の上へ厚手の織物を羽織り、鏡台の脇の小机へ向かう。引き出しを一つずつ開ける。筆記具、封蝋、短い手紙、領収証。二つ目、三つ目。やがて一番奥の浅い引き出しの下に、それはあった。

 厚手の紙。
 官印。
 整いすぎた文面。

 離縁状。

 指先へ触れた瞬間、紙の冷たさが妙に生々しく感じられた。

 イゼルディナはその書状を持って、窓辺の椅子へ腰を下ろす。夜の王都は窓の外で暗く沈んでいる。遠くの灯りは薄く、空には雲がかかっていた。大夜会のきらびやかな光は、もうここまでは届かない。

 書状を開く。

 文面は、もう知っている。
 十年の婚姻。
 事前の約定。
 離縁を認める文言。
 必要な手続き。
 財と名義の整理。

 冷たいほど整った紙だった。

 あの朝、この紙を見た時、自分は何を欲したのだろう。

「自由」

 まず、その言葉が浮かぶ。

 ここから出られる自由。
 白い寝室と義母の温室と、愛されない妻の役から出られる自由。
 あの時の安堵は、たしかにそれだった。

 自由になりたかった。

 イゼルディナはその言葉を胸の中でゆっくり反芻する。
 北の別邸へ自分の足で向かった日を思い出す。
 馬車の揺れ。
 濡れた街道。
 雪解けの匂い。
 そして、白い寝室ではなく、自分の呼吸が自分のものとして返ってくる場所。

 自由は、たしかに欲しかった。
 今でも欲しい。
 それは本当だ。

 けれど、自由だけだろうか。

 もし本当にただ自由だけが欲しかったのなら、北の別邸で温室のひびや種芋や村人たちにここまで心を動かされただろうか。
 もっと静かな、誰にも関わらない暮らしだけを求めてもよかったはずだ。
 実際、離縁状が届いた最初の頃は、そういう暮らしを想像した。
 小さな別邸で、自分の帳簿と茶器と白薔薇だけを持って、静かに日を送る生活。

 それは魅力的だった。
 今でも、完全に捨てたわけではない。

 でも、北の別邸で村の種芋が腐った時、自分はただ「静かに生きる自由」では足りなかった。
 立ち上がって、帳簿を見て、水路を見て、人を動かし、秋の飢えを避けようとした。
 つまり自分は、「何者にも縛られず、誰にも関わらず生きる自由」だけを欲していたわけではない。

 もっと別のものも、欲しかったのだ。

「復讐」

 次に浮かんだのは、その言葉だった。

 義母オルタシアへ。
 長年の侮辱へ。
 白い結婚を押しつけ、自分の価値を削り続けたあの家へ。

 王都の夜会で、義母の輪が崩れ、ラヴェル伯爵夫人も侯爵未亡人も自分の裾を守るために後ずさった時、胸の奥に快感が走ったのは事実だ。ざまあ、と笑いたくなる気持ちもあった。帳簿の数字で追い詰めることは、思っていた以上に気持ちがよかった。

 それを否定する気はない。
 復讐の喜びは、たしかにあった。

 けれど、それだけだろうか。

 義母が公の場で切り離され、親族の輪が崩れても、それだけで自分の十年が癒えたわけではなかった。
 ざまあの快感はあった。
 でも、その後に残ったのは、空っぽの甘さではなく、もっと乾いた感情だった。
 ようやく真実が表へ出た。
 ようやく自分の名前が日の当たるところへ置かれた。
 その安心と、なお残る痛み。

 復讐だけが欲しかったのなら、あの夜会のあと、もっとすっきりしていたはずだ。
 でも実際には、そうではなかった。

 では、愛か。

 イゼルディナは、書状の端を指でなぞりながら目を閉じる。

 愛。

 欲しかったかと問われれば、もちろん欲しかった。
 最初から。
 結婚した夜。
 白い結婚だと告げられたあとも、心のどこかではまだ、いつか何かが変わるのではないかと思っていた。
 白薔薇の好きなことも、茶の温度も、魚の小骨を面倒がることも、知られていたと知った時、胸が動いたのも事実だ。
 王都の夜会で、公の場の真ん中で「妻イゼルディナ」と言われた時、胸の奥が熱くなったのも。
 北の別邸の温室で、無意識に名前を呼ばれた時、たったそれだけで乱れた自分に腹を立てたことも。

 愛は、欲しかった。

 たぶん今でも。

 けれど、愛とだけ言ってしまうと、何かが違う。
 足りない。
 あるいは、ずれている。

 セヴェリオンが爵位も家名も失っていいと言った時、自分は頷かなかった。
 もし欲しかったものがただ「大きな愛の証明」だったのなら、あの瞬間に心は揺れたかもしれない。
 けれど実際には違った。

 欲しかったのは劇的な犠牲ではなかった。
 最初から対等に扱われること。
 危険があるなら共有されること。
 白い寝室の扉の前で一人きりにされず、同じ場所に立つ人として見られること。
 知っているなら大切にすること。
 守るため、という名目で檻へ入れられるのではなく、選ぶ権利を持つこと。

 そこまで考えたところで、イゼルディナはようやく、自分の胸の中で何がずっと引っかかっていたのかを、はっきりと掴んだ。

「……選択権」

 声に出してしまうと、その言葉は不思議なくらい静かに部屋へ落ちた。

 暖炉の火が、小さく鳴る。

 そうだ。
 自由でも、復讐でも、愛でもなく。
 その全部の根にあるもの。

 自分の人生に関する選択権。

 それが欲しかったのだ。

 白い結婚にするのなら、そうすると自分で選びたかった。
 危険があるなら、その危険ごと知ったうえで残るか離れるか決めたかった。
 義母に嘲られた時も、ただ耐えるだけでなく、どう線を引くか自分で決めたかった。
 愛されるかどうかも、その愛の質を受け取るかどうかも、こっちが選びたかった。
 離縁状が来た朝に感じた安堵も、要するに「ようやく自分で出ていける」という感覚だったのだ。

 自由は、その結果にすぎない。
 復讐も、その権利を奪われた怒りから生まれた。
 愛もまた、選べる位置にあって初めて意味を持つ。

 選択権そのもの。

 それが、ずっと欲しかったのだ。

 イゼルディナは書状を膝の上へ置き、両手で包むようにした。
 紙はまだ冷たい。
 でも、その冷たさはさっきまでとは少し違って感じられる。

 この離縁状は、自分を追い出すための紙ではなかった。
 皮肉なことに、最初に「選べる」形を与えた紙だったのだ。
 終わりを一方的に突きつける書状のように見えて、実際には、それがなければ自分はずっと檻の中で、何を欲し、何を奪われていたのかすら言葉にできなかったかもしれない。

 だから、最後の書状と呼ぶには少し違うのだろう。
 これは終わりではなく、ようやく自分の人生へ手を伸ばすための最初の紙だったのだ。

 扉の外で、控えめな足音がした。

 イゼルディナは顔を上げる。
 ノックはすぐには来ない。
 その遠慮が、誰なのかを教える。

「……何かしら」

 声をかけると、一拍おいて低い声が返る。

「起きていたか」

 セヴェリオン。

 イゼルディナは、少しだけ目を閉じた。
 今、この人へ向けて整理できた気持ちを全部そのまま話せる気はしない。
 けれど、だからといって追い返したいとも思わなかった。

「ええ」

 そう返すと、扉の向こうで少しだけ気配が動いた。

「入ってもいいか」

 昔なら、こんなふうに訊かなかった。
 この数日の変化は、もう一時の偶然ではないのだろう。

「どうぞ」

 扉が開く。

 セヴェリオンは夜会の礼装の上着だけを脱ぎ、黒いベスト姿になっていた。髪は少しだけ乱れ、目元には夜更けの疲れがある。けれどその疲れの下にも、まだ完全には消えていない緊張があった。

 彼は部屋へ入ると、まずイゼルディナの手元の紙を見た。
 見ただけで、それが何かわかったらしい。

「……それか」

「ええ」

 イゼルディナは離縁状を持ち上げた。

「最後の書状」

 セヴェリオンの表情が、かすかに変わる。
 痛みとも後悔ともつかぬ影が目元へ差す。

「処分しなかったのか」

「今夜、ようやく意味がわかったから」

 イゼルディナはそう言って、書状をそっと小卓へ置いた。

「意味?」

 問う声は低い。
 慎重でもあった。

 イゼルディナは少し考え、それから答える。

「私は、自由が欲しいのだと思っていたの」

 セヴェリオンは黙って聞く。

「あるいは、義母様への復讐。
 それとも、あなたから愛されること。
 たぶんその全部を、少しずつ欲しかったのだと思う」

 自分でも驚くほど、声は落ち着いていた。

「でも、どれも少しずつ違った」

 窓の外の夜は深い。
 暖炉の火が、小さく揺れる。
 その明かりの中で、セヴェリオンの顔はひどく静かだった。

「本当に欲しかったのは」

 イゼルディナは、左の薬指をそっと押さえる。

「自分の人生に関する選択権そのものだったのね」

 その一言で、部屋の空気がすっと静まる。

 セヴェリオンは何も言わない。
 だが、その沈黙が軽くないことだけは伝わる。

「あなたが爵位も家名も失っていいと言った時、私は頷けなかった」

 イゼルディナは続ける。

「それは、欲しかったのがそういう劇的なことじゃないから。
 最初から、私が知って、選べる位置にいたかっただけだったの」

 セヴェリオンの喉が、わずかに動く。

「白い結婚にするかどうか。
 危険を引き受けるかどうか。
 この家に残るかどうか。
 愛を受け取るかどうか。
 その全部を、最初から自分で選びたかった」

 そこで初めて、セヴェリオンが口を開いた。

「……奪ったのは、そこか」

 低く、ひどく静かな声だった。

 イゼルディナは頷く。

「ええ」

 それは責めるための「ええ」ではない。
 事実として認める「ええ」だ。

 セヴェリオンは、目を伏せた。
 その顔には、夜会のあと控え室で見たのとはまた違う種類の痛みがあった。自分が彼女の心を傷つけたことだけではなく、その傷の正体がようやく見えてしまった時の、人の顔だ。

「……私は」

 彼は言葉を探すように少し黙った。

「守ることばかり考えていた。
 危険を遠ざけること。
 母上の目を逸らすこと。
 お前の名が標的にならないようにすること」

 イゼルディナは聞いている。
 もう、その告白そのものに大きく揺れはしない。

「だが」

 セヴェリオンは続ける。

「その全部の中に、お前が自分で選ぶ余地があるかどうかを、一度も考えていなかった」

 その言葉は、ようやく彼が本当にそこへ辿り着いたことを示していた。

 イゼルディナは静かに息を吐く。

 理解されたからといって、それだけで全てが埋まるわけではない。
 でも、理解されないままよりは、ずっとましだ。

「だから」

 彼はさらに言う。

「離縁状も……」

 視線が、小卓の上の紙へ落ちる。

「解放のつもりだった。
 お前をここから出すための」

「ええ」

 イゼルディナは頷く。

「そうなのでしょうね」

 それも本当だ。
 彼はあれを解放の紙として出した。
 けれど、自分にはそれが「ようやく選べる」と感じられた。
 同じ紙でも、意味は少しずつ違っていた。

「でも、結局それもあなたが決めた『終わり方』だったのよ」

 その指摘に、セヴェリオンは黙る。

「だから私は、署名してもなお、あなたに『離縁は認めない』と言われた時、本当にわからなくなった。
 終わらせるのもあなた。
 終わらせないのもあなた。
 私はどこにいたのかって」

 その頃の混乱を思い出すと、胸の奥がまだ少しざわつく。
 ただ痛かっただけではない。
 自分の立つ場所が見えなくなる感じ。

「今夜やっとわかったの」

 イゼルディナは、小卓の書状へ指を置く。

「私は、何を欲しかったのか」

 その言葉は、自分の中でひどく静かな確信を持っていた。

「だからこの紙は、もうただの離縁状じゃない。
 私が自分で選ぶための紙だったのね」

 セヴェリオンは、しばらくそれを見つめていた。

 やがて彼は、静かに問う。

「……それなら」

 低い声。

「今、お前は何を選びたい」

 その問いは、簡単そうでいて、一番難しかった。

 イゼルディナはすぐには答えなかった。

 自由か。
 復讐か。
 愛か。
 その全部の根が「選択権」なのだと気づいたあとでは、逆に答えはもっと複雑になる。

 今、自分は何を選びたいのだろう。

 完全な自由を選んで、この家と縁を切ることか。
 義母と親族の転落を最後まで見届けることか。
 それとも、ようやく対等な形を探り始めたこの男と、まだ続くかもしれない道を考えることか。

 どれも少しずつ自分の中にある。
 だから、単純に一つを指差すことはできない。

「……まだ」

 イゼルディナは、正直に言った。

「一つには決められないわ」

 セヴェリオンは頷く。
 急かさない。
 その沈黙が、今夜の彼にはちゃんと出来ていた。

「でも」

 イゼルディナは続ける。

「少なくとも、もう私の代わりに選ばないで」

 それだけははっきり言えた。

「離縁するかどうかも。
 この家にどう関わるかも。
 あなたをどう思うかも。
 全部」

 左の薬指を、今度は自分の右手でしっかりと包む。

「私が決める」

 その宣言は、王都の夜会で公の名を取り戻したことより、もっと静かで、もっと深い場所に届いた気がした。

 自分の人生に関する選択権。
 それを、ようやく自分の口で握り直したのだ。

 セヴェリオンは、その言葉をまっすぐ受けた。

「……ああ」

 短い声。
 だが今夜の彼の返事の中では、一番誠実に聞こえた。

「お前が決めろ」

 それだけ。

 それだけで十分だと、イゼルディナは思う。

 愛しているとも。
 失いたくないとも。
 爵位も家名も捨てるとも。
 今夜はもう、そういう大きな言葉はいらなかった。

 必要なのは、選ぶのは自分だと認められることだけだ。

 窓の外の夜は深い。
 だが、遠くにわずかに雪解け水の落ちる音がした気がした。
 王都の中にいても、季節はちゃんと進んでいるのだろう。

 イゼルディナは離縁状をゆっくりと折りたたんだ。
 処分はしない。
 まだしばらく手元に置く。
 最後の書状ではなく、自分の人生の選択権を思い出させる紙として。

「もう遅いわ」

 彼女は立ち上がる。

「休みましょう」

 セヴェリオンもまた立ち上がる。
 今夜はそれ以上何も言わなかった。

 扉へ向かう前、イゼルディナは一度だけ振り返る。

「私は、自由も復讐も愛も、たぶん全部少しずつ欲しいの」

 自分でも不格好だと思うほど正直な言葉だった。

「でも、そのどれより先に、選ぶ権利が欲しい」

 セヴェリオンは静かに頷いた。

「忘れない」

 その返答を聞いて、イゼルディナは今夜初めて、胸の奥の緊張がほんの少しだけほどけるのを感じた。

 単純な答えではない。
 これから先も、きっと何度も揺れる。
 それでも、今夜ようやく、自分が何を本当に欲していたのかだけははっきりした。

 自由でも。
 復讐でも。
 愛でもなく。

 その全部を、自分で選ぶ権利。

 それだけが、今の彼女には何よりも眩しかった。

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