王妃失格と呼ばれた私を、敵国の王だけが抱きしめた

なつめ

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第23話 近づく距離


 冬祭りの翌日から、王宮の空気はまた少しだけ静かになった。

 祭りの夜に街へ降りた者たちは、それぞれに火の話を持ち帰る。どこの露店の菓子がよかったとか、どこの家の灯りが今年はいちばん美しかったとか、子どもが雪へ転んで泣いたとか、そういう小さな話だ。王宮の中でも、侍女たちが湯を運びながら、回廊の端で布を畳みながら、少しだけ口元をやわらげて囁き合う。冬祭りのあとの王都には、厳しい寒さの中で一度だけ火をたくさん見た人間特有の、淡くほどけた気配がしばらく残るらしかった。

 リュゼリアの中にも、その夜の灯はまだ消えずに残っていた。

 子どもたちから渡された花冠は、結局そのまま枯らすには惜しくて、乾燥花の傷みやすいところだけを外し、赤い実と常緑の葉をいくつか残した形で小皿の上へ置いてある。鏡台の端へそっと置かれたそれは、祭りの夜の記憶というより、まだうまく受け取りきれない善意の名残のように見えた。

 あの夜以降、リュゼリアは何度か、自分でも気づかぬうちにその小皿へ視線をやっていた。

 善意を向けられること。
 役目ではなく、ただ気持ちとして何かを差し出されること。
 それを、断りもせず頭へ乗せていた自分。

 慣れない。いまだに慣れない。けれど、慣れないからといってすぐに遠ざけてしまいたいわけでもない。その中途半端な気持ちが、ひどく静かに胸へ残り続けている。

 そんなある夜だった。

 夕食のあと、ミレシュカが部屋へ茶を運んできた時、いつもの盆とは別に、小さな紙片が添えられていた。厚い紙ではなく、実務の短い伝言に使う簡素なもの。封もなく、折り目も一度だけ。

「陛下より」
 ミレシュカが言う。
「温室においでになるなら、来るかと」
「温室に?」
「はい。今夜、少し遅くまで灯りを残すそうです」
「……」
「無理であれば、無理だとお伝えいたします」

 リュゼリアはその紙片を受け取った。

 短い文だった。

 今夜、温室へ行く。来るか。

 余計な言葉がない。どこまでも彼らしい。だがそれゆえに、いまの自分へ無理に何かを求めていないことも分かる。来い、ではない。来るか、とだけある。来なければならない理由も、政治的な用向きも、帳簿の話も書いていない。

 ただ、温室へ行く。
 来るか。

 その静かな誘いが、胸の奥へゆっくり落ちた。

「……行くわ」
 リュゼリアは言った。
「承知しました」

 ミレシュカはそれ以上何も言わなかった。ただ、夜用の厚手の外套を用意し、肩へかけるための柔らかな毛織物と、指先の動かしやすい薄手の手袋を机へ置いていく。そういうところが、彼女はつくづく行き届いていると思う。温室へ向かう程度なら大仰な防寒は要らない。だが夜の回廊は昼より冷えるから、首元だけは守った方がいい。そのちょうどよいところを、いつも無言で整える。

 部屋を出た時、東翼はもうほとんど寝静まっていた。

 燭台の火は落とされすぎず、けれど明るすぎず、石壁の輪郭だけをやわらかく照らしている。遠くで見回りの兵の足音が規則的に響き、それが止むと、暖炉の中で薪が崩れる音が微かに聞こえた。夜の王宮は、昼間より音が少ない。そのぶん、人の気配も、自分の呼吸も、少し大きく聞こえる。

 北側の回廊を折れ、温室へ近づくと、扉の隙間から湿った熱が流れてきた。

 夜の温室は昼と違う匂いがする。

 昼は土と葉の匂いが前へ出る。人の手が入り、水が動き、棚が揺れ、薬草の束が吊り直される。けれど夜は、昼間あたためられた土がゆっくり熱を放ち、湿り気が空間全体に均一に満ちる。そのため匂いが静かに混ざり合う。濡れた土、乾燥葉、樹脂、少しの花の香り。どれか一つが立つのではなく、全部が低くひとつの息になっている。

 扉を開けると、灯りは最小限だった。

 昼間のように棚をはっきり照らすものではない。暖炉代わりの小さな火鉢が二つと、卓の上の燭台、それから壁際に置かれた灯りが一つ。硝子天井の向こうはもう真っ黒で、そこへ王宮の高い塔の灯りがときどき小さく映り込んでいる。昼の温室が「育てる場所」だとしたら、夜の温室は「息を整える場所」に近かった。

 ゼルヴェインは奥の長椅子の近くにいた。

 外套は脱いでおり、黒に近い濃紺の上衣のまま。昼間の執務姿より少しだけ肩の力が抜けて見える。卓の上には、湯気の立つ茶器と、小さな皿に載せた干し果実、それから薄く焼いたパン。酒ではなく茶なのが、いかにも彼らしいと思った。

「来たか」
「ええ」
「寒くなかったか」
「大丈夫よ」
「そうか」

 短いやり取りのあと、彼は長椅子の一角を目で示した。命令というほど強くない。けれど遠慮して立ち尽くす余地も残さない示し方だ。

 リュゼリアはそこへ腰を下ろした。

 長椅子は柔らかすぎない。温室の湿気を吸いすぎないようにか、張られた布地は少しだけ硬く、背を預けても沈み込みすぎない。その座面の温度が、すでに人の体温で少しあたためられていることに気づき、胸の奥がほんの少しだけ揺れる。彼は先にここへ来て、茶を用意し、この場所を整えていたのだろう。

「茶を飲め」
 彼が言う。
「熱すぎない」
「ありがとう」

 杯を取る。薄い琥珀色の液が灯りを受けて揺れる。薬草茶ではない。香りを嗅ぐと、干した林檎と少しの蜂蜜、それからごく薄い香草が混ざっていた。甘すぎず、けれどただの湯ではなく、夜の冷えた身体へやわらかく入るための茶だ。

 ひと口飲む。

 熱は穏やかで、喉を滑ると胸のあたりにじんと広がった。暖炉の火とも違う、内側からあたたまる感じ。今日一日、王宮の中でそれなりに穏やかに過ごしていたはずなのに、こうして温かなものを口へ入れると、自分が思ったより冷えていたのだと分かる。

 しばらく、二人とも何も言わなかった。

 沈黙が苦しくないということ自体に、リュゼリアはいまだに時々驚く。昔の宮廷では、沈黙はたいてい失敗の予兆だった。何か言うべき時に言葉を外し、空気を和ませるべき時に場を冷やし、次に誰かのため息や皮肉が落ちてくる前の、痛い静けさ。そういうものばかりを知っていた。

 けれどゼルヴェインのいる場所の沈黙は違う。

 何かを試されているわけでも、埋めなければならない空白でもない。ただ、言葉がまだ必要でないだけの静けさ。温室の夜はその性質をさらに濃くしていた。土が息をしていて、火が小さく鳴り、葉の影が揺れている。その中では、人の言葉も急ぐ必要がないように思える。

「祭りの花冠は」
 やがて、ゼルヴェインがぽつりと言った。
「まだ取ってあるのか」
 リュゼリアは瞬きをした。
「……見たの」
「お前の鏡台は東翼の窓からは見えん」
「そうね」
「だがミレシュカが、捨てなかったと言った」
「……」
「不服か」
「いいえ」
 リュゼリアは杯の表面へ目を落とした。
「少し、恥ずかしいだけ」
「なぜ」
「子どものものみたいでしょう」
「贈られたものだ」
「あなたは、すぐそう言う」
「事実だ」

 その事実の置き方が、ひどく彼らしい。だからリュゼリアは少しだけ目を細めた。

「……でも、うれしかったの」
「そうだろうな」
「ただ」
「ただ?」
「うれしいと思うこと自体に、まだ少し驚くの」

 そこまで口にしてから、リュゼリアは自分でも、どうしてこんなことが自然に出るのだろうと思った。王宮では、うれしいという感情をそのまま口にする機会はあまりなかった。あったとしても、それはたいてい「感謝しております」と整え直された形でしか出せなかった。

 けれどここでは、ときどき言葉がそのまま落ちる。

 ゼルヴェインは茶の杯を手にしたまま、少しだけ目を伏せた。

「驚くのは悪いことではない」
「ええ」
「慣れていないだけだ」
「……」
「慣れる必要があるとも言わん」
「そうね」
「ただ、驚くたびに全部を拒む必要もない」

 その言葉に、リュゼリアはゆっくりと息を吐いた。全部を拒む必要もない。そう言われると、たしかにその通りだと思える。受け取りきれぬからといって、すべてを閉め出さなくてもよいのかもしれない。花冠を捨てなかったように。小皿の上へ置き、まだ自分の中のどこへ収めるか分からぬままでも、持っていてよいのかもしれない。

 少しの間のあとで、ゼルヴェインがふと言った。

「お前は、祖国で何をいちばん口にしなかった」

 問いは唐突だった。だが不自然ではなかった。今夜の温室の静けさの中では、そういう問いも、急に現れるのではなく、土の中から自然に芽を出すもののように感じられる。

「……何を」
 リュゼリアは小さく繰り返す。
「いちばん、言えなかったことだ」
「……」

 杯の縁へ指をかけたまま、少し考える。

 言えなかったことは多い。
 痛いということ。
 苦しいということ。
 役に立ちたいという焦り。
 役立たずと見なされる怖さ。
 夫が自分を見ていないことへの寂しさ。
 子を失った夜の恐怖。
 薬への不信。
 王太后への息苦しさ。
 側妃たちのきらびやかな軽さへの羨ましさと疲れ。

 どれも口にしなかった。いや、口にできなかった。

 けれどその中でいちばん、と言われると、ひどく単純なものが残る。

「……怖い、ということ」
 リュゼリアは言った。
「何が」
「いろいろ」
「それでは曖昧だ」
「ええ」
 リュゼリアはかすかに笑いそうになった。
「でも、本当にいろいろだったの」
「……」
「王太后の機嫌を損ねるのも、侍女たちに陰で笑われるのも、夜会でひとつ言葉を誤るのも」
「……」
「子を授かれないのではないかと考えるのも、授かっても保てないのではと怯えるのも」
「……」
「全部、怖かった」

 口にすると、胸の奥へ静かな痛みが広がる。けれどそれは息が止まるほどの痛みではない。過去の自分が、ようやく外へ出してもよいと許された時の鈍い熱に近い。

「でも、いちばん言えなかったのは」
 リュゼリアは続ける。
「その『怖い』を、言ったら終わりだと思っていたことかもしれない」
「終わり」
「ええ」
「なぜ」
「王妃が怖がっているなどと知られたら、きっともっと軽く見られると思ったの」
「……」
「弱い女だと。頼りない女だと」
「……」
「だから黙っていた。黙って、分からないふりをして、平気な顔をして、誰にも見せなかった」

 ゼルヴェインはしばらく何も言わなかった。

 温室の夜は、そういう沈黙を受け止めてくれる。遠くの火鉢が小さく鳴り、天井の硝子に外の闇が淡く映る。その静けさの中で、リュゼリアは自分の言葉が地面へ落ちていくのを感じた。空中で消えない。ちゃんと重さを持って、どこかへ根づいていくような感覚。

「……あなたは」
 今度は自分から問うた。
「何かある?」
「ある」
「すぐ答えるのね」
「問われたからな」
「……」
「何を」
「祖国では口にしなかったことと同じか」
「いや」
 ゼルヴェインは茶をひと口飲み、それから言った。
「口にしなかったというより、口にしても意味がないと思っていたことだ」

 その言い方に、リュゼリアは少しだけ身じろぎした。怖いから言えなかったのとは、少し違う。もっと諦めに近い響きがある。

「母のことだ」

 その言葉で、リュゼリアは息を止めた。

 彼が自分から過去を語ることは少ない。いや、少ないというより、ほとんどなかった。王としての判断、いま必要な指示、目の前の実務については躊躇なく言葉にするのに、自分自身の過去や感情については、たいてい必要最小限しか語らない。

 その彼が、母のこと、と言う。

「亡くしたの」
「ああ」
 短い返答。
「いつ」
「子どもの頃だ」
「……」
「冬だった」

 その一言だけで、温室の空気が少し変わる気がした。

 冬。
 母。
 子どもの頃。

 それ以上の飾りがなくても、その三つだけで十分に痛い。

「病だった」
 ゼルヴェインは続ける。
「長くはなかった。冬の初めに熱を出し、そのまま一月も持たなかった」
「……」
「周囲は静かだった」
「静か」
「そうだ。王妃が病んでいる時、人は妙に静かになる」
「……」
「声を潜め、足音を消し、優しい顔を作る」
「……」
「だが、その静けさの中で、何が変わるかを皆よく知っている」
「……」

 リュゼリアは彼を見ていた。彼の表情は変わらない。けれど言葉の置き方だけが少し変わる。普段のように切るための声ではなく、遠い場所を一つずつ掘り返すような声。

「母が死んだ時」
 ゼルヴェインは言う。
「泣くなと言われた」
「……」
「公の前では」
「……」
「王の息子だからだ」
「……」
「それが役目だと」
「……」
「分かったような顔をして、黙って立っていた」

 その情景があまりにもはっきり見えて、リュゼリアは喉の奥が熱くなった。

 冬の王宮。
 高い天井。
 冷えた空気。
 黒い服。
 泣くなと言われ、立ち尽くす子ども。

 ゼルヴェインの今の冷静さや、感情を表へ出しすぎない態度の根に、そういう時間が横たわっているのだと思うと、胸の奥がゆっくり痛んだ。

「それから」
 彼は続ける。
「私は、失う前提で物を見た方が楽だと思うようになった」
「……」
「最初から距離を置き、期待せず、役目だけを見る」
「……」
「そうしておけば、痛みは減る」
「……減った?」
「減らなかった」

 その答えは、ひどく静かだった。

 減らなかった。

 それはそうだろう。痛みというものは、先に諦めを置いたからといって綺麗に薄まるものではない。けれど、人はそう思いたくなる。期待しない方がましだと。近づかない方が安全だと。リュゼリアにも、その感覚はよく分かる。

「だから」
 ゼルヴェインは言う。
「お前が『いつか終わるのではないか』と怯える時の考え方は、少し分かる」
「……」
「違う形だが、似たことはしてきた」

 その言葉に、リュゼリアは何も返せなかった。

 似たことはしてきた。

 彼は彼で、失う前提で距離を取り、役目だけを見るようにしてきた。リュゼリアはリュゼリアで、期待され失望されるのを恐れて、自分から先に心を縮めるようになっていた。形は違う。けれど傷の動き方に、どこか似たものがある。

 そう思った瞬間、温室の中の空気がほんの少しだけ近く感じられた。

「……あなたは」
 リュゼリアは言う。
「母上のことを、今でも」
「覚えている」
「……」
「匂いを」
「匂い」
「冬の火の匂いと、少しの薬草の匂いが混ざっていた」
「……」
「だから温室の夜は、時々、妙に近い」

 その言葉は、告白にしてはあまりに静かだった。けれど静かだからこそ、本物だった。自分でもたぶん、頻繁には口にしないことを、今夜はそのまま出しているのだと分かる。

 リュゼリアは杯を両手で包んだまま、しばらく何も言えなかった。

 恋をしているのかと問われたら、たぶんまだ違うと答えるだろう。少なくとも、物語に出てくるような華やかな熱ではない。胸がはずみ、触れたいと思い、夜ごと名を呼ぶような、分かりやすい恋ではない。

 けれど、いまここで起きていることは、それよりもっと深い場所の変化だった。

 この人の前なら、黙っていた言葉を少しずつ出せる。
 怖いことも、傷ついたことも、うれしかったことも、受け取りきれない善意への戸惑いも。
 そしてこの人もまた、自分の過去の奥に沈めていたものを、必要なだけ差し出してくる。

 そういう相手がいること自体が、リュゼリアには初めてのことだった。

 安心して心を置ける相手。

 その言葉が胸のどこかで生まれかけて、でもまだ大きな声にはできない。ただ、温室の湿った熱と、夜の静けさと、向かいに座る男の低い声の中で、それが少しずつ形になり始めているのを感じるだけだ。

「……あの」
 リュゼリアはふと、言葉を探した。
「何だ」
「私が、こうして話せるのは」
「……」
「あなたが、急がないからだと思う」

 ゼルヴェインは少しだけ目を上げる。

「急がれたら、きっとまた黙るわ」
 リュゼリアは続ける。
「言葉にする前に、飲み込んでしまう」
「そうだろうな」
「……」
「だから急がん」

 その一言に、胸の奥が静かにほどける。

 そうだろうな。
 だから急がん。

 彼はいつもそうだ。こちらの傷の形を無理に変えようとはしない。ただ、その形のまま置いておける場所を作る。今夜の温室も、たぶんその一つなのだろう。

 火が小さく鳴る。
 葉がかすかに揺れる。
 夜の湿気が、土の匂いをゆっくり持ち上げる。

 リュゼリアは目を閉じて、ひとつ深く息を吸った。薬草と土と火の匂い。その中に、ごく薄く、夜の外気を纏ってきたゼルヴェインの匂いが混ざる。革と、火と、冷えた空気。今ではその匂いを感じると、身体のどこかが少し緩むようになっている自分に、改めて気づく。

 しばらくして、ゼルヴェインが立ち上がった。終わりを告げるような大きな動きではない。ただ、長椅子の横へ少し歩き、温室の棚から小さな鉢を一つ持って戻ってきた。白く細い葉を持つ小さな草だ。まだ育ちきっていない若い株らしい。

「これを」
 彼は言う。
「東翼へ持っていけ」
「私に?」
「夜に少し匂いが出る」
「……」
「眠れぬ時、ましになるかもしれん」

 リュゼリアはその鉢を受け取った。土はあたたかく、葉に触れるとごくかすかに清い香りがする。雪草にも似ているが、それよりやわらかい。夜に匂いが出るというなら、きっといまはまだ眠っているのだろう。

「名前は」
「夜咲草」
「そのままね」
「そうだ」

 その簡素さに、二人とも少しだけ息を漏らした。

 それは笑いと呼ぶには静かすぎる。けれど、たしかに同じ場所でこぼれたやわらかい息だった。

 温室を出る時、ゼルヴェインはまた歩幅をリュゼリアに合わせた。夜の回廊は昼より冷える。だが今夜は、胸の内に静かな熱が残っていて、それが足先の冷えをいくらか和らげているようだった。

 東翼の扉の前で、彼は言う。

「また来るか」
「温室へ?」
「そうだ」
「……ええ」
 リュゼリアは鉢を抱えたまま頷いた。
「行きたいわ」
「なら、そうしろ」

 扉が閉まる。
 鍵がかかる。

 客室へ戻り、リュゼリアは夜咲草の鉢を窓辺へ置いた。外は真っ暗だ。けれど室内には暖炉の火があり、鏡台の端には祭りの花冠があり、窓辺には新しく夜に匂う草が置かれた。

 誰かと穏やかに語り合った夜の名残として。

 恋が始まる、というにはまだ静かすぎる。
 だが、安心して心を置ける相手が生まれる夜とは、きっとこういうものなのだろうと、リュゼリアはようやく少しだけ知り始めていた。

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