王妃失格と呼ばれた私を、敵国の王だけが抱きしめた

なつめ

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第30話 王妃失格の真実


 泣き切った翌朝の光は、思っていたより容赦がなかった。

 夜のうちに、涙で熱を持っていた目元は少し腫れたまま朝を迎えた。窓の外には、雪が降るでもなく、晴れるでもない白い空が広がっている。王宮の塔の先は薄い靄に溶け、石畳は昨夜の冷えをまだ残して鈍く光っていた。冬の終わりが近づいていると言う者もいる。だがその朝の光に、春らしい赦しは一つもなかった。むしろ、夜のあいだにどうにか沈めたものを、もう一度はっきり見せるための白さのように感じられた。

 東翼の客室は静かだった。

 暖炉の火は整っている。夜咲草の葉は窓辺で小さく揺れ、鏡台の端には、冬祭りの花冠の残りがまだ小皿の上にある。机の隅には冬越し袋の配分表が重ねられ、その下には、帳簿の写しと書き込みの残る紙片が几帳面に束ねられていた。どれもここで過ごした日々の証だ。少しずつ自分の手で動かし、少しずつ自分の目で見て、少しずつ信頼を受け取り始めた時間の積み重ね。

 けれど、その朝のリュゼリアには、それらがひどく遠かった。

 昨夜、真相を知って泣き切ったことで、少しは何かが軽くなるのではないかと、どこかで思っていたのかもしれない。だが実際には逆だった。泣いてしまったからこそ、もう見なかったことにはできない。胸の奥へ押し込めていた痛みと悔しさが、形を持ったまま残っている。

 失われた子。
 壊された身体。
 体調管理の薬。
 「弱いからだ」「保てない体だからだ」と言われ続けた日々。

 それが自然ではなかったかもしれないという疑いは、昨夜までの彼女にとって十分に重かった。けれど今は、もう疑いではなく「証拠のある事実」としてそこにある。その違いは、思っていた以上に大きかった。疑いなら、心のどこかで逃げられる。けれど事実は、逃げ場そのものを消してしまう。

 朝食はほとんど喉を通らなかった。

 薄い粥を二口。茶を少し。卵は半分も進まない。ミレシュカはそれ以上勧めなかった。ただ器を下げ、代わりに湯を新しくし、窓辺の夜咲草を少しだけ陽の当たる位置へ寄せる。そういう小さな手入れの一つ一つが、今のリュゼリアにはありがたかった。言葉を向けられるより、黙って整えられる方が、まだ息をしやすい。

 だからこそ、その沈黙を破るように届いた呼びかけが、今日もまた胸を緊張させた。

「リュゼリア様」

 ミレシュカの声は低い。だが昨夜のような、何かが壊れる直前の張りではない。もっと冷静で、もっと実務に近い硬さだった。

「……はい」

 返事をすると、ミレシュカは一礼したあと、短く言った。

「陛下がお呼びです」
「……今、なのね」
「はい」
「また、北棟?」
「書庫に近い記録室でございます」
「……」
「昨夜とは少し、趣が違うかと」

 その言い方だけで、リュゼリアは少しだけ息を整えた。

 昨夜のように「何が起きたか」という真相そのものを告げられる場ではなく、その続き。証拠が積み上がり、もっと広い輪郭が見える場なのだと分かる。怖くないわけではない。だが怖さの性質は違う。傷口へ突然刃を入れられるようなものではなく、もう開いてしまった傷の周りに、どれだけの汚れが染みていたかを見せられる怖さだ。

「……行くわ」
 リュゼリアは言った。

 記録室は、北棟の奥まった場所にあった。

 書記室よりも広いが、窓が小さい。その代わり、壁一面に棚があり、古い帳面や封緘された書類箱が整然と並んでいる。紙と革と古いインクの匂いが、暖炉の熱に温められて低く漂っていた。火はある。けれど明るすぎない。光は机の上へ必要なだけ落ち、壁際の棚は半ば影の中だ。まるでここに並ぶ記録たちが、普段は黙って暗がりに沈んでいながら、必要な時だけ自分の顔を見せるような部屋だった。

 部屋にはすでに、ゼルヴェインと、侍従長カレル、財務書記官ニコラ、そしてラウルがいた。さらに、昨夜の外交文官と、見知らぬ壮年の男が一人。男は衣服こそ地味だが、手の甲に薄い紙傷が多い。書類そのものを扱う人間の手だ。文官ではなく、証拠の照合や書字鑑定を担う者かもしれない。

 机の上には、いくつもの帳面と紙束が並んでいた。

 見ただけで分かる。量が多い。しかも種類が違う。正規の帳簿だけではない。走り書きの控え、覚え書き、封蝋の割れた私信、署名のある決裁文書、備蓄品の受領票。あちこちから拾い集められたものが、一つの机の上でつながるのを待っている。

「来たか」
 ゼルヴェインが言う。
「ええ」
「無理なら、あとでもいい」
「……」
「だが、お前にも見せるべきだと判断した」

 その言い方が、ありがたかった。見なければならないではない。見せるべきだと判断した、と言う。つまりこれは、耐えられるかどうかを試すための場ではなく、自分の人生に関わる事実として、本人が知るべきだと考えられた場なのだ。

 リュゼリアは小さく頷き、机の横の椅子へ座った。

 ゼルヴェインは彼女が落ち着くのを待ってから、短く言った。

「昨夜は、お前の体と子についての証拠だった」
「……」
「今日は、その前後だ」
「前後」
「そうだ」
「……」

 言葉の意味がすぐには分からない。だが次の瞬間、机の上の帳面の一つが開かれ、それで理解した。

 これは、流産の夜だけの話ではない。
 その前から、ずっとだ。

 財務書記官ニコラが、一枚の書類を前へ滑らせた。

「これは、アルヴェリア王宮の冬季備蓄配分の指示書です」
「……」
「表向きは、当時の王妃殿下の確認済み文書」
「……私の」
「署名があります」

 リュゼリアは書類を見た。

 たしかに、そこには自分の名前があった。リュゼリア・アルノーグ。王妃として用いるべき正式な署名の形だ。けれど見た瞬間に分かる。これは自分の手ではない。

 似せてある。よく似せてある。だが違う。線の入り方が硬い。最後の跳ねが、リュゼリアならもう少しだけ流れる。文字の傾きも、左右の詰まり方も、わずかに違う。

「偽署です」
 壮年の男が言った。
「陛下」
 彼はゼルヴェインへ軽く礼をしたあと、リュゼリアへも向き直った。
「わたくしは書字照合を務めております。王宮に保管された正規署名の筆跡と比較しましたが、これは模写です」
「……」
「かなり巧妙ですが、細部で一致しません」

 リュゼリアは、その紙を見つめた。

 自分の名前で書かれた、偽物。
 それだけでもう、胸の奥がじわじわと冷える。

 ニコラが次の書類を示す。

「内容は、王宮北棟の装飾更新に伴う予算増額」
「……」
「その煽りを受けて削られたのが、医務区画と備蓄庫」
「……」
「特に冬季の乾燥薬草と、粗塩の保管用布でございます」

 リュゼリアは思わず顔を上げた。

「私は、こんなものに署名していない」
「知っている」
 ゼルヴェインが静かに言う。

 その一言だけで、少しだけ息が入る。

 知っている。分かっている。疑われているのではない。そこを確認する必要があった。

 侍従長カレルが、別の紙束をめくった。

「こちらは、三ヶ月後の受領票です」
「……」
「薬草の補充遅延。理由は『王妃殿下による緊縮指示』」
「……」
「同じく偽署」
「……」

 次々と紙が並ぶ。

 冬の予算削減。
 備蓄布の質の低下。
 塩の保管器の更新延期。
 市場からの買い付け量の不自然な減少。
 そのどれにも、王妃の承認と称する印や署名がついている。

 だがそれはすべて、自分の筆ではなかった。

 しかも一つ一つが、ひどく陰険だった。王宮全体を一気に崩すような大きな改竄ではない。小さな削り方だ。医務区画の乾燥葉を少しだけ減らす。備蓄布の質を一段落とす。塩の容器の交換を春へ先送りにする。薬湯の買い付けを半月遅らせる。どれも、その場では「大事ない」ように見える。だが、そういう小さな削りが積もれば、冬の終わりに一番弱い場所から傷み始める。

 王宮で薬が足りない。
 塩が湿る。
 備蓄の質が落ちる。
 医務区画の対応が遅れる。
 そしてその不都合の説明として、ちょうどよく使われるのは誰か。

 王妃だ。

 華やかな装飾には無頓着なくせに、王宮の細部へ口を出す厄介な女。冷たく、地味で、誰にも愛想を振りまかない女。そんな印象はすでにあった。ならばその女の名前で「緊縮指示」が出たことにすれば、皆それらしく受け取る。

 リュゼリアの胸の奥で、何かが冷たい怒りのように立ち上がる。

 自分は無能だったのではない。
 むしろ逆だ。
 細かな削りや横流しに気づきやすく、記録を読み、進言し、止めようとしていた。
 だから邪魔だったのだ。

 そのことが、机の上の紙束によって、ひどく静かに証明されていく。

「こちらもご覧ください」

 今度はラウルが、一冊の細長い帳面を前へ押した。表紙は擦り切れ、綴じ糸も傷んでいる。使用人や倉番が、自分用に書き留めていた私記録らしい。

「第三備蓄庫の副帳です」
「……」
「正規帳簿ではありません。だが、現場で実数をつけていた者の控え」
「……」
「そこから見つかりました」

 開かれた頁には、受け入れた穀物の量と、実際に積み替えた量が並んでいた。そして、その横へ小さな注記がある。

 王妃殿下の御差図により、南棟へ十袋。
 同日、王妃殿下より再確認あり。差し止め命。

 リュゼリアはそこに目を止めた。

「……差し止め」
「ええ」
 ラウルが言う。
「最初の『御差図』は偽り」
「……」
「だが、その後、本物のお前が倉へ入って差し止めた記録が残っていた」
「……」

 それを見た瞬間、記憶がひとつ蘇る。

 寒い夕方だった。南棟の装飾替えのために使う布箱が妙に多く出入りしていて、違和感を覚えた。辿ると、倉番が穀物袋まで南棟へ回す手配をしていた。問い詰めれば「王妃殿下のご指示」と言う。そんなはずはない。だから自分は、その場で帳を確認し、差し止めて、倉番にきつく言ったのだ。

 だがその後、周囲からはどう見られたか。

 気難しい王妃が、些細な配分へ難癖をつけて現場を混乱させた。

 たしか、そんなふうな噂になっていたはずだ。

「王妃殿下は、急に気が変わる」
 誰かがそう囁いていた。
「最初に指示しておいて、あとから怒鳴る」
 侍女がそう言って笑った。

 リュゼリアはその時、どうして自分が悪者になるのか分からなかった。だが今、机の上の偽署と副帳を見れば、理由ははっきりしている。最初から自分の名前で偽指示を流し、それを本物の自分が止めに入れば、「気まぐれで厄介な王妃」という印象だけが残る。

 なんという。

 なんという、汚いやり方なのだろう。

「さらに」
 ニコラが別の紙を示した。
「不正に横流しされた備蓄の一部が、寵姫派貴族の私邸へ流れていた証拠もあります」
「……」
「量そのものは大きくない」
「だが継続的だ」
 カレルが言う。
「布、塩、乾燥果実、薬草、少量の穀物」
「……」
「どれも一回なら、王宮の中で『融通』として片づく」
「……」
「だが続けば、系統だった流用だ」

 流用。
 横流し。
 偽署。
 差し止め。
 そして悪評。

 机の上へ並ぶ事実はばらばらではなかった。一本の線でつながっている。リュゼリアの名前を使って少しずつ削り、流し、記録を歪め、そのうえで本人が気づいて止めようとすれば、「気難しく無能な王妃」として処理する。

 有能であるがゆえに邪魔だった。

 その真相が、紙の束から立ち上がってくる。

 リュゼリアは、机の端へ置かれた自分の両手を見た。白い。指先が少し冷たい。昨夜泣き切ったはずなのに、今また別の涙が目の奥へじわじわと溜まり始めているのが分かる。けれど昨夜のように一気には崩れなかった。痛い。あまりにも痛い。だが今の痛みは、ただ悲しいだけではない。悔しさと、遅れてきた怒りと、失われた時間への認識が、骨の中で重く熱を持っている。

「……私は」
 かすれた声で、リュゼリアは言った。
「無能だったのでは、ないのね」
「違う」
 ゼルヴェインが即座に答えた。

 その速さに、胸の奥が少しだけ震えた。

「お前は、気づきすぎた」
 彼は言う。
「……」
「見えなくていいものを見た」
「……」
「だから、黙らせる方が都合がよかった」

 その言い方は優しくない。けれど優しくないからこそ、真実として胸へ入る。慰めではない。事実だ。有能だったのでは、と持ち上げるのではなく、気づきすぎたから邪魔だった、と言う。その冷たい現実の方が、今のリュゼリアには救いだった。

「王妃失格」
 リュゼリアはその言葉を小さく口にした。
「……」
「ずっと、そう言われてきた」
「……」
「笑えない。子を保てない。気が利かない。王宮をぎすぎすさせる」
「……」
「でも本当は」
「……」
「邪魔だったのね」

 その一言に、自分でも少し驚いた。

 悲しみより先に、それが口から出るとは思わなかった。けれど、それが今のいちばん正確な言葉だったのだろう。

 邪魔だった。

 愛されないからではなく。
 役に立たないからでもなく。
 むしろ役に立つからこそ。
 見てはいけないものを見てしまうからこそ。

 だから「失格」の烙印が必要だった。
 王妃として不向きだと言われる方が、彼女の進言を握り潰しやすかったから。

 その真実は、失った子の真相とは別の意味で、リュゼリアの心を深く裂いた。

 もし本当に何の役にも立たなかったのなら、まだ諦めようもあったかもしれない。自分は足りなかったのだと、間違った形であれ、どこかで納得してしまえたかもしれない。だが違った。彼女は見て、気づいて、止めようとしていた。だからこそ邪魔で、だからこそ握り潰された。

 その事実は、失われた年月を全部、別の意味へ変えてしまう。

 どれだけ悔しいだろう。
 どれだけ、人生を搾取されていたのだろう。

 リュゼリアはやっとのことで息を吸った。涙はまだ落ちていない。けれど目の奥は熱い。胸の中は、昨夜と同じように壊れているのに、壊れ方が違う。今夜のそれは、崩れるというより、長く絡め取られていた鎖の形をようやく知って、その重さに打たれている感覚だった。

 ラウルがもう一枚、薄い紙を差し出した。

「これは、アルヴェリア王宮の下働きの女からの証言だ」
「……」
「お前が倉の数字に触れた夜のあと、南棟では『王妃は細かい数字にうるさくて困る』と笑っていたらしい」
「……」
「同時に、『だからこそ、先に王妃の名前で動かしておけばよい』とも」

 そこまで聞いたところで、リュゼリアはようやく、ひどくゆっくり瞬きをした。

 笑われていたのだ。

 自分が必死に止めようとしたものの裏で。
 自分が理不尽に悪者にされたその陰で。
 「だからこそ使える」と。

 その笑いの気配が、遅れて今になって皮膚の下へ入り込んでくる。あまりにも悪意が細かい。大きな陰謀ではない。小さな軽蔑と、小さな横流しと、小さな偽署。だからこそ長く続き、誰にも気づかれず、王妃一人を無能に見せるには十分だった。

「……私は」
 リュゼリアは低く言った。
「都合のいい顔を、させられていたのね」
「そうだ」
 ゼルヴェインが答える。
「静かで、失格で、無能な王妃という顔をな」

 その言葉で、とうとう涙が一筋だけ落ちた。

 昨夜のような、止まらない涙ではない。
 熱く、静かに落ちる一筋。

 それは悲しみだけの涙ではなかった。
 悔しさでもあり、怒りでもあり、ようやく見えた真実に対する鈍い眩暈でもあった。

 ゼルヴェインはその涙を見て、すぐには触れなかった。昨日のように崩れ切ってはいないと分かっているのだろう。いま必要なのは腕ではなく、この事実を事実として最後まで見届けることだと。

「処分は」
 リュゼリアは訊いた。
「向こうの宮廷へ公に突きつける」
 ゼルヴェインは言う。
「ただし、順番は選ぶ」
「……」
「お前の名で改竄された文書」
「……」
「横流しされた備蓄」
「……」
「王妃進言の握り潰し」
「……」
「そして毒」

 その順番に、政治の冷たさがある。感情だけではなく、最も逃げにくいかたちで追い詰めるつもりなのだと分かる。だが今のリュゼリアには、その冷たさが必要だった。

 なぜなら、これはもう個人の悲劇だけではない。
 王妃一人の人生を壊すことで、宮廷の金と備蓄と権力の流れを好き勝手にしていた者たちの話だからだ。

「……全部」
 リュゼリアは小さく言った。
「全部、つながっていたのね」
「そうだ」
「……」
「お前を無能に見せ」
「……」
「進言を潰し」
「……」
「その名で金と備蓄を流し」
「……」
「子を成せぬ体と見なせば、もう邪魔は減る」

 その最後の一文に、リュゼリアは唇を強く噛みそうになった。

 そこまでして。
 そこまで、自分一人の人生を都合よく削ったのか。

 怒りが、ようやく胸の奥でちゃんと形を持ち始める。悲しみと混ざらぬ、純度の高い怒り。あの夜失った子のことも、失格と言われ続けた年月も、全部が「仕方なかったこと」ではないのだと知ってしまったからこそ、生まれる怒り。

 それは痛い。けれど同時に、今まで自分の方へ向いていた刃を、やっと外へ向けるための力でもあった。

 リュゼリアはゆっくり息を吸い、そして吐いた。

「……分かりました」
 彼女は言った。
「何がだ」
 ゼルヴェインが問う。
「私が、何だったのか」
「……」
「無能だったのではなく」
「……」
「都合が悪かったのだと」
「……」
「ようやく」

 その言葉は、宣言というほど強くはなかった。むしろ静かだった。だが、その静けさの下で何かが確実に変わったのを、自分でも感じていた。

 王妃失格。
 その言葉は、長いあいだ彼女を縛る呪いだった。足りない女。失格の王妃。使えぬ妃。そういう意味でしか響かなかった。

 けれど今、それは別の真実を抱えている。

 無能だったから排除されたのではない。
 有能であるがゆえに、邪魔だったから排除された。

 その反転は、リュゼリアの心にとって、救いというにはあまりにも苦い。けれど、苦いからこそ本物だった。

 それを知った以上、もう昔のように自分を責めるだけの場所へは戻れないのだと、彼女は静かに理解し始めていた。


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