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第六章 ロルディアの動乱
第130話 ヴァルディノアと闇の塔
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『ヴァルディノア』。かつて魔族が築いた実験都市——廃都とされていた場所に俺たちは足を踏み入れた。だが、俺たちが辿り着いたその場所は、廃墟どころか整地され、最低限の生活区画が維持されていた。
崩れた建造物の間に簡易の住居が並び、焚き火の煙が上がっている。遠巻きに見ただけで、およそ三十人程度の人影を確認できた。
「ねぇ、カイン。これ……思ってたより、ちゃんと人が住んでる街じゃん」
ルナが眉をひそめながら、草陰からそっと顔を出す。
「活動拠点として再利用されてるわね。塔……あれが本命かしら」
エルンが視線を向けた先、街の中心に黒く細長い塔が静かにそびえ立っていた。周囲の空気とは異なる圧迫感のようなものを発している。
「……確かに、あの塔。あそこが怪しいな」
俺もエルンの視線の先にある塔を注視する。
「とはいえ、正面から突っ込むのは愚策よ。あの塔にネフィラがいるとしても、周囲の敵を無視するのは危険すぎる」
エルンの冷静な判断は正しい。だが、それでも時間が惜しい。砦ではすでに精神干渉の兆候が出ていた。この地で何かが行われているのは明白だ。
「じゃあ、気配消して、ちょっと近づいてみよっか?」
ルナが手を上げた。
「大勢を相手にするのは避けたい。ネフィラの居場所が分かれば、動き方も定まる。塔の周辺を調べてくれ。……ただし、絶対に無理はするなよ」
「わかってるって! 潜入は得意なんだから!」
ルナは軽やかに飛び出し、風のように街の影へと消えていった。
***
――しばらくして、戻ってきたルナは、思った以上に険しい顔をしていた。
「塔には誰もいなかったよ。でも……裏手の方に崩れた壁があって、その先に広場があったの」
「広場?」
「うん。石畳が円形に広がってて、でっかい魔法陣の跡もあった。そっちの方がずっと……いやな感じがした。見てると頭がズキズキして足がすくんだくらい」
「……そこか。奴の本拠は」
塔は目くらまし。敵の意識を逸らす囮だ。
「突入は明日の夜明け前。闇の力が最も弱まる時間帯を狙う」
俺はそう決めた。けれど、気がかりが一つあった。
(……相手は精神干渉に長けた魔術師。加えて、周囲には魔族の残党もいる。ネフィラを止める、強力な一撃はないものか?)
そんな迷いが浮かんだときだった。
『……カイン』
頭の中に響く、あの落ち着いた声。カイランだ。
『ある。だが、それは場所を選ぶ術だ』
(カイラン……! 場所を選ぶって? なぜ今まで教えてくれなかった?)
『これまでお前がいた場所では、この術は意味をなさなかったからだ。これから教える術式は、このヴァルディノアという土地だからこそ最大の効果を発揮する。この地は地中深くに強力な地熱と豊富な水脈が交差している特殊な場所なのだ。その二つの力を利用してはじめて、お前の魔力でも大規模な現象を引き起こすことができる』
(この土地の力を利用するのか……!)
『そうだ。私の記憶にあった古代の術式をお前に合わせて調整した。術式の名は——地穿熱泉。地下に流れる水脈を地熱で一気に沸騰させ、熱水柱として放出する。同時に氷の障壁を展開し、術者を保護する構造だ』
(大精霊アウネラとの協調は必要か?)
『無論だ。だが、お前ならできる』
『術式と詠唱を頭の中で反芻し、記憶に刻みつけろ。ネフィラの儀式は精霊との絆を断ち切る禁術。急がなければ何が失われるか分からない』
静かに俺はうなずいた。強力な切り札を得たことで、心の中の迷いが晴れていく。
俺は意識を現実に戻すと、仲間たちを見回して口を開いた。
「よし……突入の手順を決めよう」
俺の言葉を合図にその場で即席の作戦会議が始まった。
「まず、私が精神干渉を封じる結界を張るわ。持続時間は長くないけれど、突入直後の影響は抑えられるはず」
「ありがたい、エルン」
「ルナは周囲の気配を探ってくれ。闇の魔法で姿を消す可能性もある。感知できたら、火の魔法で牽制してくれ」
「任せて! 火の指輪、ちゃんと役に立てるから!」
「俺は道を切り開く。塔までは——いや、広場まで剣と光・水の魔法で切り抜ける」
そして、必要があれば、あの切り札も——。
やるべきことは決まった。あとは、全力を尽くすだけだ。
俺は夜風に吹かれながら空を見上げた。暗闇に散らばる星の瞬きが、これから放つ魔法の光のように見えて武者震いが走る。
この静寂が破られる時、すべてが終わるか、あるいは始まるか。
地平の彼方が白み始める——夜明けが、すぐそこまで迫っている。
崩れた建造物の間に簡易の住居が並び、焚き火の煙が上がっている。遠巻きに見ただけで、およそ三十人程度の人影を確認できた。
「ねぇ、カイン。これ……思ってたより、ちゃんと人が住んでる街じゃん」
ルナが眉をひそめながら、草陰からそっと顔を出す。
「活動拠点として再利用されてるわね。塔……あれが本命かしら」
エルンが視線を向けた先、街の中心に黒く細長い塔が静かにそびえ立っていた。周囲の空気とは異なる圧迫感のようなものを発している。
「……確かに、あの塔。あそこが怪しいな」
俺もエルンの視線の先にある塔を注視する。
「とはいえ、正面から突っ込むのは愚策よ。あの塔にネフィラがいるとしても、周囲の敵を無視するのは危険すぎる」
エルンの冷静な判断は正しい。だが、それでも時間が惜しい。砦ではすでに精神干渉の兆候が出ていた。この地で何かが行われているのは明白だ。
「じゃあ、気配消して、ちょっと近づいてみよっか?」
ルナが手を上げた。
「大勢を相手にするのは避けたい。ネフィラの居場所が分かれば、動き方も定まる。塔の周辺を調べてくれ。……ただし、絶対に無理はするなよ」
「わかってるって! 潜入は得意なんだから!」
ルナは軽やかに飛び出し、風のように街の影へと消えていった。
***
――しばらくして、戻ってきたルナは、思った以上に険しい顔をしていた。
「塔には誰もいなかったよ。でも……裏手の方に崩れた壁があって、その先に広場があったの」
「広場?」
「うん。石畳が円形に広がってて、でっかい魔法陣の跡もあった。そっちの方がずっと……いやな感じがした。見てると頭がズキズキして足がすくんだくらい」
「……そこか。奴の本拠は」
塔は目くらまし。敵の意識を逸らす囮だ。
「突入は明日の夜明け前。闇の力が最も弱まる時間帯を狙う」
俺はそう決めた。けれど、気がかりが一つあった。
(……相手は精神干渉に長けた魔術師。加えて、周囲には魔族の残党もいる。ネフィラを止める、強力な一撃はないものか?)
そんな迷いが浮かんだときだった。
『……カイン』
頭の中に響く、あの落ち着いた声。カイランだ。
『ある。だが、それは場所を選ぶ術だ』
(カイラン……! 場所を選ぶって? なぜ今まで教えてくれなかった?)
『これまでお前がいた場所では、この術は意味をなさなかったからだ。これから教える術式は、このヴァルディノアという土地だからこそ最大の効果を発揮する。この地は地中深くに強力な地熱と豊富な水脈が交差している特殊な場所なのだ。その二つの力を利用してはじめて、お前の魔力でも大規模な現象を引き起こすことができる』
(この土地の力を利用するのか……!)
『そうだ。私の記憶にあった古代の術式をお前に合わせて調整した。術式の名は——地穿熱泉。地下に流れる水脈を地熱で一気に沸騰させ、熱水柱として放出する。同時に氷の障壁を展開し、術者を保護する構造だ』
(大精霊アウネラとの協調は必要か?)
『無論だ。だが、お前ならできる』
『術式と詠唱を頭の中で反芻し、記憶に刻みつけろ。ネフィラの儀式は精霊との絆を断ち切る禁術。急がなければ何が失われるか分からない』
静かに俺はうなずいた。強力な切り札を得たことで、心の中の迷いが晴れていく。
俺は意識を現実に戻すと、仲間たちを見回して口を開いた。
「よし……突入の手順を決めよう」
俺の言葉を合図にその場で即席の作戦会議が始まった。
「まず、私が精神干渉を封じる結界を張るわ。持続時間は長くないけれど、突入直後の影響は抑えられるはず」
「ありがたい、エルン」
「ルナは周囲の気配を探ってくれ。闇の魔法で姿を消す可能性もある。感知できたら、火の魔法で牽制してくれ」
「任せて! 火の指輪、ちゃんと役に立てるから!」
「俺は道を切り開く。塔までは——いや、広場まで剣と光・水の魔法で切り抜ける」
そして、必要があれば、あの切り札も——。
やるべきことは決まった。あとは、全力を尽くすだけだ。
俺は夜風に吹かれながら空を見上げた。暗闇に散らばる星の瞬きが、これから放つ魔法の光のように見えて武者震いが走る。
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