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第六章 ロルディアの動乱
第131話 儀式の広場
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星の瞬きが残る夜明け前の空の下、俺たちは広場へ向けて静かに移動を開始しようとしていた。
「……いよいよだね。ちょっと緊張してきたかも」
ルナが口元を引き締めながらつぶやいた。普段は陽気なルナも、今は真剣そのものだ。
「緊張してるって言えるうちは大丈夫よ。恐怖に飲まれたら、それすら言えなくなるもの」
エルンが穏やかな声音で返す。
「……俺たちならやれるさ。ネフィラを見つけて、きっと止められる」
言葉に自信を込めたつもりだったが、手のひらの汗が本音を暴く。恐れていないわけじゃない。ただ、それ以上に……もし、この選択が間違っていたらという不安がつきまとう。
「ルナ、昨日の偵察で確認した場所にネフィラの気配はあるか?」
「うん……ある。それに昨日よりも強く感じる。やっぱり、あの中心にいるのはネフィラだと思うよ」
ルナが耳を澄ませ、目を閉じて集中する。感知に長けたルナは魔力の流れや性質を敏感に感じ取ることができた。
「よし、作戦通り行こう。魔族達の気配を避けつつ広場に近づく。何があっても、決して無理はするな」
三人は声を殺し、地を踏む音すら慎重に廃都の広場へと向かっていった。
途中、ルナの指示で小さな路地に身を隠すこと数回。魔族の巡回を巧みに避け、やがて石造りの大きな広場の手前にたどり着く。そこで俺たちは立ち止まって最後の確認をした。
「エルン、頼む」
「ええ。精神干渉の術に対抗するための結界を張るわ」
エルンがそっと手を組みながら詠唱すると、柔らかな光を放つ魔法が周囲に展開された。これで、少なくとも突然の精神攻撃には備えられる。
俺たちは広場への突入のタイミングを図るため、物陰から様子を窺った。
「……見張りが三人。避けては通れないわね」
エルンが低くつぶやいた。
広場の入り口付近に魔族の兵士たちが立っている。
「どうする、カイン?」
ルナが小声で問う。
俺は……迷っていた。
不意打ちで殺す。それがどれほど冷酷なことかは、わかっているつもりだった。
――でも、それが今の選択肢の中で最善なのか?
葛藤する俺の意識にカイランの声が響いた。
『ここでは非情になれ。彼らはただの兵士ではない。お前たちを殺すことを命じられた敵なのだ』
……俺は拳を握りしめた。
「ウンディーヴァよ、蒼き閃光を放ち眼前の敵を撃て——蒼閃!」
詠唱とともに俺の掌から青白い閃光が奔り、最も近くにいた魔族の胸を貫いた。敵は呻く間もなく、その場に崩れ落ちた。
「カイン……!」
驚きと覚悟のないまぜになったルナの声が聞こえる。残る二人の魔族が鋭い叫びを上げてこちらに迫ってきた。
「……もう一度!」
俺は再び詠唱を走らせ、次の蒼閃を放った。二発目の蒼閃もまっすぐに飛び、二人目の兵士の身体を貫通する。
だが、その隙に三人目が距離を詰めてきた。迫りくる殺気に反応し、俺は一歩前に出て短剣を振るった。
「はあっ!」
刃が敵の腕を断ち切る。だが……その兵士は痛みすら感じていないのか、落ちた武器を咄嗟に拾い、再び向かってきた。
「カイン、よけて!」
ルナの声と共に火の魔力が圧縮され、赤い火玉が放たれた。
それは見事に敵兵の胴体へ命中し、爆風と共に後方へ吹き飛ばす。敵兵は二度と起き上がることはなかった。
「気づかれたかもしれない。急ごう!」
三人は駆け出した。広場の奥、闇の儀式が執り行われているであろう場所へ。
その時だった。
「闇よ。揺らめく思念よ。我が理を受け入れよ――」
女の詠唱が空気を震わせた。
「っ! これは……!」
女の声が耳に触れるだけで精神が蝕まれるような違和感。
世界が歪んで見えた瞬間、俺は――。気がつくと地面に座り込んでいた。
――眼前には血に濡れた仲間たちの姿。
――目の前に横たわるルナ。
――虚ろな目のエルン。
「……やめろ、こんなの……!」
(幻だ。これは幻覚だ!)
「カイン!」
――エルンの声が俺を現実に引き戻した。
「危なかったわね。精神干渉はもう始まっている。気を緩めないで」
「……ああ。助かった。ありがとう」
ルナもまた、震える息を整えて立ち上がっていた。
「うぅ、なんかすごい嫌な夢……でも、まだ終わってないよね?」
「終わらせるんだ。これから」
三人は重い空気を切り裂くように足を進めた。 そして――視界が開ける。
広場の石舞台。そこは世界から色が抜け落ちたかのように濃密な闇に支配されていた。
その中心、黒き魔力の渦を衣のように纏い、冷徹に見下ろすひとつの影。
かつて光に背を向け、狂信の果てに堕ちたエルフ――ネフィラ・ヴァレリオ。
俺たちはついに、この歪んだ騒乱の元凶と対峙した。
「……いよいよだね。ちょっと緊張してきたかも」
ルナが口元を引き締めながらつぶやいた。普段は陽気なルナも、今は真剣そのものだ。
「緊張してるって言えるうちは大丈夫よ。恐怖に飲まれたら、それすら言えなくなるもの」
エルンが穏やかな声音で返す。
「……俺たちならやれるさ。ネフィラを見つけて、きっと止められる」
言葉に自信を込めたつもりだったが、手のひらの汗が本音を暴く。恐れていないわけじゃない。ただ、それ以上に……もし、この選択が間違っていたらという不安がつきまとう。
「ルナ、昨日の偵察で確認した場所にネフィラの気配はあるか?」
「うん……ある。それに昨日よりも強く感じる。やっぱり、あの中心にいるのはネフィラだと思うよ」
ルナが耳を澄ませ、目を閉じて集中する。感知に長けたルナは魔力の流れや性質を敏感に感じ取ることができた。
「よし、作戦通り行こう。魔族達の気配を避けつつ広場に近づく。何があっても、決して無理はするな」
三人は声を殺し、地を踏む音すら慎重に廃都の広場へと向かっていった。
途中、ルナの指示で小さな路地に身を隠すこと数回。魔族の巡回を巧みに避け、やがて石造りの大きな広場の手前にたどり着く。そこで俺たちは立ち止まって最後の確認をした。
「エルン、頼む」
「ええ。精神干渉の術に対抗するための結界を張るわ」
エルンがそっと手を組みながら詠唱すると、柔らかな光を放つ魔法が周囲に展開された。これで、少なくとも突然の精神攻撃には備えられる。
俺たちは広場への突入のタイミングを図るため、物陰から様子を窺った。
「……見張りが三人。避けては通れないわね」
エルンが低くつぶやいた。
広場の入り口付近に魔族の兵士たちが立っている。
「どうする、カイン?」
ルナが小声で問う。
俺は……迷っていた。
不意打ちで殺す。それがどれほど冷酷なことかは、わかっているつもりだった。
――でも、それが今の選択肢の中で最善なのか?
葛藤する俺の意識にカイランの声が響いた。
『ここでは非情になれ。彼らはただの兵士ではない。お前たちを殺すことを命じられた敵なのだ』
……俺は拳を握りしめた。
「ウンディーヴァよ、蒼き閃光を放ち眼前の敵を撃て——蒼閃!」
詠唱とともに俺の掌から青白い閃光が奔り、最も近くにいた魔族の胸を貫いた。敵は呻く間もなく、その場に崩れ落ちた。
「カイン……!」
驚きと覚悟のないまぜになったルナの声が聞こえる。残る二人の魔族が鋭い叫びを上げてこちらに迫ってきた。
「……もう一度!」
俺は再び詠唱を走らせ、次の蒼閃を放った。二発目の蒼閃もまっすぐに飛び、二人目の兵士の身体を貫通する。
だが、その隙に三人目が距離を詰めてきた。迫りくる殺気に反応し、俺は一歩前に出て短剣を振るった。
「はあっ!」
刃が敵の腕を断ち切る。だが……その兵士は痛みすら感じていないのか、落ちた武器を咄嗟に拾い、再び向かってきた。
「カイン、よけて!」
ルナの声と共に火の魔力が圧縮され、赤い火玉が放たれた。
それは見事に敵兵の胴体へ命中し、爆風と共に後方へ吹き飛ばす。敵兵は二度と起き上がることはなかった。
「気づかれたかもしれない。急ごう!」
三人は駆け出した。広場の奥、闇の儀式が執り行われているであろう場所へ。
その時だった。
「闇よ。揺らめく思念よ。我が理を受け入れよ――」
女の詠唱が空気を震わせた。
「っ! これは……!」
女の声が耳に触れるだけで精神が蝕まれるような違和感。
世界が歪んで見えた瞬間、俺は――。気がつくと地面に座り込んでいた。
――眼前には血に濡れた仲間たちの姿。
――目の前に横たわるルナ。
――虚ろな目のエルン。
「……やめろ、こんなの……!」
(幻だ。これは幻覚だ!)
「カイン!」
――エルンの声が俺を現実に引き戻した。
「危なかったわね。精神干渉はもう始まっている。気を緩めないで」
「……ああ。助かった。ありがとう」
ルナもまた、震える息を整えて立ち上がっていた。
「うぅ、なんかすごい嫌な夢……でも、まだ終わってないよね?」
「終わらせるんだ。これから」
三人は重い空気を切り裂くように足を進めた。 そして――視界が開ける。
広場の石舞台。そこは世界から色が抜け落ちたかのように濃密な闇に支配されていた。
その中心、黒き魔力の渦を衣のように纏い、冷徹に見下ろすひとつの影。
かつて光に背を向け、狂信の果てに堕ちたエルフ――ネフィラ・ヴァレリオ。
俺たちはついに、この歪んだ騒乱の元凶と対峙した。
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