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第六章 ロルディアの動乱
第132話 深淵の対話
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広場の中央に立つ女――それが、ネフィラ・ヴァレリオだった。
長い銀髪に漆黒のローブ。深淵のように暗い瞳が俺たちを一瞥しただけで、背筋を氷の針で貫かれたような戦慄が走った。
「やっぱり……あれがネフィラだね。気配が底なし沼みたい」
ルナが低くつぶやく。冗談を交えない声は本気で恐怖している証だ。
「……精神干渉の魔力が周囲の空気ごと歪ませてる。近づくだけでも正気を失うかもしれない」
エルンの言葉に俺たちはそれぞれ深く息を吸い込み、気を引き締めた。
「お前がネフィラだな?」
その言葉に女の唇がわずかに吊り上がる。
「双冠の英雄カイン。本当に来たのね……この地にたどり着くとは思わなかったわ」
目を伏せるでもなく、ネフィラは俺の姿をじっと見つめていた。その視線には好奇と敵意、そしてほんの僅かに恐れも混じっていた。
「ここがどこか、わかっていて来たのかしら?」
「『ヴァルディノア』。魔族が築いた実験都市の名残……だろ? 今はお前の根城か」
「ふふ……その名を知ってる時点で、もう普通じゃないわね」
ネフィラは小さく首をかしげ、くすりと笑った。
「一体、誰に聞いたの? この場所を知ってるのは、せいぜい……そうね、マルヴェスくらい」
その名を出した瞬間、空気が凍った。ネフィラの目が鋭くなる。
「やっぱり彼なのかしら? あの気まぐれな吸血鬼が、あなたをここへ……興味深いわ」
「目的は一つだ。お前を止める。それだけだ」
「止める、ですって? この私を?」
ネフィラは肩を震わせ、冷たい笑みを浮かべた。
「あなた、本当にこの世界の異物なのね。こんなにも愚かで無謀。……でも、わかるわ」
彼女が片手を挙げた。それだけで、空気が変わった。緊張と敵意が一気に高まるのを感じる。
「あなたの存在が歪みを広げている。私の理を、ヴィンドール様の理想を、脅かしている。排除する。それが私の答え」
「お前の理ってやつのために、どれだけの命が利用された? それを正義と呼ぶなら、俺はその正義に反する者でいい」
ネフィラの目がわずかに見開かれ、すぐに微笑へと戻った。
「あなたはただの駒ではなさそうね。けれど——」
そのときだった。舞台の外縁、石柱の暗がりから、どす黒い気配がにじみ出した。広場の周囲に控えていた五体の魔族だ。
俺は即座に警戒の構えをとった。
「……魔族か。こいつらが、お前の部下ってわけか」
「もともと広場の警備を任せていた子たちよ。だけど、今は私の魔術で心も体も預かっている。もちろん精鋭よ。グロムをも退けたあなたたちを相手に、一人で挑むほど自信家ではないの」
ネフィラが指を鳴らすと、五体の魔族たちが一斉に前進を始めた。その瞳には感情というものが一切感じられなかった。
「エルン!」
「わかっているわ!」
エルンは即座に詠唱を開始し、地に光の魔法陣を刻んだ。
「精神干渉を遮断する結界を張るわ! 踏み出せば本格的に干渉される——気をつけて!」
三人の足元に淡い光の結界が広がる。
その瞬間、空気の重みが変わった。ネフィラの魔力が全体に広がり、ただ立っているだけでも精神が揺らぐような圧が襲いかかる。
「……この圧。エルン、持ちこたえられそうか?」
「この場にいる間は私が抑えてみせる。でも……動けない。攻撃は任せるわ」
「任された!」
俺は剣を抜き、ルナは火球を手のひらに浮かべた。
ネフィラは舞台の上から微笑んでいた。
「……さあ、カイン——その歪んだ力、見せてちょうだい」
ネフィラの挑発に応えるように、張り詰めた空気が弾け飛んだ。
もはや手加減などない。総力戦の火蓋が、激しく切って落とされた。
長い銀髪に漆黒のローブ。深淵のように暗い瞳が俺たちを一瞥しただけで、背筋を氷の針で貫かれたような戦慄が走った。
「やっぱり……あれがネフィラだね。気配が底なし沼みたい」
ルナが低くつぶやく。冗談を交えない声は本気で恐怖している証だ。
「……精神干渉の魔力が周囲の空気ごと歪ませてる。近づくだけでも正気を失うかもしれない」
エルンの言葉に俺たちはそれぞれ深く息を吸い込み、気を引き締めた。
「お前がネフィラだな?」
その言葉に女の唇がわずかに吊り上がる。
「双冠の英雄カイン。本当に来たのね……この地にたどり着くとは思わなかったわ」
目を伏せるでもなく、ネフィラは俺の姿をじっと見つめていた。その視線には好奇と敵意、そしてほんの僅かに恐れも混じっていた。
「ここがどこか、わかっていて来たのかしら?」
「『ヴァルディノア』。魔族が築いた実験都市の名残……だろ? 今はお前の根城か」
「ふふ……その名を知ってる時点で、もう普通じゃないわね」
ネフィラは小さく首をかしげ、くすりと笑った。
「一体、誰に聞いたの? この場所を知ってるのは、せいぜい……そうね、マルヴェスくらい」
その名を出した瞬間、空気が凍った。ネフィラの目が鋭くなる。
「やっぱり彼なのかしら? あの気まぐれな吸血鬼が、あなたをここへ……興味深いわ」
「目的は一つだ。お前を止める。それだけだ」
「止める、ですって? この私を?」
ネフィラは肩を震わせ、冷たい笑みを浮かべた。
「あなた、本当にこの世界の異物なのね。こんなにも愚かで無謀。……でも、わかるわ」
彼女が片手を挙げた。それだけで、空気が変わった。緊張と敵意が一気に高まるのを感じる。
「あなたの存在が歪みを広げている。私の理を、ヴィンドール様の理想を、脅かしている。排除する。それが私の答え」
「お前の理ってやつのために、どれだけの命が利用された? それを正義と呼ぶなら、俺はその正義に反する者でいい」
ネフィラの目がわずかに見開かれ、すぐに微笑へと戻った。
「あなたはただの駒ではなさそうね。けれど——」
そのときだった。舞台の外縁、石柱の暗がりから、どす黒い気配がにじみ出した。広場の周囲に控えていた五体の魔族だ。
俺は即座に警戒の構えをとった。
「……魔族か。こいつらが、お前の部下ってわけか」
「もともと広場の警備を任せていた子たちよ。だけど、今は私の魔術で心も体も預かっている。もちろん精鋭よ。グロムをも退けたあなたたちを相手に、一人で挑むほど自信家ではないの」
ネフィラが指を鳴らすと、五体の魔族たちが一斉に前進を始めた。その瞳には感情というものが一切感じられなかった。
「エルン!」
「わかっているわ!」
エルンは即座に詠唱を開始し、地に光の魔法陣を刻んだ。
「精神干渉を遮断する結界を張るわ! 踏み出せば本格的に干渉される——気をつけて!」
三人の足元に淡い光の結界が広がる。
その瞬間、空気の重みが変わった。ネフィラの魔力が全体に広がり、ただ立っているだけでも精神が揺らぐような圧が襲いかかる。
「……この圧。エルン、持ちこたえられそうか?」
「この場にいる間は私が抑えてみせる。でも……動けない。攻撃は任せるわ」
「任された!」
俺は剣を抜き、ルナは火球を手のひらに浮かべた。
ネフィラは舞台の上から微笑んでいた。
「……さあ、カイン——その歪んだ力、見せてちょうだい」
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もはや手加減などない。総力戦の火蓋が、激しく切って落とされた。
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