50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく

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第十一章 混沌の使徒

第198話 封印書庫への挑戦

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 ヴァレリウスが示した、あまりにも危険な、しかし、唯一とも思われる道。
 俺たちの目に宿った揺るぎない決意を彼はその慧眼けいがんで見抜いていた。老神官は深く、そしてどこか安堵したようにうなずくと、静かに口を開いた。

「……よろしい。ならば、老いぼれのわしにできる最後の助力をしよう」

 彼は封印書庫の危険性について、より詳しく語り始めた。

「封印書庫は、ただの書物の保管場所ではない。それ自体が一つの巨大な理式の塊……いわば論理で構築された亜空間あくうかんじゃ。侵入者を拒むのは物理的な罠ではない。精神を惑わし、永遠に彷徨さまよわせる『逆説ぎゃくせつの回廊』や、術者の論理思考を破壊する『矛盾むじゅんの霧』。そして、それらを守護する自律思考型の『論理ゴーレム』。力押しでは決して突破できぬ」

 その説明に俺たちは息を呑んだ。敵は剣や魔法が通用する相手だけではないらしい。
 ヴァレリウスは古びた書棚から一枚の羊皮紙を取り出した。それは封印書庫の古い設計図だった。

「セイオンが来る前、わしがこの書庫の管理を任されていた頃のものだ。奴らが新たな罠を仕掛けている可能性は高い。だが、基本構造は変わっておるまい。そして……」

 彼は懐から水晶でできた、複雑な形状の鍵を取り出した。

「これは古い時代の防衛理式を一時的に無効化できる『万能鍵ばんのうかぎ』じゃ。気休めにしかならんやもしれんが持っていくがいい」

 貴重な手がかりを前に、俺たちはヴァレリウスの書斎、その場で円卓を囲んで作戦会議を始めた。
 俺は受け取った設計図をテーブルの中央に広げる。そこに描かれているのは、もはや地図というより、複雑怪奇なプログラムだった。

「……なるほどな。ヴァレリウス様の言う通り、これは俺の専門外だ」

 俺は仲間たち、特にカズエルを見据えた。リーダーとして最善の判断を下すために。

「カズエル。この理式の迷宮の攻略は、お前の専門分野だ。今回の『封印書庫』潜入における作戦の立案と戦術指揮、その全権をお前に任せたい。皆、いいか?」

 俺が仲間たちに同意を求めると、最初にレオナルドがうなずいた。

「それが最も合理的な判断だろう。知の戦いでは最も優れた知恵を持つ者が指揮を執るべきだ。俺に異論はない」

 続いてセリスが俺の目を真っ直ぐに見て、深くうなずいた。

「カイン殿がそう判断されるのであれば、私はその決定に従います。カズエル殿の指揮のもと、剣を振るいましょう」

「私も、それが最善だと思います」とエルンも同意する。
「理式魔術の迷宮では、精霊魔法の使い手である私よりも、カズエルの方が道を切り開けるはずです」

「カズエルがリーダー? 面白そう! カインがそう言うなら絶対大丈夫だよ!」

 ルナの屈託のない声が、その場の空気を和ませた。

 全員の同意を得て、俺は改めてカズエルに向き直った。

「……というわけだ。頼めるか?」

 カズエルは仲間たちからの信頼の視線を一身に受け、一瞬だけ気恥ずかしそうにした後、不敵な笑みを浮かべた。

「了解した。リーダー。期待に応えてみせるさ。俺の理式で奴らの立てた『論理』の城を内側から崩壊させてやる」

 指揮権を託されたカズエルは設計図を指し示しながら、よどみなく作戦を組み立てていく。

「役割分担を決める。まず、レオナルドとセリス。二人は俺たちの『剣』だ。万が一、論理ゴーレムのような物理的な守護者が現れた場合、道を切り開いてもらう」

「承知した」
「お任せください」

「次にエルンとルナ。このパーティの『目』だ。エルンは魔力のよどみを、ルナはその感覚で隠された罠や敵の気配そのものを探知してくれ」

「わかりました」
「うん、任せて!」

 カズエルは最後に俺を見た。

「そして、カイン。お前は俺たちの『切り札 ジョーカー』だ。お前の持つ力はこの都市のことわりの外にある。俺の理式で解体できない規格外の罠にぶつかった時、その力で理屈ごと破壊してもらう」

「……了解だ」

「そして、俺は『鍵』だ。敵の防衛理式を解析し、無力化し、みんなを最深部へと導く」

 六人の役割が決まった。それは、それぞれの能力を最大限に活かした完璧な布陣だった。

 作戦を固めた俺たちはヴァレリウスに導かれ、彼の書斎の奥にある『封印書庫』へと続く、重々しい扉の前に立った。
 彼が古の言葉で扉の封印を解くと、その向こうに空間そのものがゆがんでいるかのようなまばゆい光の回廊が現れた。

「……これより先はセイオンの世界じゃ。わしはもう入れん」

 ヴァレリウスは俺たちの背中に静かに言った。

「どうか、ご武運を。そして、必ずや、生きて戻られよ」

 俺たちは一度だけ強くうなずくと、偽りの叡智えいちが眠る禁断の領域へと、その第一歩を踏み出した。
 ここから先はもう後戻りはできない。
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