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第十二章
第303話 北条式ゴーレム
しおりを挟む北条が差し込んだ小さな石板によって、話す事が出来るようになったアルファ。
会話が出来ることで、精彩な聞き取りをゴーレム本人にすることが出来るようになったので、より多くのデータを収集していく北条。
一通りの問答を行っている間、龍之介とカタリナの二人は黙ってその様子を見ていたが、一通り話が終わったとみると、すかさず龍之介が話し掛ける。
「オッサン、さっきの小さい石板は何だったんだ?」
「ああ、これかぁ?」
北条は実際に"アイテムボックス"から似たような石板を数枚取り出して、龍之介の方に見せる。
ついでに先ほどアルファに差し込んだボードも回収する。
「これは……まあ、拡張ボードって感じのもんだぁ」
「拡張ぼーど?」
聞きなれない言葉にカタリナは顔にはてなマークを浮かべている。龍之介も似たような状態だ。
「最初のゴーレムの核にも、最低限必要な命令は刻んであるんだがぁ、それはあくまで最低限だぁ。あとはさっきみたいに、随時必要なボードを差し込んでアップデート……新たな命令を加えていって調整する」
「あー、不具合調整って奴か?」
「え、なんでわざわざそんな風にしたの?」
龍之介はパソコンやゲームもほどほどに触れてはいたので、北条の言っている事を理解したようだ。
だがカタリナの方は理解が及んでいないようで、北条に質問を投げかける。
「うむ、それなんだがぁ……。ゴーレムの核のランクによって、予め組み込める命令や機能なんかにも限度があるのが判明してなぁ。だからまずは最低限の状態で起動をする。まぁ、マザーに繋いだだけの状態で一端起動テストをするようなもんだぁ」
「まざー……? 母親って意味ではないわよね。何かの専門用語かしら?」
「まあ、そんなとこだぁ。んでまぁこのボードには、命令などを加えていって不具合が起こった場合、もう一度そのボードを差し込む事で、その部分だけを削除する事がぁ出来るようになっている」
「……人を襲うなという命令をしたのに、命令を守らず人を襲ってしまった場合、一旦その命令を取り消すことで原因を探る事が出来る、という訳ね」
「おおう、そうだぁ。すでにある程度ノウハウがあるならともかく、これからも実験しながら運用していくつもりなんでなぁ。この形式にしたぁ」
「私はゴーレムについては門外漢だけど、なんだか妙に画期的な感じはするわ」
カタリナの言ってる事は的を射た発言で、この世界に存在する極少数のゴーレムを生み出せる人たちは、このような手法は取っていない。
「オレももちろんゴーレムの事なんか知んねえけど、それはオッサンだってそう変わらねーハズだろ? なんでそんな風に実際にゴーレムとか作れるんだ?」
「それは、そうだなぁ。幾つかの理由があるんだがぁ……」
少し考え込んだ様子の北条は、アルファのボディに触れながら説明をする。
「例えばぁ、こいつのボディに使われている金属。これはベルムホルト鋼とアーダル鋼を主とする合金で出来ている。この合金のバランスなんかは、俺がちまちまと何度も実験をしながら比率を調整して作ったもんだぁ」
「オッサンが? ルカナルに頼んでとかじゃねーのか」
「あぁ。ただの金属の合金を作るだけじゃあないからなぁ。こいつには他にスライムジェルなんかも使われている。それによって、金属の体に魔力を通す事で変形させられるようになり、さっきのように顔を変形させて口を形成したりできたんだ」
「メタル系のスライムみたいね」
「ああ。多分原理的には同じようなもんじゃねえかなぁ」
このティルリンティの世界には、金属質な体を持つスライム系の魔物も存在している。
とはいえ膨大な経験値を持っている訳ではないのだが。
「まあそういったゴーレム錬成に必要な材料の用意なども、ある程度自分で実験をしながら作っていった。"解析"スキルがこれまた便利でなぁ。合成した金属の魔力伝導率やら魔法抵抗やら、そういったもんを全て教えてくれる。このスキルがなければ、こんなに早くゴーレムは完成しなかっただろう」
「これまでそういった試行錯誤を繰り返してたって訳ね」
「そうだぁ。おかげでサンドゴーレムの核を実験中に二、三個ダメにもしたがぁ。……といった感じで、実際に自分であれこれ考えて試していたというのが、上手くいった理由の一つ」
「ん、そーいや思い出したぜ。ダンジョンで野営してる時に、なんかオッサンがカクがどーのって騒いでた時あったな」
「あー、まあ休日だけじゃなくて、ダンジョンに潜ってるときにも実験とかはやってるからなぁ」
「はぁぁ。それだけの能力を持っているのに、随分と熱心よね」
「熱心っちゅうか、いや、だって野営してる時間に何もしないのはもったいないだろぉ?」
北条は前々から野営時の当直には積極的だった。
周囲の皆は、リーダーだから積極的にきつい役目を負っているのだと思っていたが、北条からすると実益も兼ねての立候補だった。
元々"睡眠耐性"や、"快適睡眠"などのスキルの効果もあって、短時間の睡眠でも北条は苦にしていなかった。
「まー、そう言った実践して経験を積んでいるのが一つと、あとは普通に本などから仕入れた知識というものもある」
これは以前、《鉱山都市グリーク》に滞在していた時に仕入れた知識だ。
都市内に唯一あった図書館では、"速読"や"記憶力強化"などを駆使して、受験生の最後の追い上げのごとく、北条は本を読み漁って知識を吸収していた。
「本って言ったって、ゴーレムの製造法なんて秘術書の類でしょ? そんなのが出回ってるとは思えないけど」
「それもそうなんだがぁ、俺の知識は穴の開いたチーズみたいなもんだったんでなぁ。あれはあれで大分知識が広がったんだよ」
"解析"スキルは本人の知らない事も教えてくれるが、知らない名称のものに対しては使用することが出来ない。
錬金術の素材を記した本なんかでも、北条は名称さえ知る事ができれば、"解析"でより詳細な情報を得る事が出来る。
そうして得た素材の知識は、ゴーレムを作る時にも利用されていた。
「ただ一番でかい理由は、やはりスキルのせいだろう」
「スキル……、あー、なるほどね」
「ん? どゆことだ?」
「スキルってなぁ、取得するとそれだけで情報が頭に入って来るもんがある。知識系のスキルなんかはまさにそれだぁ」
「そうね。詳しい原理は解明されてないんだけど、私も"植物知識"のスキルを得た瞬間、知らなかった植物の知識が頭に入ってきた事があったわ」
「龍之介ぇ。お前の"剣術"だって、そうだぞぉ。剣を握った事がなかったお前が、一端に剣を振るう。これも手続き記憶っていう、一種の記憶が植え付けられたからだぁ」
「あー、そっかー。それもそうだなー」
「そういった知識がな、"刻印魔法"や各種知識スキルなんかの経験を積むと、急に頭に入って来る事があるんだよ」
通常であれば、時間をかけてそのスキルを磨いていく事になるので、熟練度レベルが上がる頃には、知識や感覚などもある程度追いついていく。
それでも時折スキルの熟練度レベルが上がる時に、学び損ねた知識を得る事だってある。
北条は各種スキルや称号効果によって、熟練度の伸びる速度が異様に早い。その為スキル取得時や、熟練度レベルアップ時に得られる情報も多い。
「ゴーレムを作るには、"刻印魔法"の【クリエイトゴーレム】という魔法を使ったんだがぁ、これも"刻印魔法"の熟練度を上げていったら、基本的な使い方だけは頭に入ってきてなぁ」
「あー、なるほどな!」
龍之介も専門ではないが魔法スキルは持っているし、カタリナも"精霊魔法"以外に"水魔法"も使える。
よって魔法スキルを磨くことで、新しい魔法が使えるようになる感覚というのも知っていた。
初級の基礎的な魔法でない限り、魔法名までが頭に浮かんできたりはしないのだが、感覚的にこんな事が出来そうといった事が分るようになってくる。
そこから自力で魔法の形にする事も出来るし、魔法名と効果、コツなどを誰かに聞けば、才能がある人ならすぐにでもその魔法を発動できるだろう。
「これで何となく、オッサンがゴーレムを作れた理由もわかってきたぜ」
「と言ってもまだまだ完成には程遠いぞぉ。というか、まだ肝心な戦闘テストもしてないしなぁ」
「お? じゃあ、オレが相手しようか?」
「…………お前がかぁ?」
「な、なんでそんな嫌そうなんだよ!?」
「いや、なんかお前がやったら壊しちゃいそうだしなぁ」
「んなこたねーって。てか、オッサンが戦ったら、そっちのがうっかり壊しちまう可能性がたけーんじゃねーか?」
「ああん? …………。んー、じゃあ龍之介、いっちょやってみっかぁ?」
「おう! あ、もちろん訓練用の木剣でやらせてもらうぜ」
龍之介はそう言うと、自身の〈魔法の小袋〉から木剣を取り出す。
一通りの装備や金などは、〈魔法の小袋〉にしまってあるようだ。
「という訳で、アルファ。殺したり大けがさせたりしないように、龍之介と模擬戦を行ってくれぃ」
「ワカリマシタ」
「え、ちょ!? 殺したりってどーゆーこと? このゴーレム、もしかしてヤベー性能なのか?」
「アルファは自立思考できるといっても、まだまだ判断力が未熟で融通が効かない。しっかりやってはいけない事を伝えておかないとぉ、"事故"が起こるかもしれん」
「お、おう。それは分かるけど、それって答えになってない――」
「デハイキマス」
「おわああああっ!」
早速融通の効かなさっぷりを発揮して、話の途中なのに龍之介へと襲いかかっていくアルファ。
「お? ちゃんと紹介していないのに、アレが龍之介だという事をきっちり認識してるなぁ。ふむふむ、特に稼働していない時も、周囲の声は拾って知識の集積はしているようだ」
「なっ! とっ! うぇえええい!」
こうして拠点の守り手として作られたゴーレム、「アルファ」との戦闘テストをする事になった龍之介。
この頃には、拠点に帰って来る前に珍しく龍之介が感じていたセンチメンタルな気分も、完全にどこか遠くへと追いやられていたのだった。
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