ひよっこ神様異世界謳歌記

綾織 茅

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うちはうち よそはよそ

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 どうしたものか、ウンウンとうなっていると、誰かが両肩をそっとつかんできた。


「……」


 見上げると、さっきぶりの姿がそこにあった。
 ついさっき会ったばかりだというのに、コノ人は一体何をしに来たんだろうと思わないこともないけれど、まさに渡りに船。飛んで火にいる夏の虫。……違うかな?

 まぁ、そんなことはどうでもいい。
 大事なのは、この場を切り抜けるために最適な人が現れたという一点のみだ。


「……」
「……」


 私を間に置いて相対している二人。
 気のせいじゃなければ、二人の間にパチパチと火花が飛んで……あ、違うな、これ。イザナミ様がアノ人に対して一方的ににらんでる。というより、その目はもはや憎悪ぞうおちているといっても過言かごんではない。

 昔なにがあったかは聞かないけど……うーん。どうでもいいと言いたいけれど、なんか複雑だなぁ。

 ……うん。今は見なかったことにしよう。


「ねぇ」


 私がアノ人の服のすそを引っ張ると、アノ人は私の方へ視線を落としてきた。


「何もない」
「まだ、ねぇしかいってないよ?」


 そうやって誤魔化ごまかそうとすると、かえってあやしいんだけど。


「ねぇ、ひがしのおやしきにもどして。おんなのひと、いなくなっちゃったから」
「女?」
「そう。さっきいってたひと」
「……あぁ」


 合点がてんがいったのか、アノ人は一人納得して周囲を見渡し始めた。
 そのすきに、私は伊邪那美命様へ頭を下げた。


「このひとがなにかやってしまっていたんなら、ほんっとうにごめんなさい」
「そのような謝罪ではすまぬ! すむはずがない! この者は妾にこちらの食べ物を食べさせ、いとしき背の君がいらっしゃるそちら側へと戻れぬようにしおったのじゃ!」


 な、なんですと!?
 それは例の、伊邪那美命様と伊邪那岐命いざなぎのみこと様があの世で再会された場面で、伊邪那美命様がこの世にお戻りになれなかった理由の背景では……?

 えーっと、その後、主宰神交代をして今にいたる、と。


「……」


 激怒されるのも仕方ないね。
 むしろ、お母さん達家族に被害がなくてよかったよ。神職の家系が神にたたられるなんて、とんでもない。


「この女童は妾の話相手にもらう。いなとは言わせぬぞ」
「コレは駄目だ。優姫あれが悲しむ」
「ならば、記憶を消せばよいであろ? 妾には造作ぞうさもないことよ」


 あ、あー、不穏ふおんな雲行きになってきちゃったよー?

 伊邪那美命様は持っていた扇で口元を隠しているものの、目が弓なりに細められているから、きっと口元も同じく下弦の月のように曲げられているんだろう。

 誰だ、この人のことを救世主ばりに思っちゃったヤツ。
 ……私かぁ。私なんだよなぁ。


『なにかあったら、すぐに呼ぶんや。ちゃぁんと起こしたるさかい』


 どうしたもんかと頭をかかえていると、ふと思い出したのは、夢に入る前の綾芽の言葉。

 ……えーい。駄目だめでもともと!


「あやめ! たすけて!」

『……ふぅ。よぅやっとお呼びとは、随分ずいぶん寝汚いぎたないおひいさんやわ』

「うわっ!」


 綾芽の声が聞こえた瞬間、あっという間に仄暗ほのぐらかったはずの辺りが光に包み込まれた。

 伊邪那美様が呼び止める声がしたけど、あっちはあっちで解決してもらいたい。子供まで巻き込んでする話じゃないと思うんですよ。

 本音? 祟られるの怖い。これにきるって。
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