色無し薬師の初恋

香山

文字の大きさ
5 / 7

5

しおりを挟む
フォーブス様は毎日手紙を送ってきた。
その日に起こったことなど上手な文章で面白おかしく書かれていた。
僕もその日に思ったことなど——屋敷から出ないので大したことではないが——を書いたり、絵を描いたりして返信した。
時折、ポーションについての話題が書いてあると、調子に乗って数ページに渡る返事を書くこともあった。

手紙だけでなく、たまに物のやり取りもするようになった。
フォーブス様からは美味しい食べ物や珍しい小物——今日は綺麗な鳥の羽根が届いた。
僕からは傷薬、魔力回復薬、栄養剤——ワンパターンだが贈るたびにフォーブス様は喜んでくれて、社交辞令であっても嬉しかった。

いつしか僕はフォーブス様の手紙を待ち焦がれるようになった。



ある日、久々に兄様が部屋を訪ねてきた。
何処となく機嫌が良いようだった。

「実験を手伝ってもらうよ。手をこちらへ」

兄様は僕の手を掴むと、指先にナイフを当てた。
切れた指先から血が2、3滴落ちる。
その血は兄様の持っていた試験管の中に入った。
それだけ持って、兄様は機嫌良さそうに帰っていった。
何の薬に使うか知らないが、役に立てたのならよかった。
簡単に止血すると、薬の研究に戻った。



今日も手紙の返事を飛ばして、寝る準備をした。
フォーブス様からの手紙は全て大事に箱にしまってあり、寝る前にこうして読み返すようにしている。
美しい文字と流れるような文章を読むと、心が温まってぐっすり眠れるから。
不意に最初の手紙が目に入る。

愛している

その言葉に心臓が跳ねた。
薬はもうすぐ完成する。
そうすれば、この文通も終わりだ。
でも、この手紙は消えたりしない。
これを支えに、僕は生きていける。








「……に……わせて……」

その日もいつも通り薬の開発に励んでいたら、庭から話し声が聞こえた。
カーテンの隅からそっと覗くと、そこにはフォーブス様の後ろ姿があった。
久々に目にするその姿に胸が高鳴る。
もしかして僕に会いにきてくれたのでは、なんて卑しくも思ってしまった。
よく見ようとカーテンを少し開くと、フォーブス様に寄り添っている兄様の姿が見えた。
フォーブス様の隣で兄様は愛おしそうに笑っている。
美しい二人の姿は、まるで一枚の絵画のようだった。
不意に、兄様の目がこちらを見た。
その視線は刺すように鋭かった。
あの優しい兄様が怒っている。
僕はその視線に縫いとめられたかのように動けなかった。

兄様は僕から視線を外すと、フォーブス様に何か囁くように顔を寄せる。
そのまま首に腕を回すと、二つの影が重なった。

僕はもう見ていられなかった。
体をどうにか動かし、窓から離れて床にうずくまる。
胸が痛くて、苦しい。
頬に生温い液体が流れる感触がして、初めて自分が泣いている事に気がついた。
一度出始めると、涙は止まらなかった。
生まれて初めて僕を愛していると言ってくれた人。
手紙を通じてその内面を知る内に、僕はいつの間にかフォーブス様に惹かれていたんだ。
でもフォーブス様の気持ちはまやかしでしか無い。
本当は兄様がフォーブス様の恋人なんだ。
僕が番のままだと、想い合う二人を引き裂いてしまう。

「……早く薬を完成させなきゃ」

それが僕に出来る、フォーブス様への唯一の恩返しだ。
ふらふらと立ち上がり、手紙が入った箱を開けて最初の手紙を取り出す。

愛している

この言葉は僕が持っていて良いものではない。
僕は手に力を込めて手紙を破ろうとした。

「……出来ないよ……」

僕の心を表すように指先が震える。
涙が次から次へと溢れて視界が歪んだ。

「これだけは……これだけで良いから、僕が持っていても良いかな……」

フォーブス様の心は僕のものじゃなくても、あの時ここに書かれたこの言葉だけは僕のものにしても赦されるだろうか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

短編版【けもみみ番外編】卒業の朝〜政略結婚するつもりで別れを告げた宰相子息ユリウスは黒豹エドワードの策略に嵌る〜

降魔 鬼灯
BL
 銀の髪が美しい銀狼獣人ユリウスは宰相家の一人息子だ。  留学中、同室になった黒豹獣人のエドワードと深い仲になる。  子供の頃からエドワードに想いを寄せていたが、自国では同性の婚姻は認められていない。しかも、文官トップの宰相家と武官トップの騎士団長家の仲は険悪だ。  エドワードとは身体だけの関係。そう言い聞かせて、一人息子のユリウスは、帰国を期にエドワードと別れ政略結婚をする決心をする。  一方、エドワードは……。  けもみみ番外編  クロードとアンドレアに振り回される学友2人のお話。

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

神獣様の森にて。

しゅ
BL
どこ、ここ.......? 俺は橋本 俊。 残業終わり、会社のエレベーターに乗ったはずだった。 そう。そのはずである。 いつもの日常から、急に非日常になり、日常に変わる、そんなお話。 7話完結。完結後、別のペアの話を更新致します。

【完結】雪解けて春を待つ隠れ家(雨を待つ隠れ家より番外編)

エウラ
BL
雨を待つ隠れ家の番外編が収拾つかなくなりそうなので、分けました。 不定期更新です。 大まかなあらすじを初めに入れますが、前作を読んでない方にはわかりにくいかもです。 異世界召喚で不遇の時を過ごしたリッカを救い出し、番として溺愛するアッシュ。 2人の日常や過去の話などを書いていけたらと思います。 前作みたいな重い話はあまりないと思います。 読んでもらえたら嬉しいです。 ひとまず番外編を完結にします。 読んで下さってありがとうございます。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

呪われた辺境伯は、異世界転生者を手放さない

波崎 亨璃
BL
ーーー呪われた辺境伯に捕まったのは、俺の方だった。 異世界に迷い込んだ駆真は「呪われた辺境伯」と呼ばれるレオニスの領地に落ちてしまう。 強すぎる魔力のせいで、人を近づけることができないレオニス。 彼に触れれば衰弱し、最悪の場合、命を落とす。 しかしカルマだけはなぜかその影響を一切受けなかった。その事実に気づいたレオニスは次第にカルマを手放さなくなっていく。 「俺に触れられるのは、お前だけだ」 呪いよりも重い執着と孤独から始まる、救済BL。 となります。

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

処理中です...