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最後に魔法窯を3回掻き混ぜると、中身が鮮やかな青色に変わった。
——成功だ。とうとう番解消薬が完成した。
僕はそれを瓶に詰め、その足で兄様に薬を届けに行った。
「マドック様、番解消薬が完成しました」
机で書き仕事をしていた兄様は、ゆっくり顔を上げると怪訝な目でこちらを見た。
だが僕も引くわけにはいかなかった。
「一刻も早く、フォーブス様に使ってください」
「本当に効果があるんだろうな。きちんと確認するまでフォーブス様に使う事はできない」
薬は渡せたが、そのまま追い出されてしまった。
番を解消したくない思いから、偽の薬を持ってきたのではないかと疑っているのだろう。
そう疑われるのは仕方がない。
でもフォーブス様と兄様の為に、それに僕がきちんと諦める為にも早く使って欲しかった。
悩んだ末、僕は手紙でフォーブス様に直接薬を贈ることにした。
番解消薬というと警戒されてしまうのではと思い、効果の短い栄養薬だからすぐに飲んでほしいと書いた。
消えていく紙の鳥を見送る。
これが最後の手紙になるだろう。
フォーブス様は本当に愛する人と結ばれて、僕には優しい思い出が残る。
それだけで十分だった。
薬は完成した。
兄様には見限られてしまった。
僕はもう何の役には立てない。
これ以上無駄に生きていたくはなかった。
フォーブス様から貰った優しい思い出だけを持って、僕は消えてしまいたかった。
生まれ変わって綺麗な花になりたいと、ただそう思った。
僕がいつ消えても良いように部屋を整理した。
フォーブス様から貰った宝物たちも、処分しやすいように一箱に纏めた。
手紙の入った箱も一緒に詰める。
そこから最初の手紙を出して、手に取った。
あれからも何度も破ろうとして結局破れなかったそれを小さく畳んでポケットに入れた。
これだけは最期まで持っていたい。
その時、騒がしい足音と人の声が聞こえた。
その音は徐々に近づいてきて、僕の部屋の前で止まると荒々しく扉が開いた。
「ノア!」
次の瞬間、僕は暖かい腕の中に抱きしめられていた。
「どうして……薬、飲まなかったんですか?」
「飲んだ。飲んだからこうしてここにいる」
飲んだのなら尚更なぜここに居るのだろうか。
もう番は解消されたのに。
「ノア」
フォーブス様の黒曜石の瞳が僕を映していた。
「きっかけは番の関係だったけど、手紙を通してきみの事を知っていくうちにきみの内面も含めますます好きになっていった。俺の不調を読み取り案じてくれる所、日常のささやかな幸せを大切に思っている所、余白に可愛い絵を描いてくれる所、魔法薬について語り出すと止まらない所……全てが愛しく思う。今は番関係なく、俺はきみを愛している」
フォーブス様の言葉に僕は混乱した。
番じゃないのに僕を愛するなんて、そんな事あるのだろうか。
あったとしても僕では相応しくない。駄目なんだ。
でも。
駄目だと分かっているのに、卑しくも僕はフォーブス様の気持ちに縋りたくなってしまう。
フォーブス様が望んでくれるのならば。
その想いに応えても良いですか——
僕が口を開こうとした時、兄様が部屋に飛び込んできた。
「フォーブス様!私は冤罪です!そいつが偽の番です!」
そうだ。フォーブス様は兄様の恋人だった。
慌てて離れようとするが、フォーブス様は離してくれない。
むしろ僕を守るように抱きしめられた。
下から顔を覗くと、フォーブス様は氷のような目つきで兄様を見ていた。
「マドック殿、偽フェロモンの使用は犯罪だ。証拠も揃っている」
冷たい声でそう言うと、フォーブス様は僕を軽々と抱き上げた。
「ノアをここに置いてはおけない。共に行こう」
「ノア!お前のせいだろ?お前が、お前が番だなんて言うから……!」
兄様は、騎士と思しき男性に取り押さえられながら僕に向かって叫んでいた。
その鬼気迫る様子に思わずフォーブス様の胸に顔を埋めた。
あの優しい兄様がここまで取り乱すなんて、僕は何か間違いを犯してしまったのではないか。
だが、フォーブス様は兄様の言葉を無視して部屋を出た。
抱き上げられたまま、玄関ホールに降りると、沢山の人がいる事に気づいた。
「この人たちは……?」
「彼らは俺の部下だ。マドック殿には違法薬物使用の嫌疑がかけられていて、その捜査に来ている。ヘッドリー伯爵の許可は取ってある」
フォーブス様は簡潔にそう言うと、僕を抱えたまま馬車に乗り込んだ。
そのまま膝の上に座らされる。
「でも、フォーブス様——」
「ラルフだ」
「……ラルフ様は兄——マドック様の恋人ではないんですか?」
「そんな事はない。なぜそう思う?」
「だって、僕、見たんです。その、き、キス……してる所」
その光景を思い出し、胸がぎゅっと痛んだ。
フォーブス様は眉間に皺を寄せると、苦虫を噛み潰したように言った。
「あれはマドック殿の使った偽フェロモンのせいだ。強いフェロモンの効果に抗えなかった。だが、それ以上はしていない」
今度は真っ直ぐに僕を見た。
「俺がキスしたいと思うのはノアだけだ」
フォーブス様は熱を帯びた目で僕の頬に手を添えた。
「キスしていいか?」
僕は答えのかわりに目を瞑った。
触れるだけの優しくキスだった。
——成功だ。とうとう番解消薬が完成した。
僕はそれを瓶に詰め、その足で兄様に薬を届けに行った。
「マドック様、番解消薬が完成しました」
机で書き仕事をしていた兄様は、ゆっくり顔を上げると怪訝な目でこちらを見た。
だが僕も引くわけにはいかなかった。
「一刻も早く、フォーブス様に使ってください」
「本当に効果があるんだろうな。きちんと確認するまでフォーブス様に使う事はできない」
薬は渡せたが、そのまま追い出されてしまった。
番を解消したくない思いから、偽の薬を持ってきたのではないかと疑っているのだろう。
そう疑われるのは仕方がない。
でもフォーブス様と兄様の為に、それに僕がきちんと諦める為にも早く使って欲しかった。
悩んだ末、僕は手紙でフォーブス様に直接薬を贈ることにした。
番解消薬というと警戒されてしまうのではと思い、効果の短い栄養薬だからすぐに飲んでほしいと書いた。
消えていく紙の鳥を見送る。
これが最後の手紙になるだろう。
フォーブス様は本当に愛する人と結ばれて、僕には優しい思い出が残る。
それだけで十分だった。
薬は完成した。
兄様には見限られてしまった。
僕はもう何の役には立てない。
これ以上無駄に生きていたくはなかった。
フォーブス様から貰った優しい思い出だけを持って、僕は消えてしまいたかった。
生まれ変わって綺麗な花になりたいと、ただそう思った。
僕がいつ消えても良いように部屋を整理した。
フォーブス様から貰った宝物たちも、処分しやすいように一箱に纏めた。
手紙の入った箱も一緒に詰める。
そこから最初の手紙を出して、手に取った。
あれからも何度も破ろうとして結局破れなかったそれを小さく畳んでポケットに入れた。
これだけは最期まで持っていたい。
その時、騒がしい足音と人の声が聞こえた。
その音は徐々に近づいてきて、僕の部屋の前で止まると荒々しく扉が開いた。
「ノア!」
次の瞬間、僕は暖かい腕の中に抱きしめられていた。
「どうして……薬、飲まなかったんですか?」
「飲んだ。飲んだからこうしてここにいる」
飲んだのなら尚更なぜここに居るのだろうか。
もう番は解消されたのに。
「ノア」
フォーブス様の黒曜石の瞳が僕を映していた。
「きっかけは番の関係だったけど、手紙を通してきみの事を知っていくうちにきみの内面も含めますます好きになっていった。俺の不調を読み取り案じてくれる所、日常のささやかな幸せを大切に思っている所、余白に可愛い絵を描いてくれる所、魔法薬について語り出すと止まらない所……全てが愛しく思う。今は番関係なく、俺はきみを愛している」
フォーブス様の言葉に僕は混乱した。
番じゃないのに僕を愛するなんて、そんな事あるのだろうか。
あったとしても僕では相応しくない。駄目なんだ。
でも。
駄目だと分かっているのに、卑しくも僕はフォーブス様の気持ちに縋りたくなってしまう。
フォーブス様が望んでくれるのならば。
その想いに応えても良いですか——
僕が口を開こうとした時、兄様が部屋に飛び込んできた。
「フォーブス様!私は冤罪です!そいつが偽の番です!」
そうだ。フォーブス様は兄様の恋人だった。
慌てて離れようとするが、フォーブス様は離してくれない。
むしろ僕を守るように抱きしめられた。
下から顔を覗くと、フォーブス様は氷のような目つきで兄様を見ていた。
「マドック殿、偽フェロモンの使用は犯罪だ。証拠も揃っている」
冷たい声でそう言うと、フォーブス様は僕を軽々と抱き上げた。
「ノアをここに置いてはおけない。共に行こう」
「ノア!お前のせいだろ?お前が、お前が番だなんて言うから……!」
兄様は、騎士と思しき男性に取り押さえられながら僕に向かって叫んでいた。
その鬼気迫る様子に思わずフォーブス様の胸に顔を埋めた。
あの優しい兄様がここまで取り乱すなんて、僕は何か間違いを犯してしまったのではないか。
だが、フォーブス様は兄様の言葉を無視して部屋を出た。
抱き上げられたまま、玄関ホールに降りると、沢山の人がいる事に気づいた。
「この人たちは……?」
「彼らは俺の部下だ。マドック殿には違法薬物使用の嫌疑がかけられていて、その捜査に来ている。ヘッドリー伯爵の許可は取ってある」
フォーブス様は簡潔にそう言うと、僕を抱えたまま馬車に乗り込んだ。
そのまま膝の上に座らされる。
「でも、フォーブス様——」
「ラルフだ」
「……ラルフ様は兄——マドック様の恋人ではないんですか?」
「そんな事はない。なぜそう思う?」
「だって、僕、見たんです。その、き、キス……してる所」
その光景を思い出し、胸がぎゅっと痛んだ。
フォーブス様は眉間に皺を寄せると、苦虫を噛み潰したように言った。
「あれはマドック殿の使った偽フェロモンのせいだ。強いフェロモンの効果に抗えなかった。だが、それ以上はしていない」
今度は真っ直ぐに僕を見た。
「俺がキスしたいと思うのはノアだけだ」
フォーブス様は熱を帯びた目で僕の頬に手を添えた。
「キスしていいか?」
僕は答えのかわりに目を瞑った。
触れるだけの優しくキスだった。
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