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(10)信武の彼女
お前が言いたいことは分かった
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「つ、尽くしたくありませんっ」
たっぷり数十秒。
信武が告げた言葉をじっくりきっちり頭の中で転がして、ゆっくりと自分なりに咀嚼した日和美は、視線を上げるとキッ!とすぐそばの信武を睨みつけた。
日和美なり。懸命に言われた言葉の意味を考えたけれど、優しい雰囲気のふわふわ王子――不破――に言われたならともかく、俺様鬼上司の信武にこき使われるのは嫌だ!という結論に達したのだ。
「はぁっ!?」
恐らく断られるなんて選択肢は信武の中に存在していなかったのだろう。
日和美が拒絶の言葉を発した途端、グッと二の腕を掴まれて身体を揺さぶられた。
「痛い……っ」
彼が不破だった時にも思ったけれど、華奢に見えたってやはり男性だ。
信武がちょっとその気になれば、日和美の二の腕なんていとも容易くへし折られてしまいそうな気がする。
眉根をしかめた日和美に、しかし信武は「悪ぃ、つい……」とバツが悪そうにつぶやいて、すぐさま腕の力を緩めてくれた。
「信武さんも私も、ある意味今日が初対面みたいなものだと思いませんか?」
なのにいきなり不破にしたように尽くせだの、お前が気に入っただの、ついていけなくて当然ではないか。
日和美が信武から数歩ばかり距離をあけるように後退りながら理由を述べたら、信武が小さく吐息を落とした。
「お前が言いたいことは分かった……」
ややしてポツンとそう言ってくれたから、「分かってくれましたか!」と瞳を輝かせた日和美だったのだけれど。
「だったら……」
信武は日和美がせっかくあけた距離を一気に詰めてくると、日和美を壁際に追い詰めて――。
「あ、あのっ」
ソワソワと落ち着かない日和美に、一度だけ瞳を閉じると、次に目を開けた瞬間。
「日和美さん。一緒に暮らしている内に、僕は貴女のことがたまらなく好きになりました。――お願いします。どうか僕の彼女になってください」
柔和な表情と口調。
春の麗かな陽だまりみたいにふんわりとした目の光は、日和美の大好きな不破譜和のものだった。
「……不破、さん?」
恐る恐る問い掛けて。
思わず彼の方へ伸ばした日和美の手を、口の端によく見慣れた柔らかな笑みをたたえた不破にそっと握られて。
フェザータッチのように優しく触れられた手が、ほんわか温かくなるのを感じた日和美だ。
たっぷり数十秒。
信武が告げた言葉をじっくりきっちり頭の中で転がして、ゆっくりと自分なりに咀嚼した日和美は、視線を上げるとキッ!とすぐそばの信武を睨みつけた。
日和美なり。懸命に言われた言葉の意味を考えたけれど、優しい雰囲気のふわふわ王子――不破――に言われたならともかく、俺様鬼上司の信武にこき使われるのは嫌だ!という結論に達したのだ。
「はぁっ!?」
恐らく断られるなんて選択肢は信武の中に存在していなかったのだろう。
日和美が拒絶の言葉を発した途端、グッと二の腕を掴まれて身体を揺さぶられた。
「痛い……っ」
彼が不破だった時にも思ったけれど、華奢に見えたってやはり男性だ。
信武がちょっとその気になれば、日和美の二の腕なんていとも容易くへし折られてしまいそうな気がする。
眉根をしかめた日和美に、しかし信武は「悪ぃ、つい……」とバツが悪そうにつぶやいて、すぐさま腕の力を緩めてくれた。
「信武さんも私も、ある意味今日が初対面みたいなものだと思いませんか?」
なのにいきなり不破にしたように尽くせだの、お前が気に入っただの、ついていけなくて当然ではないか。
日和美が信武から数歩ばかり距離をあけるように後退りながら理由を述べたら、信武が小さく吐息を落とした。
「お前が言いたいことは分かった……」
ややしてポツンとそう言ってくれたから、「分かってくれましたか!」と瞳を輝かせた日和美だったのだけれど。
「だったら……」
信武は日和美がせっかくあけた距離を一気に詰めてくると、日和美を壁際に追い詰めて――。
「あ、あのっ」
ソワソワと落ち着かない日和美に、一度だけ瞳を閉じると、次に目を開けた瞬間。
「日和美さん。一緒に暮らしている内に、僕は貴女のことがたまらなく好きになりました。――お願いします。どうか僕の彼女になってください」
柔和な表情と口調。
春の麗かな陽だまりみたいにふんわりとした目の光は、日和美の大好きな不破譜和のものだった。
「……不破、さん?」
恐る恐る問い掛けて。
思わず彼の方へ伸ばした日和美の手を、口の端によく見慣れた柔らかな笑みをたたえた不破にそっと握られて。
フェザータッチのように優しく触れられた手が、ほんわか温かくなるのを感じた日和美だ。
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