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(15)しばらく一人にしてください

気持ちの整理がつかないから

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 とりあえず日和美の顔を見ようと頑張ってみたけれど、ふすまはガタガタするばかりで、開きそうにない。

 この、何かが引っかかっているような感じ。おそらくあちら側につっかえ棒でもしてあるのだろう。

「くそっ!」

 襖には今時のドア扉みたいに鍵なんて掛けられないと抜かっていた。

 よもやそんな旧式な方法で寝室から締め出されてしまうだなんて、思いもしなかった信武だ。

 今自分が手を掛けている目の前のふすま両引りょうびき戸構造ならまだしも、残念ながら壁に対して襖が一枚――いわゆる半間分はんげんぶんしかない片引かたびき戸構造。

 あちら側に棒か何かがつっかえてある限り、どう頑張っても開けることは困難だ。

 寝不足も絡んで体調が悪いと明言されている以上、扉の外で「とりあえず開けろよ!」とごねるわけにもいかなくて、信武は大きな溜め息を落とさずにはいられなかった。

(顔見てぇって思ってんの、俺だけかよ)

 よくよく考えてみれば、昼間のメッセージも、いつの間にか既読にはなっていたけれど、返信もないままに既読スルーだ。

 忙しさにかまけて深く考えなかった信武しのぶだったけれど、(何かおかしいんじゃねぇか?)とさすがに気が付いて。

(俺、日和美ひなみを怒らせるようなこと、何かした?)

 そう思わずにはいられなかった――。


***


 信武が帰って来るよりはるかに早めに風呂を済ませた日和美は、早々に寝室へこもった。

 合鍵を渡している以上、信武が家に入ってくるのを阻止することは困難だ。
 もちろんチェーンロックを掛ければ、鍵が開けられても中へ入ってくることは難しいかも知れないけれど、恐らくは疲れて帰ってくるであろう信武のことを思うと、家の外に締め出すのには抵抗があって。

 結局迷った末、日和美は信武用の布団をリビングに運び出すと、不破ふわがそうしていたようにソファーやローテーブルを部屋の片隅へ押しやって、彼用の寝床をこしらえた。

 そのまま風呂場へ行くと、脱衣所入り口に暖簾のれんを掛けるために使っていた伸縮可能なつっかえ棒を外して寝室に戻った。


 寝室入り口の扉へ、取ってきたつっかえ棒を渡しながら思う。

(ホントは信武さんにどういうことか聞くのが一番大事だってことは分かってる……)

 分かってはいるけれど、まだちょっと気持ちの整理がつかないから。

 もし問い詰めて、あちらが本命で自分は浮気だと明言されたら耐えられる自信がなかった。
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