36 / 283
彼によく似た女の子
1
しおりを挟む
「とっ、……」
鳥飼さん!?という声は驚きのあまり出てこなくて。
「な、んで……」
ここに?と言うのもすぐには発することができなかった。
掴まれた腕にグッと力を込められて痛みに眉根を寄せたところで、
「奏芽のバカ! なんで和音のことおいてくの!」
6~7歳くらいの、ショートボブの女の子が走ってきて、鳥飼さんの腰元にしがみついた。
それを合図にしたみたいに、鳥飼さんの手の力が緩んで、私は腕を解放される。
「店の入口で待っとけっつったろ。勝手に動くなよ、危ねぇだろーが」
鳥飼さんに叱られながらも、彼の下肢にギュッと抱きついている女の子は、袖口と胸周りにフリルのついた白の半袖シャツに、デニムのショートパンツを履いていた。それが、どこかおしゃまで可愛いらしくて。
「もぉー! また女の人!? ママに言いつけちゃうんだからね!? 奏芽が駐車場で私を放ったらかしにして他所の女の人んトコに行っちゃったー!って」
鳥飼さんのセリフをスルーして、愛らしい唇をツン、と尖らせると、言葉では彼に抗議しながらも、視線は完全に私をロックオンしてキッ!と睨みつけてくる。
パッツン前髪から覗いた大きな目と、スッと通った鼻梁。幼子の割に大人びて整ったその面差しは、何となく鳥飼さんに似ている気がした。
この子、もしかして鳥飼さんの……子供?
私より大分年上の鳥飼さんだ。
結婚していて、このくらいのお子さんがいたって不思議じゃない。
ふとそんな風に思い至った途端、チクリと胸が痛んで。
え、なんで?
そのことに驚いた私は一生懸命納得のいく理由を探す。
この胸の痛みは……そう! 結婚してるくせに私を散々揶揄った鳥飼さんに対する怒りみたいなものだ。
そうに違いない。
「知り合い?」
私の服の袖口をチョン、と引っ張ってのぶちゃんが聞いてくるのへ、「バイト先のただの常連さんだよ」と告げてから、自分がことさらにただのというところを強調したことに違和感を覚えた。
「ね、行こう?」
このままここにいたら自分がどんどん分からなくなりそうで怖い。
のぶちゃんの手をギュッと握って、私は一刻も早くこの場を立ち去りたいのだ、と視線で訴えた。
のぶちゃんは付き合いが長い。
すぐに私の気持ちを察してくれて、助手席のドアを開けてくれる。
「お、おい! 待てよ!」
鳥飼さんが何か言ってるけど無視!
ふいっとそっぽを向く私を見て、のぶちゃんが「彼女が嫌がってるので失礼しますね」と鳥飼さんを牽制してくれて。
鳥飼さんも娘?の前ではいつもの強気が出せないのか、案外あっさりと引き下がってくれてホッとする。
小さな女の子にギュッと抱きつかれた鳥飼さんをサイドミラー越しに眺めながら、結局ヘアゴムを返してもらいそびれたな、って思った。
鳥飼さん!?という声は驚きのあまり出てこなくて。
「な、んで……」
ここに?と言うのもすぐには発することができなかった。
掴まれた腕にグッと力を込められて痛みに眉根を寄せたところで、
「奏芽のバカ! なんで和音のことおいてくの!」
6~7歳くらいの、ショートボブの女の子が走ってきて、鳥飼さんの腰元にしがみついた。
それを合図にしたみたいに、鳥飼さんの手の力が緩んで、私は腕を解放される。
「店の入口で待っとけっつったろ。勝手に動くなよ、危ねぇだろーが」
鳥飼さんに叱られながらも、彼の下肢にギュッと抱きついている女の子は、袖口と胸周りにフリルのついた白の半袖シャツに、デニムのショートパンツを履いていた。それが、どこかおしゃまで可愛いらしくて。
「もぉー! また女の人!? ママに言いつけちゃうんだからね!? 奏芽が駐車場で私を放ったらかしにして他所の女の人んトコに行っちゃったー!って」
鳥飼さんのセリフをスルーして、愛らしい唇をツン、と尖らせると、言葉では彼に抗議しながらも、視線は完全に私をロックオンしてキッ!と睨みつけてくる。
パッツン前髪から覗いた大きな目と、スッと通った鼻梁。幼子の割に大人びて整ったその面差しは、何となく鳥飼さんに似ている気がした。
この子、もしかして鳥飼さんの……子供?
私より大分年上の鳥飼さんだ。
結婚していて、このくらいのお子さんがいたって不思議じゃない。
ふとそんな風に思い至った途端、チクリと胸が痛んで。
え、なんで?
そのことに驚いた私は一生懸命納得のいく理由を探す。
この胸の痛みは……そう! 結婚してるくせに私を散々揶揄った鳥飼さんに対する怒りみたいなものだ。
そうに違いない。
「知り合い?」
私の服の袖口をチョン、と引っ張ってのぶちゃんが聞いてくるのへ、「バイト先のただの常連さんだよ」と告げてから、自分がことさらにただのというところを強調したことに違和感を覚えた。
「ね、行こう?」
このままここにいたら自分がどんどん分からなくなりそうで怖い。
のぶちゃんの手をギュッと握って、私は一刻も早くこの場を立ち去りたいのだ、と視線で訴えた。
のぶちゃんは付き合いが長い。
すぐに私の気持ちを察してくれて、助手席のドアを開けてくれる。
「お、おい! 待てよ!」
鳥飼さんが何か言ってるけど無視!
ふいっとそっぽを向く私を見て、のぶちゃんが「彼女が嫌がってるので失礼しますね」と鳥飼さんを牽制してくれて。
鳥飼さんも娘?の前ではいつもの強気が出せないのか、案外あっさりと引き下がってくれてホッとする。
小さな女の子にギュッと抱きつかれた鳥飼さんをサイドミラー越しに眺めながら、結局ヘアゴムを返してもらいそびれたな、って思った。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
104
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる