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大学図書館

仕事

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 この大学図書館には、今現在司書の有資格者が僕の他にもう一人いる。年輩の非常勤のかたで、週に二日ほど勤務されている内田さんという女性だ。
 実は、前年度までは常勤でここの先代館長をしておられた方で、僕が慣れるまでの一ヶ月間限定で引き継ぎに来ていただいている。彼女に習いながら、僕は日々の選書や蔵書の整理などを行っている。

 だが、さすがに館長だけで切り盛りするには図書館の規模に対して圧倒的に人員不足だ。

 それを補填ほてんするために、図書館学を専攻し、ゆくゆくは司書の資格を有するであろう学生の中から毎日一~ニ名程度、本人の講義がない時間帯に実務を兼ねて手伝いに来てもらっている。
 手伝いの学生たちには、そんなに高くはないがバイト代も支払われている。
 登録している人数自体は十名を軽く超えているのだが、真面目にバイトに来てくれるのはそのうちの半数にも満たないのが現状で……。招集をかければ来てくれるが、放っておくとバイトメンバーも顔なじみに固定されてしまう。


 働き始めたと同時に名目上【館長】という肩書がついてしまった僕は、本来の司書の業務とは違った部分も気にしながら仕事をすることを余儀なくされた。バイトの子たちのシフト調整もそんな雑事のなかのひとつだ。

 常に人手不足なので、僕や内田さんはカウンターにいるよりも、七階フロアの片隅にある事務室にこもって本の受け入れ作業や廃棄作業をしていたり、書庫に入って動き回っていることのほうが多い。
 僕の、葵咲きさきちゃんが来館したらカウンターからすぐに分かるだろう、という当初の目論見は見事に打ち砕かれたことになる。

 基本的に割と単調なカウンターでの貸出し・返却業務の大半は学生バイトが担当してくれている。
 それで内田さんが館長をしていたときに、カウンター下に小さな押しボタンを設置したそうだ。どうしても館長でないと対応が出来ない案件の場合は、それを押してもらえれば館内どこにいても司書に呼び出しがかかるようになっている。
 呼び出し、と言ってもここは図書館。何か音が鳴ったりするわけではなく、各フロアの天井と事務室天井に取りつけられた淡いオレンジの回転ライトが五秒程度点灯するだけという極めてシンプルなシステムだ。
 それでも十分なのは、この図書館が受付と閲覧ロビーのある最上階にしか窓がないことが大きいだろう。
 書庫になっている六階から一階までは資料の日焼けを予防するため窓などが一切なく、天井の照明のみが唯一の灯りだからだ。
 停電になれば真っ暗になることは必至。

 書架はどれも結構背が高いので、何となく全体的に薄暗い印象が拭えない。おまけに書架と書架の間の通路も狭く、誰かが立っていたらその後ろを人が一人すり抜けられる程度。
 色々な要素と、蔵書の多さもあいまって、書庫内は何とも息苦しい印象になっている。
 これらも全て元々閉架式であったことの名残だろう。

 フロアによって人の入りも全然違うし、階下に降りれば降りるほど利用者が少なくなる印象だ。
 一階で一人蔵書整理などをしていると、耳が痛くなるような静けさに、ふと不安になることがあるほどだった――。
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