60 / 324
■僕惚れ②『温泉へ行こう!』
チェックイン2
しおりを挟む
**×
夕飯は和食会席だった。
内風呂付の部屋に宿泊のお客さんのみが利用できるというお店――ダイニング桜庵――に移動しての食事。
私たちの部屋は一階に位置していたけれど、お店は六階なので、部屋とはまた違った眺望が愉しめるのも魅力のひとつらしいよ、と理人が言った。
店内は部屋と同様やはり和モダンな雰囲気で、畳の上にナラの木を材としたダイニングテーブルが10卓。テーブルには落ち着いた色合いのダークブラウンのウレタン塗装が施されていて、各テーブルに付属の椅子4脚も同じ色に統一されていた。
まるで、明治時代のレストランにタイムトリップしたかのような空間に、私は思わず溜息をつく。
「素敵ね」
横に立つ理人の顔を見上げて思わず感嘆の声を漏らすと、理人がニコッと笑い返してくれた。
――と。
「いらっしゃいませ」
入り口に入ってすぐのところに控えていた若い男性店員さんが、私たちに恭しく頭を垂れる。
その店員さんを見て、私も理人も一瞬にして固まってしまった。
「チケットを拝見します」
そう言って顔を上げて……理人がチェックインの際にフロントで渡されたチケットを差し出すのを受け取りながら、彼も動きを止める。
「……正木、くん?」
「池本さん、と……丸山……?」
正木くんに名前を呼ばれた私は、思わず理人の陰に隠れる。そんな私を背後に隠すようにして、理人が彼をじっと見つめる。
その重苦しい雰囲気を先に壊してくれたのは、正木くんだった。
「では、お席へご案内いたします」
一瞬で店員モードに切り替えると、私たちを案内しながら、小声で「ここ、祖父母がオーナーの旅館なんです。俺は毎年、桜庵の助っ人してます」と言った。
そういえば彼、新幹線の中で家業の手伝いに行くのだ、と言っていた。
でもまさか、ここだったなんて。
朝の悪夢が脳裏に蘇ってきて、私は思わず理人の服をギュッと握る。
理人は私の怯えを感じ取ったように、後ろに手を差し伸べてくれた。
その手をすがるような気持ちで掴んだら、彼が指を絡めるようにして握り返してくれる。
私はそれだけで気持ちがとても軽くなるのを感じた。
夕飯は和食会席だった。
内風呂付の部屋に宿泊のお客さんのみが利用できるというお店――ダイニング桜庵――に移動しての食事。
私たちの部屋は一階に位置していたけれど、お店は六階なので、部屋とはまた違った眺望が愉しめるのも魅力のひとつらしいよ、と理人が言った。
店内は部屋と同様やはり和モダンな雰囲気で、畳の上にナラの木を材としたダイニングテーブルが10卓。テーブルには落ち着いた色合いのダークブラウンのウレタン塗装が施されていて、各テーブルに付属の椅子4脚も同じ色に統一されていた。
まるで、明治時代のレストランにタイムトリップしたかのような空間に、私は思わず溜息をつく。
「素敵ね」
横に立つ理人の顔を見上げて思わず感嘆の声を漏らすと、理人がニコッと笑い返してくれた。
――と。
「いらっしゃいませ」
入り口に入ってすぐのところに控えていた若い男性店員さんが、私たちに恭しく頭を垂れる。
その店員さんを見て、私も理人も一瞬にして固まってしまった。
「チケットを拝見します」
そう言って顔を上げて……理人がチェックインの際にフロントで渡されたチケットを差し出すのを受け取りながら、彼も動きを止める。
「……正木、くん?」
「池本さん、と……丸山……?」
正木くんに名前を呼ばれた私は、思わず理人の陰に隠れる。そんな私を背後に隠すようにして、理人が彼をじっと見つめる。
その重苦しい雰囲気を先に壊してくれたのは、正木くんだった。
「では、お席へご案内いたします」
一瞬で店員モードに切り替えると、私たちを案内しながら、小声で「ここ、祖父母がオーナーの旅館なんです。俺は毎年、桜庵の助っ人してます」と言った。
そういえば彼、新幹線の中で家業の手伝いに行くのだ、と言っていた。
でもまさか、ここだったなんて。
朝の悪夢が脳裏に蘇ってきて、私は思わず理人の服をギュッと握る。
理人は私の怯えを感じ取ったように、後ろに手を差し伸べてくれた。
その手をすがるような気持ちで掴んだら、彼が指を絡めるようにして握り返してくれる。
私はそれだけで気持ちがとても軽くなるのを感じた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
214
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる