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■『あなたがいちばん』■気まぐれ短編
甘えん坊さんね
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(わ、このぬいぐるみ。何だか雰囲気が理人っぽい)
家の近くにオープンした雑貨屋に並んだ、色んな動物を擬人化したような、大小様々な可愛いぬいぐるみたち。
その中のひとつ。
ペンギンのちょっぴり大きめなぬいぐるみが、何だか大好きな理人に見えてしまって、葵咲は思わず足を止めた。
抱き枕さながらの大きさをしたそのぬいぐるみを両手で抱え上げてみると、まるでスーツでも着ているみたいな柄。一丁前に、胸元には燕脂でネクタイみたいな模様まで描かれている。
その子は、何故か別布で作られた青いエプロンをかけていて、手には小さな本を持っていた。
その有り様が、いつもスーツ姿にしっかりネクタイまで結んで、時にそれが汚れないようエプロンを付けて大学図書館館長という仕事をしている恋人の姿と重なって、葵咲はキュンとしたのだ。
ペンギンが本を手にしているところも、司書を生業にしている彼とダブって。
(やだっ。めちゃくちゃ可愛い! お家に連れ帰りたい!)
そう思った時には、葵咲のつま先は、足早にレジへと方向転換をしていた。
***
「ただいま」
玄関扉の鍵が開錠された音を耳敏く聞きつけて、愛猫セレがニャニャーン!と言う声とともに黒く艶やかなしっぽをピィ~ンと立てて、小走りに玄関へ向かう。
しっぽを上げたことで丸見えになった、セレの可愛らしいお尻の穴を目の端に収めながら、葵咲はソワソワと鍋の火を止めた。
「セレぇ~。お前は今日もお出迎え早いなぁ」
理人の声に混ざって、チリンチリンとセレが首輪につけた鈴の音が聞こえてくるのは、理人が愛猫の喉を掻いてやっているんだろう。
本当は自分もセレに負けないぐらい素早く玄関先に走って行って、大好きな理人を出迎えたいくせに、葵咲はそういうことが出来ない女の子だ。
「――お帰りなさい、理人。お疲れ様」
はやる気持ちを一生懸命抑えながら、わざとエプロンで手を拭く仕草をしながらゆっくりと廊下に顔を出す。
「ただいま、葵咲っ」
そうしていつものように、自分を目にした途端、セレからスッと離れて廊下を大股で歩いてきた理人に、愛しくて堪らない!と言わんばかりにリビングを出てすぐの辺りでギュッと抱きしめられるのだ。
「とりあえず葵咲ちゃんを充電させてね」
甘えたように優しい声音でそう言いながら、腕の中の葵咲の匂いを胸いっぱい吸い込む理人に、葵咲はどうしてもいつもいつも照れてしまう。
理人みたいに大っぴらには吸い込めないけれど、自分だって彼に抱きしめられた腕の中で、大好きな理人の匂いを肺の隅々まで吸収中。
本当は、ずっとそうやって理人に抱きしめていてもらいたいくせに、心裏腹。
モジモジと身じろいで理人の腕からスルリとすり抜けると、葵咲は平常心を装って「甘えん坊さんね」と5つ年上の恋人を嗜めた。
家の近くにオープンした雑貨屋に並んだ、色んな動物を擬人化したような、大小様々な可愛いぬいぐるみたち。
その中のひとつ。
ペンギンのちょっぴり大きめなぬいぐるみが、何だか大好きな理人に見えてしまって、葵咲は思わず足を止めた。
抱き枕さながらの大きさをしたそのぬいぐるみを両手で抱え上げてみると、まるでスーツでも着ているみたいな柄。一丁前に、胸元には燕脂でネクタイみたいな模様まで描かれている。
その子は、何故か別布で作られた青いエプロンをかけていて、手には小さな本を持っていた。
その有り様が、いつもスーツ姿にしっかりネクタイまで結んで、時にそれが汚れないようエプロンを付けて大学図書館館長という仕事をしている恋人の姿と重なって、葵咲はキュンとしたのだ。
ペンギンが本を手にしているところも、司書を生業にしている彼とダブって。
(やだっ。めちゃくちゃ可愛い! お家に連れ帰りたい!)
そう思った時には、葵咲のつま先は、足早にレジへと方向転換をしていた。
***
「ただいま」
玄関扉の鍵が開錠された音を耳敏く聞きつけて、愛猫セレがニャニャーン!と言う声とともに黒く艶やかなしっぽをピィ~ンと立てて、小走りに玄関へ向かう。
しっぽを上げたことで丸見えになった、セレの可愛らしいお尻の穴を目の端に収めながら、葵咲はソワソワと鍋の火を止めた。
「セレぇ~。お前は今日もお出迎え早いなぁ」
理人の声に混ざって、チリンチリンとセレが首輪につけた鈴の音が聞こえてくるのは、理人が愛猫の喉を掻いてやっているんだろう。
本当は自分もセレに負けないぐらい素早く玄関先に走って行って、大好きな理人を出迎えたいくせに、葵咲はそういうことが出来ない女の子だ。
「――お帰りなさい、理人。お疲れ様」
はやる気持ちを一生懸命抑えながら、わざとエプロンで手を拭く仕草をしながらゆっくりと廊下に顔を出す。
「ただいま、葵咲っ」
そうしていつものように、自分を目にした途端、セレからスッと離れて廊下を大股で歩いてきた理人に、愛しくて堪らない!と言わんばかりにリビングを出てすぐの辺りでギュッと抱きしめられるのだ。
「とりあえず葵咲ちゃんを充電させてね」
甘えたように優しい声音でそう言いながら、腕の中の葵咲の匂いを胸いっぱい吸い込む理人に、葵咲はどうしてもいつもいつも照れてしまう。
理人みたいに大っぴらには吸い込めないけれど、自分だって彼に抱きしめられた腕の中で、大好きな理人の匂いを肺の隅々まで吸収中。
本当は、ずっとそうやって理人に抱きしめていてもらいたいくせに、心裏腹。
モジモジと身じろいで理人の腕からスルリとすり抜けると、葵咲は平常心を装って「甘えん坊さんね」と5つ年上の恋人を嗜めた。
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