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3.家なき子
僕ん家においで
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「芽生……ちゃん……?」
痛いぐらいの力で捕まれた左手首に眉をひそめながら声のしたほうを振り向けば、いま芽生が一番会いたくない相手――細波鳴矢が立っていた。
炎に赤く照らされた細波の顔はいつもより不気味で、芽生は無意識に彼から距離を取ろうとした。けれど掴まれた腕のせいで離れることが出来なくて、仕方なく「あの……細波さん、手を……」と抗議の声をあげる。
細波は幽霊でも見ているみたいにそんな芽生のことをじっと食い入るように見詰めてから、ややしてホゥッと吐息を落とした。
「良かった。無事……だったんだね。出火当時、家に電気が付いたままだったって聞いたから僕はてっきり……」
つぶやくなり、感極まったみたいに芽衣をギュッと抱き締めてくる。
「――っ!」
突然の細波からの抱擁に、芽生は〝やめて!〟という声すら出せなくて、ただただ身体を固くするしか出来なかった。
引き寄せられ、細波の胸元へグッと鼻先を押し付けられているせいで思わず吸い込んでしまった強すぎる香水のニオイに混ざって、どこかで嗅いだことのある香りが混ざっている気がしたけれど、家が燃える異臭にかき消されて上手く思い出せない。
「あ、あの……さ、ざなみさっ、苦し……っ」
いろんな意味で息苦しくて、やっとの思いでジタバタと身じろぎながら放して欲しいと意思表示すれば、細波がハッとしたように「ごめんね」と言って腕を緩めてくれた。
そのことにホッとして距離を取ったと同時、握られたままだった左手首に加えて、買い物袋を手にしたままの右手首も掴まれて、「ね、芽生ちゃん。家があんなじゃ身を寄せる場所がないよね? とりあえず落ち着き先が決まるまで僕ん家においで?」とか。
芽生は、一瞬何を言われているのか分からなかった。そんなことより手を放して欲しい。
「ね、芽生ちゃん、返事はもちろん『はい』だよね?」
細波越しに見える向こうの方では、芽生が施設を出てからずっと慣れ親しんできた我が家がズタボロになっている真っ最中。
時折パリンッ!と弾けるような鋭い音がするのは、熱に耐えきれなくなった窓ガラスが割れているんだろうか。
芽生の心は九割以上そちらに向いている。まるでその間隙を狙いすかしたみたいに答えを迫られても、芽生は正直上の空だ。
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「良かった。無事……だったんだね。出火当時、家に電気が付いたままだったって聞いたから僕はてっきり……」
つぶやくなり、感極まったみたいに芽衣をギュッと抱き締めてくる。
「――っ!」
突然の細波からの抱擁に、芽生は〝やめて!〟という声すら出せなくて、ただただ身体を固くするしか出来なかった。
引き寄せられ、細波の胸元へグッと鼻先を押し付けられているせいで思わず吸い込んでしまった強すぎる香水のニオイに混ざって、どこかで嗅いだことのある香りが混ざっている気がしたけれど、家が燃える異臭にかき消されて上手く思い出せない。
「あ、あの……さ、ざなみさっ、苦し……っ」
いろんな意味で息苦しくて、やっとの思いでジタバタと身じろぎながら放して欲しいと意思表示すれば、細波がハッとしたように「ごめんね」と言って腕を緩めてくれた。
そのことにホッとして距離を取ったと同時、握られたままだった左手首に加えて、買い物袋を手にしたままの右手首も掴まれて、「ね、芽生ちゃん。家があんなじゃ身を寄せる場所がないよね? とりあえず落ち着き先が決まるまで僕ん家においで?」とか。
芽生は、一瞬何を言われているのか分からなかった。そんなことより手を放して欲しい。
「ね、芽生ちゃん、返事はもちろん『はい』だよね?」
細波越しに見える向こうの方では、芽生が施設を出てからずっと慣れ親しんできた我が家がズタボロになっている真っ最中。
時折パリンッ!と弾けるような鋭い音がするのは、熱に耐えきれなくなった窓ガラスが割れているんだろうか。
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