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27.捨てられたんじゃ、ない?
上に立つ器
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「もしかしたら奈央子さんには何か予感めいたものがあったのかも知れんな」
ふいに落とされた栄蔵のつぶやきに、芽生は目の前の老人を見詰めた。
「わたしが死にかけているというニュースを観て、居ても立っても居られなくなったと言っていたそうだから」
細波鳴矢を跡継ぎ候補から外そうと考えた栄蔵は、病床へ鳴矢を呼んで告げたのだ。
『わたしには遺産を相続させるべき人間がいない。縁あってお前をわたしの跡目にしようとうちへ引き入れたのはわたしの判断だ。だが数年かけてお前を育ててみて分かったが、お前には上に立つ人間としての素質がない』
そこまで言ったときに見せられた鳴矢の歪んだ顔が、栄蔵には忘れられない。それはそうだろう。自分にはさかえグループのトップの地位が約束されていると思っていたんだろうから。だが、栄蔵にはグループの皆を守る責任がある。鳴矢にもう少し上へ立つ者としての品位や知性が備わっていたならばあるいはと思い、目を掛けてきたつもりだったのだが、何年かけても及第点に遠く及ばなかった。残念だが、血縁にこだわって鳴矢をトップに据えるのはリスクが高すぎると判断せざるを得なかったのだ。
(息子さえ生きていれば……)
そう思わなかったわけがない。栄一郎にも全く問題がなかったわけではないが、親としての欲目を差し引いても、鳴矢より遥かに優れた素質を持っていた。
『なんの補償もなくその地位を剥奪するのはさすがに忍びない。だからな、鳴矢。わたしが死んだら、財産の十分の一は跡継ぎ候補から外す代償として、お前にいくよう遺言状を書き直した』
残りは会社へ。
もともと栄一郎が亡くなった時、会社へ一〇〇%引き渡すつもりだったものを、十%ほど差し引いて鳴矢へ渡す。それが、栄蔵に出来る精一杯の譲歩だった。
栄蔵の遺産は、十分の一でも彼とその母親がつつましやかに暮らしていくには申し分のない額だ。
仕事だって配置転換はしても解雇するわけではない。鳴矢さえその気であれば、さかえグループ社員としての立場は保障するつもりだった。
鳴矢は栄蔵から見ると、母方の従妹・鳴海の子、つまりは〝またいとこ〟にあたる。
すでに栄蔵の妻・澪は鬼籍に入っているので、法定相続人の順位でいくと第一位は子の栄一郎のみだったのだが、こちらもすでに亡くなっている。第二候補の親や祖父母も皆この世にはいない。加えて栄蔵は一人っ子だから、第三候補の兄弟姉妹や甥・姪も存在しない状態だ。
遺言書がなければ栄蔵の死後、 遺産は国庫に帰属になってしまうから、栄蔵は栄一郎が亡くなったのち、苦渋の決断で遺言書を作成した。
それを少し改変して鳴矢にもほんの少し相続の権利が発生するようにしたのだが、栄蔵に孫がいるとなると話が違ってくる。
ふいに落とされた栄蔵のつぶやきに、芽生は目の前の老人を見詰めた。
「わたしが死にかけているというニュースを観て、居ても立っても居られなくなったと言っていたそうだから」
細波鳴矢を跡継ぎ候補から外そうと考えた栄蔵は、病床へ鳴矢を呼んで告げたのだ。
『わたしには遺産を相続させるべき人間がいない。縁あってお前をわたしの跡目にしようとうちへ引き入れたのはわたしの判断だ。だが数年かけてお前を育ててみて分かったが、お前には上に立つ人間としての素質がない』
そこまで言ったときに見せられた鳴矢の歪んだ顔が、栄蔵には忘れられない。それはそうだろう。自分にはさかえグループのトップの地位が約束されていると思っていたんだろうから。だが、栄蔵にはグループの皆を守る責任がある。鳴矢にもう少し上へ立つ者としての品位や知性が備わっていたならばあるいはと思い、目を掛けてきたつもりだったのだが、何年かけても及第点に遠く及ばなかった。残念だが、血縁にこだわって鳴矢をトップに据えるのはリスクが高すぎると判断せざるを得なかったのだ。
(息子さえ生きていれば……)
そう思わなかったわけがない。栄一郎にも全く問題がなかったわけではないが、親としての欲目を差し引いても、鳴矢より遥かに優れた素質を持っていた。
『なんの補償もなくその地位を剥奪するのはさすがに忍びない。だからな、鳴矢。わたしが死んだら、財産の十分の一は跡継ぎ候補から外す代償として、お前にいくよう遺言状を書き直した』
残りは会社へ。
もともと栄一郎が亡くなった時、会社へ一〇〇%引き渡すつもりだったものを、十%ほど差し引いて鳴矢へ渡す。それが、栄蔵に出来る精一杯の譲歩だった。
栄蔵の遺産は、十分の一でも彼とその母親がつつましやかに暮らしていくには申し分のない額だ。
仕事だって配置転換はしても解雇するわけではない。鳴矢さえその気であれば、さかえグループ社員としての立場は保障するつもりだった。
鳴矢は栄蔵から見ると、母方の従妹・鳴海の子、つまりは〝またいとこ〟にあたる。
すでに栄蔵の妻・澪は鬼籍に入っているので、法定相続人の順位でいくと第一位は子の栄一郎のみだったのだが、こちらもすでに亡くなっている。第二候補の親や祖父母も皆この世にはいない。加えて栄蔵は一人っ子だから、第三候補の兄弟姉妹や甥・姪も存在しない状態だ。
遺言書がなければ栄蔵の死後、 遺産は国庫に帰属になってしまうから、栄蔵は栄一郎が亡くなったのち、苦渋の決断で遺言書を作成した。
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