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Epilogue
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***
時折お腹が張って、微かにキューッと生理痛のような痛みを感じるようになった頃、私は八千代さんにお願いしてお買い物を頼んだ。
八千代さんが出掛けている間に、早炊き設定で炊飯器のスイッチを入れてキッチンの椅子に腰掛ける。
「よいしょ」
お腹が大きいあまり、このところ無意識に出るようになってしまった掛け声に思わず苦笑して。
ちょっと動いたら暑くなって、羽織っていた透かし編みのカーディガンを椅子に掛けて、ほぉっと一息ついた。
炊き立てほかほかのご飯が出来たら、これでおにぎりを作るぞー!と思ったら自然頬がほころんで。
おにぎりを彩る具も、ちゃんと決めてあるの。
ふふっ。楽しみっ!
「イタタタ……っ」
そこでキューッとお腹が張る痛みに背中をさすって。だけどまだ我慢出来ないほどじゃない。
絶対とは言えないけれど、私、初産だし、きっとあと数時間は猶予があると思うの。
学校で学んだ知識が、案外いま冷静に自分の状況を見つめられる指針になって助かるなぁとか思いつつ。
痛みが和らぐとすぐ、気持ちが炊飯器と、八千代さんにお願いしたお買い物にさらわれる。
おにぎりの具材の定番はシャケや梅干しやおかか。
だけど今回私が八千代さんにお願いしたのはそれらじゃないの。
***
「花々里さん、ただいま戻りました」
玄関が開く音がして、八千代さんの声が聞こえてきた。
私は椅子からノシッと立ち上がると、台所から顔を覗かせる。
「八千代さん、お帰りなさい。すみません、暑い中、わがまま言ってしまって」
眉根を寄せたら、
「お気になさらず。こう言う時のワガママは大いに言ってくださいまし。ところで痛みの方はいかがでございますか?」
大きく膨らんだお腹に優しい視線を注がれて、少しくすぐったい。
「――まだみたいです」
すりすりとお腹をさすりながら答えたら、中からポン!と蹴り上げられて、「こいつめ」と思ってしまう。
そんな私に、「楽しみでございますね」と八千代さんがニッコリ微笑んだ。
「冷房で身体を冷やすといけませんから、暑いからってあまり薄着はいけませんよ?」
時節はそろそろ夏本番を迎えようかという頃。
キャミワンピース1枚で玄関先に出てきたことを目ざとく見咎められて、私は「あ」と思う。
お米をといだあと、透かし編みのサマーカーディガンを脱いで、椅子に掛けたままだった。
***
もうちょっとしたら頼綱が仕事を終えて帰宅してくる頃だ。
この感じだと、タクシーとか呼ばなくても頼綱に病院に連れて行ってもらえるかな?
炊飯器がご飯炊き上がりの音楽を奏でて……私はお弁当箱を片手に、八千代さんと一緒にキッチンへ立った。
時折お腹が張って、微かにキューッと生理痛のような痛みを感じるようになった頃、私は八千代さんにお願いしてお買い物を頼んだ。
八千代さんが出掛けている間に、早炊き設定で炊飯器のスイッチを入れてキッチンの椅子に腰掛ける。
「よいしょ」
お腹が大きいあまり、このところ無意識に出るようになってしまった掛け声に思わず苦笑して。
ちょっと動いたら暑くなって、羽織っていた透かし編みのカーディガンを椅子に掛けて、ほぉっと一息ついた。
炊き立てほかほかのご飯が出来たら、これでおにぎりを作るぞー!と思ったら自然頬がほころんで。
おにぎりを彩る具も、ちゃんと決めてあるの。
ふふっ。楽しみっ!
「イタタタ……っ」
そこでキューッとお腹が張る痛みに背中をさすって。だけどまだ我慢出来ないほどじゃない。
絶対とは言えないけれど、私、初産だし、きっとあと数時間は猶予があると思うの。
学校で学んだ知識が、案外いま冷静に自分の状況を見つめられる指針になって助かるなぁとか思いつつ。
痛みが和らぐとすぐ、気持ちが炊飯器と、八千代さんにお願いしたお買い物にさらわれる。
おにぎりの具材の定番はシャケや梅干しやおかか。
だけど今回私が八千代さんにお願いしたのはそれらじゃないの。
***
「花々里さん、ただいま戻りました」
玄関が開く音がして、八千代さんの声が聞こえてきた。
私は椅子からノシッと立ち上がると、台所から顔を覗かせる。
「八千代さん、お帰りなさい。すみません、暑い中、わがまま言ってしまって」
眉根を寄せたら、
「お気になさらず。こう言う時のワガママは大いに言ってくださいまし。ところで痛みの方はいかがでございますか?」
大きく膨らんだお腹に優しい視線を注がれて、少しくすぐったい。
「――まだみたいです」
すりすりとお腹をさすりながら答えたら、中からポン!と蹴り上げられて、「こいつめ」と思ってしまう。
そんな私に、「楽しみでございますね」と八千代さんがニッコリ微笑んだ。
「冷房で身体を冷やすといけませんから、暑いからってあまり薄着はいけませんよ?」
時節はそろそろ夏本番を迎えようかという頃。
キャミワンピース1枚で玄関先に出てきたことを目ざとく見咎められて、私は「あ」と思う。
お米をといだあと、透かし編みのサマーカーディガンを脱いで、椅子に掛けたままだった。
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もうちょっとしたら頼綱が仕事を終えて帰宅してくる頃だ。
この感じだと、タクシーとか呼ばなくても頼綱に病院に連れて行ってもらえるかな?
炊飯器がご飯炊き上がりの音楽を奏でて……私はお弁当箱を片手に、八千代さんと一緒にキッチンへ立った。
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