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音芽の訪問

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 一応念のために薄く扉を開くようにしてもう一度確認すると、
「ごめんね、温和はるまさ
 そう言ってドア前に立つ音芽おとめは、どうみても俺が指定したダサダサの部屋着ではなくて――。

 っていうか!
 何でそんな可愛いワンピース着てくるんだ、バカ音芽!
 胸元開襟で前開きボタンとか……俺がその気になって力任せに引っ張ったら前、簡単に肌蹴はだけちまうデザインじゃねぇか。

 これ絶対、部屋んなか、入れるわけにいかねぇだろ。

 音芽が続けて何か言おうとしたけれど、俺は問答無用で「出直してこい」と扉を閉めようとした。

 が、タッチの差で音芽の手が扉の隙間に差し込まれて、無理矢理にでも彼女を締め出そうとした俺を阻むんだ。

「音芽、手、どけろ」

 急に手ぇ、出してくるから挟むところだっただろ、バカ!

 彼女の軽率な行動にイラッとして、威嚇するように声に怒気をにじませた俺に、しかし予想に反して音芽は「イヤだ」と食い下がってきて。

 マジか!

「何で可愛い格好して来ちゃいけないの? 私のこと、そんなに嫌い?」

 扉の隙間から俺を睨みつけるようにして音芽が主張してきた言葉に、俺は「は?」と思う。
 何でお前に可愛い格好させないことが、俺が音芽を嫌いなこととイコールで結びつくんだよ?

 むしろ逆だろ?

 好きだから可愛い格好してくんな!っつってんのが分かんねぇのかよ!

 隙間から顔を見せて、
「本当に追い返す気なら、私の手、気にせず思いっきり挟んだらいいじゃないっ!」

 とか。
 俺がそんなこと出来ないの分かってて言ってるだろ。
 本当タチが悪い。

 ドアノブにかけたままの俺の腕を掴んで俺に挑むように睨みつけてくる音芽おとめに、俺はさすがに我慢の限界を越えた。

 不意にドアを大きく開くと、俺の手を握る音芽の手を逆に掴み返して、そのままグイッと室内に引き入れた。

 音芽も、俺に突き飛ばされる事は想像していたんだろうが、引っ張り込まれるのは想定外だったんだろう。

「ひゃっ!」
 
 ゾクッとするような可愛い声を上げて、俺をさらに煽ってくる。

 音芽の反応が愛しすぎて、俺は思わず彼女を腕の中に閉じ込めるように抱きしめた。

 ギュッと抱き寄せた瞬間に香ったシャンプーと石鹸とに混ざる、音芽自身の甘い芳香。

 あらわになった音芽の首筋を、彼女の柔らかな髪の毛がさらりと流れて、そのあまりの色香にクラクラする。
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