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5-1.オオカミとウサギさん*
うち、待ちくらびれましたけぇ〜
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「えっと……凄くくだらんことなんじゃけど……その、うち、もう一回バニーちゃん着ちょった方がええですか? それとも――」
「いっ、今のままでお願いします!!」
実篤は、くるみの言葉を遮るように思わず力説してしまっていた。
「えっ?」
あまりに前のめりになってしまったからだろうか。
くるみが外から驚いた声を出したのが聞こえて、内心(やっちまった!)と思った実篤だ。
だが、済んだこと。ジタバタするだけ無駄だと開き直ることにした。
「お、俺っ、くるみちゃんが俺の服着てくれちょるん、すげぇ良いって思うたんよ。だから、そのままでおってもらえたら滅茶苦茶嬉しいです」
嘘偽らざる本音を述べて、くるみに「わかりました」と納得してもらった。
***
結局くるみの予期せぬ来襲で息子はすっかりシュン、と元気をなくしてしまい、実篤は身体中をしっかり清めるだけで風呂場を後にする運びとなった。
上がる時、忘れず湯張りボタンを押して事後に備えるのを忘れなかったのは我ながらグダグダな中で頑張れた方だと思う。
身体中をクンクン嗅いで綺麗になったかどうかを確認しながら、「大丈夫、俺は本番に強い男じゃ! ちゃんとやれる!」とペチペチ頬を叩いてから、ふと思いついて歯磨きも済ませて部屋に戻る。
――と、くるみは寝室には居なくて「おや?」と思った実篤だ。
(まさか怖ーなって帰ったとか?)
などと考えてから、いや、くるみちゃんの車、俺の職場じゃんと思い直す。
「くるみちゃーん? おーい。どこにおるん?」
ソワソワしながら呼ばわったら「ひゃーい」とどこかほわほわとうわついた返事が居間の方から聞こえてくる。
(あ、そっちじゃったか)
最初にそちらの部屋に通したのだから、風呂上がりのくるみがそこで待っていても不思議ではない。
寝室と違って居間にはテレビもあるし、考えてみれば寝室で待つのは「いかにも今から致す気満々です!」と構えているようで、実篤自身でもハードルが高いように思えた。
そんなことを思いつつ、実篤が応接室兼居間の襖を開けたら――。
「しゃねあちゅしゃん、遅ぉーい! うち、待ちくらびれましたけぇ~」
部屋の中からまろび出るようによろめきながら出てきたくるみに、何の前触れもなく真っ正面からギューッ!とハグされてびっくりしてしまう。
「くっ、くるみちゃん?」
(ちょっ、待っ。え⁉︎ ――酒っ?)
見れば、寝室に移動する前に居間のテーブルに載せておいたビールが二缶、開封されて机上に転がっている。
なのにつまみ――ポテトチップス――の袋を開封した様子はなくて。
(くるみちゃん! 空きっ腹に酒入れたんかぁー!)
思わず心の中で叫んで天井を仰いだ実篤だ。
「いっ、今のままでお願いします!!」
実篤は、くるみの言葉を遮るように思わず力説してしまっていた。
「えっ?」
あまりに前のめりになってしまったからだろうか。
くるみが外から驚いた声を出したのが聞こえて、内心(やっちまった!)と思った実篤だ。
だが、済んだこと。ジタバタするだけ無駄だと開き直ることにした。
「お、俺っ、くるみちゃんが俺の服着てくれちょるん、すげぇ良いって思うたんよ。だから、そのままでおってもらえたら滅茶苦茶嬉しいです」
嘘偽らざる本音を述べて、くるみに「わかりました」と納得してもらった。
***
結局くるみの予期せぬ来襲で息子はすっかりシュン、と元気をなくしてしまい、実篤は身体中をしっかり清めるだけで風呂場を後にする運びとなった。
上がる時、忘れず湯張りボタンを押して事後に備えるのを忘れなかったのは我ながらグダグダな中で頑張れた方だと思う。
身体中をクンクン嗅いで綺麗になったかどうかを確認しながら、「大丈夫、俺は本番に強い男じゃ! ちゃんとやれる!」とペチペチ頬を叩いてから、ふと思いついて歯磨きも済ませて部屋に戻る。
――と、くるみは寝室には居なくて「おや?」と思った実篤だ。
(まさか怖ーなって帰ったとか?)
などと考えてから、いや、くるみちゃんの車、俺の職場じゃんと思い直す。
「くるみちゃーん? おーい。どこにおるん?」
ソワソワしながら呼ばわったら「ひゃーい」とどこかほわほわとうわついた返事が居間の方から聞こえてくる。
(あ、そっちじゃったか)
最初にそちらの部屋に通したのだから、風呂上がりのくるみがそこで待っていても不思議ではない。
寝室と違って居間にはテレビもあるし、考えてみれば寝室で待つのは「いかにも今から致す気満々です!」と構えているようで、実篤自身でもハードルが高いように思えた。
そんなことを思いつつ、実篤が応接室兼居間の襖を開けたら――。
「しゃねあちゅしゃん、遅ぉーい! うち、待ちくらびれましたけぇ~」
部屋の中からまろび出るようによろめきながら出てきたくるみに、何の前触れもなく真っ正面からギューッ!とハグされてびっくりしてしまう。
「くっ、くるみちゃん?」
(ちょっ、待っ。え⁉︎ ――酒っ?)
見れば、寝室に移動する前に居間のテーブルに載せておいたビールが二缶、開封されて机上に転がっている。
なのにつまみ――ポテトチップス――の袋を開封した様子はなくて。
(くるみちゃん! 空きっ腹に酒入れたんかぁー!)
思わず心の中で叫んで天井を仰いだ実篤だ。
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