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6-4.焼けぼっくいに火はつくか?
くるみの婚約者
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***
『1301』と書かれた透明な細長い四角柱のアクリルキーホールダーにくっついたルームキーを片手に、実篤はエレベーターを目指した。
(うわ、俺バカなん? 何かつい勢いで部屋とか取ってしもぉーたんじゃけどっ)
顔には努めて出さないようにしているつもりだけど、内心心臓バクバクだった。
さっき、雰囲気に飲まれてついフロントマンに声をかけてしまった実篤だったけれど。
『ここのバーでは〝モクテル〟とか飲めますか?』と覚えたての単語を織り交ぜて聞くつもりが、寸前で妙に恥ずかしくなって。つい『部屋とか空いてたりしますか』とか予定外のことを口走ってしまった。
いくら田舎のホテルとはいえ、市内で一番高級感あふれる新しいホテルだ。
しかも年末のこの時期。
さすがに素泊まりなんて断られるじゃろ、と思っていたのに。
(まさか『はい、ございますよ。どのようなお部屋のタイプが宜しいですか?』と聞かれるとは誰も思わんじゃろ⁉︎)
動揺のせいで操作盤の「十三」の行先ボタンを押す手が、思わずフルフルと震えてしまった実篤だ。
(しかも何で俺、ツインルームとか選んで二人分の宿泊料金払うちょるん⁉︎ 下心ありありじゃろ)
この際もう鏡花にはタクシー代をやって、とか思っていたりする時点でそうなのだから仕方がない。
(あ。ほら、あれよ。俺がインフルになったせいでクリスマスまともに出来んかったし? そ、その埋め合わせっちゅーことで)
いくら何でも急きょすぎるじゃろ!と自分で突っ込みつつ階数表示と睨めっこをしていたら、八階のところで一旦箱が停止して、ドアが開いた。
(あ、八階っちゅうたらくるみちゃん達の……)
ふとそんな事を思いながらも、無意識。『開』のボタンを押した実篤の目に。
「……くるみ、ちゃん?」
見慣れないスーツ姿の男に肩を抱かれて、くるみが乗り込んで来た。
実篤が、くるみの肩を抱いている男を一瞥すると、男はビクッとしてくるみから少し離れて。
「実篤さっ……」
くるみが実篤の姿を認めるなり泣きそうな顔をするから。
実篤は思わず男を押し退けるようにしてくるみを腕に抱き寄せた。
「どぉしたん? 具合悪うなったん?」
優しく問い掛ける実篤に、まるでくるみが答えるのを邪魔したいみたいに「あのっ、失礼ですが貴方は……」と、男が割り込んできて。
その、どこかバツが悪そうな雰囲気に、実篤は思わず条件反射。眼前の男を睨みつけていた。
強面顔の実篤に、怒気を滲ませた視線を向けられた男が、雰囲気に気圧されたみたいにエレベーターの外に後ずさる。
そこで折り悪しく扉が閉まりそうになったから、片手でグッと閉じないように押さえてから。
実篤は腕の中にくるみをしっかりと抱きしめたまま男をじっと見据えた。
「俺はくるみの婚約者の栗野実篤と言います。――今日は彼女、うちの妹と一緒に来ちょったはずなんですけど……何で妹じゃなくて貴方がくるみと?」
そもそも実篤が乗っていたのは上に向かうエレベーターだ。
九階より上は客室しかないのは、エレベーター内の階数表示下に書かれていて知っている。
絶対くるみに良からぬ事をしようとしていたに違いないと思った実篤は、思わず無意識。
くるみの〝婚約者〟だとハッタリをかましてしまった。
『1301』と書かれた透明な細長い四角柱のアクリルキーホールダーにくっついたルームキーを片手に、実篤はエレベーターを目指した。
(うわ、俺バカなん? 何かつい勢いで部屋とか取ってしもぉーたんじゃけどっ)
顔には努めて出さないようにしているつもりだけど、内心心臓バクバクだった。
さっき、雰囲気に飲まれてついフロントマンに声をかけてしまった実篤だったけれど。
『ここのバーでは〝モクテル〟とか飲めますか?』と覚えたての単語を織り交ぜて聞くつもりが、寸前で妙に恥ずかしくなって。つい『部屋とか空いてたりしますか』とか予定外のことを口走ってしまった。
いくら田舎のホテルとはいえ、市内で一番高級感あふれる新しいホテルだ。
しかも年末のこの時期。
さすがに素泊まりなんて断られるじゃろ、と思っていたのに。
(まさか『はい、ございますよ。どのようなお部屋のタイプが宜しいですか?』と聞かれるとは誰も思わんじゃろ⁉︎)
動揺のせいで操作盤の「十三」の行先ボタンを押す手が、思わずフルフルと震えてしまった実篤だ。
(しかも何で俺、ツインルームとか選んで二人分の宿泊料金払うちょるん⁉︎ 下心ありありじゃろ)
この際もう鏡花にはタクシー代をやって、とか思っていたりする時点でそうなのだから仕方がない。
(あ。ほら、あれよ。俺がインフルになったせいでクリスマスまともに出来んかったし? そ、その埋め合わせっちゅーことで)
いくら何でも急きょすぎるじゃろ!と自分で突っ込みつつ階数表示と睨めっこをしていたら、八階のところで一旦箱が停止して、ドアが開いた。
(あ、八階っちゅうたらくるみちゃん達の……)
ふとそんな事を思いながらも、無意識。『開』のボタンを押した実篤の目に。
「……くるみ、ちゃん?」
見慣れないスーツ姿の男に肩を抱かれて、くるみが乗り込んで来た。
実篤が、くるみの肩を抱いている男を一瞥すると、男はビクッとしてくるみから少し離れて。
「実篤さっ……」
くるみが実篤の姿を認めるなり泣きそうな顔をするから。
実篤は思わず男を押し退けるようにしてくるみを腕に抱き寄せた。
「どぉしたん? 具合悪うなったん?」
優しく問い掛ける実篤に、まるでくるみが答えるのを邪魔したいみたいに「あのっ、失礼ですが貴方は……」と、男が割り込んできて。
その、どこかバツが悪そうな雰囲気に、実篤は思わず条件反射。眼前の男を睨みつけていた。
強面顔の実篤に、怒気を滲ませた視線を向けられた男が、雰囲気に気圧されたみたいにエレベーターの外に後ずさる。
そこで折り悪しく扉が閉まりそうになったから、片手でグッと閉じないように押さえてから。
実篤は腕の中にくるみをしっかりと抱きしめたまま男をじっと見据えた。
「俺はくるみの婚約者の栗野実篤と言います。――今日は彼女、うちの妹と一緒に来ちょったはずなんですけど……何で妹じゃなくて貴方がくるみと?」
そもそも実篤が乗っていたのは上に向かうエレベーターだ。
九階より上は客室しかないのは、エレベーター内の階数表示下に書かれていて知っている。
絶対くるみに良からぬ事をしようとしていたに違いないと思った実篤は、思わず無意識。
くるみの〝婚約者〟だとハッタリをかましてしまった。
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