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01.春川萌々/written by 鷹槻れん

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「泣けねぇなら泣かせてやろうか。俺が」

 意地悪く笑われて、私は初めてお母さんを呼びながら大泣きした。
 そんな私の横、隆ちゃんは何も言わずにずっとそばにいてくれて――。
 別に抱きしめてくれたとか慰めてくれたとかそういう気の利いた行動があったわけではないのだけれど、誰かのそばで泣いてもいいんだって思える事が、その時の私にはすごくすごく有難かった。

 思えば、あの時からずっと、私は隆ちゃんのことが好きなんだと思う。
 意地悪で口は悪いけれど、どこか憎めない人。

 いつの間にか、どんなに邪険にされても全て隆ちゃんの優しさなんじゃないかと変なフィルターが掛かってしまうほどに、私は彼を慕うようになっていた。

 子供の頃の刷り込みってホント怖いっ!

***

 お母さんが生きている時からだったけれど、ほわんとして頼りないお父さんのことが、私は心配で心配でたまらなくて。
 気がついたら、そんなお父さんを支えるために、私、年の割にかなりしっかりした女の子に成長していた。

 勉強だって家事だって、お父さんに心配をかけたくないからって理由だけで、卒なくこなせるように物凄く努力した。そうしているうちに段々コツが掴めてきて、いつの間にか本当にそんなに労せずしてあれこれこなせる優等生になってしまいました。

 だからね、お父さんが新しいお母さん――さくのママと再婚したいって言い出したとき、私、少しホッとしたのと同時に、寂しくも感じて。
 コレで私、お父さんの心配しなくてよくなるのかな? でもそうなると私の居場所ってどうなるんだろう?みたいな。
 相反する思いの中で、それでも父親に心配を掛けないように振る舞うことにかけては筋金入りにうまくなっていたから。
 多分、お父さんからは当時の私、手放しにホッとしているように見えていたんじゃないかしら。

 お母さんができる、わーい!って。

 実際は違ったんだけど……でもそう見えるように演じたのは私。
 それでお父さんが安心して再婚できるならそれが一番だと思っていたから。

 なのに。
 さくのママは弟を産んで半年ぐらいで、新しい男の人と出て行っちゃった。

 私が中学に上がるちょっと前のお話。

 お父さんは茫然自失だし、でも……お母さんがいなくなってしまった時みたいに落ち込まなかったのは、多分それが“死別”ではなかったからなんだろうな。
 お父さんってある意味バカが付くほどのお人好しだから……。捨てられた身のくせに、彼女が幸せならそれでいいんだ、とか言い出す始末。
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