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20.起きないと襲いますよ?

嬉しい誤算

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 大丈夫。
 キミがそう言うだろうと見越して、ちゃんと冷蔵庫のストックの中には、そのチーズも確保してありますからね。

 バーを営む友人からの勧めだと、今回のチーズ〝イエトスト〟はどこかキャラメルを彷彿ほうふつとさせられる味で、コーヒーに合うらしい。
 酒を飲ませて何ぼの商売だろうに、そういうのを勧めてくれるのが何だか意外で。
 けど……まぁ、それもあいつらしいか。

 今度また、キミがぶぅっと頬を膨らませた時にでも、ティータイムのご機嫌伺いとして出そうかな?


 そんなことを思いながら、僕は春凪はなの唇にそっと触れるだけの軽いキスを落とした。


 すぐにでも春凪はなと一緒に眠りたいところだけど、リビングの片付けをして、風呂にも入らないと。


 スーツ姿のまま飲んでいたことを、今日ほど悔やんだことはない――。



***



「えっ!? なに……。待って。うそ……、え?」

 翌日早朝――。

 僕の腕の中で可愛らしい悲鳴と、戸惑いに揺れる声が交錯して、抱きしめたままの小柄な身体がキューッと小さく縮こまったのが分かった。

 恐る恐る身じろいで、間近にいる僕の様子をうかがっているのが、目を開けなくても面白いぐらい伝わってくる。

 僕はそんな彼女を腕に抱き締めたまま、寝たふりを決め込んだ。



***



 そのままの状態で、僕は昨夜のことに思いを馳せる――。


 風呂上がりの身体に部屋着を身に付けた僕は、リビングの片付けを済ませた後、すっかり寝入っている春凪はなのすぐ横にそっと身体を滑り込ませた。

 風邪をひかせないようにという配慮のつもりで掛けた肌掛け布団が良くなかったのか。

 春凪はなは布団の中で薄らと寝汗をかいていた。

 額に張り付く前髪をそっと払いのけると、春凪はなが「んっ」と小さく喘いで寝返りを打つ。

 その声の色っぽさに不意打ちをくらって、僕は柄にもなくドキッとさせられて。

 そのまま春凪はなのすぐそばに寄り添って息を殺していたら、冷たいところを探すみたいに、湯冷めしてスッカリ冷えてしまった僕の身体に春凪はながモソモソと手を伸ばしてきた。
 僕は、そんな春凪はなをこれ幸いと腕の中にしっかりと閉じ込める。

 当初の予定では、こちらに背中を向けて眠っている春凪はなを、背後から包み込むように抱き締めて眠るつもりだった。
 なのに、まさか春凪はなの方から向きを変えて僕に抱きついてきてくれるだなんて。――何て嬉しい誤算だろう。
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