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20.起きないと襲いますよ?

キミに関してはしくじってばかり

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 添い寝が出来ても、彼女の後頭部くらいしか眺められないかな、とか思っていた薄暗がりの中。
 ベッドサイドに灯した間接照明が照らす仄暗ほのぐらさに慣れてきた目が、腕の中の春凪はなの寝顔をはっきりと映し出した。

 くっきりとした二重まぶたに、長くて密度の濃いまつ毛。
 今は閉じられていて見えないけれど、春凪はなが目を開けると、そこにほんのちょっぴりブラウンがかった黒目がちの瞳が、ウルルンと収まっていることを、僕は知っている。

「……ホント可愛いな」

 思わずうっとりと吐息を漏らすように本音を声に出してしまって、本人に聞かれやしなかったかとした僕だったけれど、幸い春凪はなはまだ夢の中にいるみたいでホッと胸を撫で下ろす。

 これ幸いと、春凪はなの幸せそうな寝顔をじっと見つめ続けていたら、抑えきれない愛しさがふつふつと込み上げてきた。

 僕は腕の中の春凪はなを起こさないよう細心の注意を払いながら、彼女の額にそっと口付けを落とす。
 さっき、額に張り付いた春凪はなの髪をかき上げておいたのは正解だった。

 唇を春凪はなの額に軽く押し当てたままそっと息を吸い込んだら、シャンプーの香りに混ざって春凪はな自身の甘い香りが僕を包み込む。

 一緒に住んではいるけれど、まだ恋人としても婚約者としてもぎこちない僕達だ。
 春凪はなを縛る「結婚」の2文字は、きっと彼女の中では「契約」とか「政略」といった文言と、切っても切り離せないんだろう。

 春凪はなの言動の端々にそういう線引きを感じさせられて切ないのだ、と正直に話したら、春凪はなは驚くかな? それとも「バカなこと言わないで下さい」って僕を睨みつけてくるだろうか?

 最初はその制約のお陰で上手く春凪はなを手中に絡め取ったつもりでいた僕だったけれど、この頃は普通に彼女を口説かなかったことを悔やみたくなる時がある。

 今更後悔しても仕方ないのは分かっているけれど、もう少しやりようがあったんじゃないかとか思ったりして。

 春凪はなは僕のことを相当な策士だと評しているようだけど、実際の僕は結構なところ、春凪はなに関してはしくじってばかりなんだよ。

 こんなに春凪はなのことが愛しくて堪らないくせに、自分から好きだなんて言える気は全くしないし。
 きっとね、駆け引きなんて度外視して素直に「好きだ」と言える男の方が、色恋沙汰においては強いと思うんだ。
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