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30.夫婦茶碗的な

甘さは控えめで

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 宗親むねちかさんにベッドに押し込められながら問いかけたら

「もちろんすごく困ります。――ですが、春凪はながいま動けないのは僕のせいですからね」

 そっといたわわるように頬のラインを撫でてくれた宗親むねちかさんの指先に、さっきまでの情事をふと思い出して、恥ずかしさに思わずギュッと目をつぶったら唇に柔らかなものが押し当てられた。

 えっ?って思って慌てて目を開けたら

「まずいなぁ。僕も仕事に行くのが嫌になってしまう」

 吐息混じりにつぶやいて、宗親むねちかさんの顔が眼前から離れていくところで。

(もしかして、いま、キスされたの!?)

 まるで甘々の新婚さんみたいなことをされた私は、真っ赤になって布団を被って丸まった。

(む、宗親むねちかさんっ、一体何を考えていらっしゃるのっ!?)

 本当に愛されていると錯覚してしまいそうだから、出来れば甘さは控えめでお願いします……!



***



「朝食、食べられそうですか?」

 あの後、お言葉に甘えてラフな格好に着替えてベッドの中でうつらうつら惰眠だみんをむさぼっていたら、宗親むねちかさんにそう問いかけられて。
 潜り込むように被っていた布団を少しめくり上げられた。


「朝、ご飯……?」

 寝ぼけた頭でぼんやりつぶやいた途端、グゥ~ッとお腹が鳴って、私は一気に覚醒する。

「しっかり食べられそうですね」

 クスッと宗親むねちかさんに笑われたのが恥ずかしくて、もう一度布団を引っ張ろうとしたら、彼はそれを許してくださらなくて。

「ひゃわっ」

 布団をバサリと取り払われて寒さに縮こまったと同時、宗親むねちかさんにいきなり抱き上げられた私は、驚いて変な声を出してしまう。



「いくら何でも布団の中で食べるわけにはいかないでしょう?」

 さすがにそこまでは甘やかしませんよ?と言わんばかりの冷ややかな表情の宗親むねちかさんに間近で見下ろされて。
 恥ずかしくなった私が「じっ、自分で歩けますっ」って眉根を寄せたら「お風呂場までも歩けなかったのに?」って意地悪く微笑まれた。

 うー。宗親むねちかさんの意地悪ぅー!!
 確かにさっきはそうでしたけど、アレはあんなことやこんなことの直後だったからであって、今は大分回復してるはずですっ!

 そう言いたかったのに、不意に宗親むねちかさんが身に纏うマリン系のコロンの香りがフワッと鼻腔をくすぐって。途端、そのままギュッと彼にしがみついていたいような気持ちになってしまった。

 宗親むねちかさんはもう作業服に着替えていらっしゃるし、もうじき家を出て、私、一人ぼっちにされちゃうんだ。

 そう思ったら離れたくないって思ってしまって。宗親むねちかさんに縋りついた手に自然力がこもる。
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