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1章:歓迎会の夜はご用心
bar Misoka
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「私、ビール頼みますけど課長はどうします?」
そんな晴永の脳内会議なんてどこ吹く風。瑠璃香が問い掛けてきて、晴永が口を開くより先――。何故か日下が「小笹ぁ、悪いんだけど俺にもビールもう一杯頼んでちょ♪」と、同期の気安さを前面に押し出しながら割り込んでくる。
「はいはい、分かりました! ――で、課長はどうします?」
「お、俺もビールで」
再度聞いてきてくれた瑠璃香にそう答えながら、(お前もビール頼むって……ちょっと飲むペースが早過ぎじゃねぇか? 小笹)と思った晴永だ。けれど、これ以上うるさい上司だと思われるとマイナスポイントになりそうなので、黙っておく。それじゃなくても同期の日下とでは瑠璃香との距離に違いがあり過ぎるのだ。これ以上差をつけられたくない。
***
店内のにぎやかな空気が、少しずつ「次どうする?」のモードへ移りつつあった。
鍋の火はすでに落とされ、空になった皿が積み上がる。
瀬戸部長が立ち上がり、どっかり腰に手を当てた。
「とりあえず会社主催の歓迎会は終わりだ。各自忘れ物のないように速やかに撤収!」
幹事である晴永たちは会計などを済ませなければならないが、他の面々は各々「二次会どうする?」という流れになっていた。
新人たちが「どうする? 帰っても大丈夫かな?」「でも……先輩たちが二次会行くって話してるのに俺たちだけ抜けるとかあり?」と話しているのを小耳に挟んだ晴永は、彼らが帰りやすいように皆へ声をかける。
「帰りたい奴は自由に帰れー。俺も今日は帰る」
実際は小笹や木嶋、それから日下(!)の同期組がどう動くのか気になっている晴永だったが、なんとなくの流れでそう言わざるを得なくなってしまった。
これで小笹が日下とともに二次会へ参加するとなったら、気になって仕方がないではないか。
なにしろ小笹は酒を飲むのが嫌いじゃない。行かないと答えることはない気がした。
(バカなのか、俺は!)
だが、晴永の言葉にパァッと明るい顔で「じゃあ、俺たちこれで帰ります」とホッとした様子になる新人たちを見て、これも上司としての勤めだと、懸命に自分を宥める。
会計を終えて外へ出てみるとまだみんな店の外にたむろしていた。晴永たち幹事が出てくるのを一応に待ってくれていたらしい。
「よーしみんな揃ったな? 二次会行くやつらはこっちに集まれー。行かないやつはここでお別れだー」
瀬戸部長の声に、「お疲れ様でしたぁー!」と手を振って夜の街へ消えていく者、「行きまーす!」と手を挙げて部長のそばへ寄って行く者。バラバラと人の波がばらけ始める。
晴永はキョロキョロと辺りを見回して瑠璃香を探した。
(いた!)
視線の先、一際背の高い男――日下が目印になって、同期三人で固まっているなかに瑠璃香の姿を見つけた晴永である。
「二次会どうする?」
木嶋がチラチラと日下を気にしながら問えば、
「俺はもうちょっと飲みてぇーかな? もちろん小笹もあんぐれーじゃ全然飲み足んねえだろ?」
日下が、まるで瑠璃香が来ることは必然とでも言いたげな口調で瑠璃香へ問いかけている。
瑠璃香が酒好きなことは晴永だって知っていることだ。同期の日下が知らないはずがなかった。
「日下もああ言ってるし、瑠璃香も来るよね?」
彼女がこなければ日下も帰ると言い始めるかもしれない。そう思ったんだろう。木嶋が縋るような目で瑠璃香を見つめた。
(クソッ。これ、絶対行きます! って流れじゃねぇか)
新人たちがサッサと引き上げてくれていれば、しれっと前言撤回で二次会に混ざろうかと思ったりした晴永だが、どうやら新人たちは晴永が帰るまでは自分達も帰れないと思っているみたいだ。
「課長、タクシー捕まえましょうか」
なんて甲斐甲斐しくそんなことを聞いてくる。
(ああ、俺強制退場の流れじゃねぇか)
そう思いつつ、「いや、俺のことは気にせず帰っていいぞ」と言ってみたのだが――。
「このぐらいやらせてください!」
やけに田貫が張り切っていて、断りづらい。
「あ、ああ、だったら頼む……」
言いながら、心の中で『小笹ぁぁぁ、頼むからお前も行くなぁぁぁ』と未練たらしく叫んでいたりする。
と――。
「……ごめん。今日は私、帰ろっかなって思ってて」
申し訳なさげに同期らへ頭を下げるその声は、あんなに飲んだはずなのに全然酔っている気配はなくて……それより少しだけ疲れているように聞こえた。
(そういやぁ小笹、いつも会社の飲みで乱れてんの、見たことねぇな?)
ザル、なのかもしれない。毎回酔い潰れやしないかと心配になる晴永なのだが、実際瑠璃香がそうなったところを見たことがないことに気がついた。
だからこそ、今まで自分にも瑠璃香を介抱するチャンスが巡って来なかったわけだが――。
(って、重要なのはそこじゃなく!)
今、確かに瑠璃香は〝帰る〟と言わなかっただろうか?
晴永の胸が、わずかにざわめく。
「えー、小笹、帰んの? じゃあ俺、駅まで送るよ」
そんな瑠璃香へ、二次会に行く気満々だったくせに、日下が当然のようにそんなことを言い出す。
(いや、お前は二次会へ行け! 男がコロコロ意見を変えるな!)
さっき、あわよくば自分も意見を翻して〝参加〟にしようと思っていたくせに、晴永はしっかりきっちり自分のことは棚上げして、そんなことを思う。
だがそんな日下の申し出に、瑠璃香はやんわり笑って首を振った。
「日下はまだ飲み足りないんでしょう? 悦子と参加してきなよ。ねー、悦子。一人は嫌だよね?」
その一言で、悦子の肩がピクリと跳ねる。
日下は一瞬ぽかんとしたが、すぐに悦子へ視線を向けた。
「あー……木嶋、一人で参加すんの、寂しい?」
「……う、うん! 寂しい! ――だっていつも三人で参加してたでしょう?」
ぎこちない返事だが、目には切実な願いが込められていた。
「あー、もう、仕方ないなぁ」
「やったぁ!」
ギュッと自分の腕を掴んできた木嶋に引っ張られながら、日下が
「小笹ぁ、タクシー呼んでやるからそれ乗って帰れよ?」
と携帯を手に叫ぶ。
瑠璃香はその様子を見て、「そんなの気にしなくていいから前向いて歩けー!」と満足げに微笑んだ。
遠ざかっていく同期二人を見やりながら、「悦子、ファイト!」とつぶやく瑠璃香を見て、晴永はホワリと胸が温かくなる。
出来れば自分も木嶋の恋には全力で助け舟を出したいくらいなのだ。
(ま、俺のは小笹みたいに純粋な気持ちからじゃねぇが……)
「課長、タクシー来ましたよー!?」
田貫に呼ばれて、晴永が振り返ると、「あ、あれ? なんでだろ。二台来た。田貫、二台も呼んだ?」と保城の戸惑った声がする。
「いや、一台だけだけど……」
田貫の声に、周りを見回してみても他にタクシーを呼んだと思しき社員の気配はない。
向こうのほうで日下が「一台は俺が小笹のために呼んだやつー!」と叫ぶ声がして、瑠璃香が真っ赤な顔になる。
(おい、日下。小笹は目立つのが嫌いなんだぞ?)
そう思ったけれど、酔っ払いには通じそうにない。
「小笹ぁー、気ぃ付けて帰れよぉー!」
ブンブン手を振る背の高い男から隠れたいみたいに、瑠璃香が逃げるようにタクシーへ乗り込んだ。
走り去る瑠璃香のタクシーのテールランプを見やりながら、晴永も新人たちが呼んでくれたタクシーへ乗り込んだ。
行き先は――。
***
タクシーのドアが静かに閉まり、短く「ありがとうございました」の声が夜風に流れた。
晴永がタクシーを降りたのは間口の小さな小ぢんまりとしたバーの前。
――バー『Misoka』まで。
タクシーへ乗り込むなり、自宅ではなくそこを目的地へ指定した晴永の胸の奥にいは、小さなざわめきがくすぶっていた。
今日の飲み会は瑠璃香が気になって全然飲んだ気になれなかった。
かといって、瑠璃香が参加しない二次会に行くのも何かが違うと思ったし、そもそも新人たちを気兼ねなく帰らせるためとはいえ、不参加表明をしてしまった。
ならば、行きつけのバーに一人で飲みに行くしかないではないか。
どの道、今日は金曜日。
明日、明後日と会社は休みだ。少々羽目を外して飲んだからといって、問題はないだろう。
(ここ、落ち着くんだよな)
ふと見上げると、ただの丸い白地に手書きみたいに味のある太字の筆記体で『Bar Misoka』と書かれた、控えめな突き出し看板が見えた。中にはLEDライトが入っているうらしく、夜に見るとまるで朧月みたいにぼんやりと宙空に浮いて見える。
この辺りはちょうど街灯の切れ目で暗いのも相まって、小さな看板なのにまるで誘蛾灯のように人々を引き付ける。
厚みのある重い扉を押すと、小さな〝カラン……♪〟というベルの音が夜に溶けた。
店内はいつもと変わらない。
薄暗く、すべてのものが琥珀色の光を纏っている。
グラスの底を揺らす氷の音、聴こえるか聴こえないかのクラシック。
客の話し声は小さく抑えられ、静かな夜の底のような雰囲気だった。
バーカウンターに立つ店長、バーテンダーの――通称〝マスター〟と軽く目が合う。
マスターは、わずかに視線を動かして「お好きな席へどうぞ」とでも言いたげに晴永へ会釈した。
割と常連だ。晴永も心得たもので、座れそうな席を求めて店内をぐるりと見渡した。
いつも通り……のはずだった。
だが、視線が自然とカウンターの一席へと吸い寄せられる。
そんな晴永の脳内会議なんてどこ吹く風。瑠璃香が問い掛けてきて、晴永が口を開くより先――。何故か日下が「小笹ぁ、悪いんだけど俺にもビールもう一杯頼んでちょ♪」と、同期の気安さを前面に押し出しながら割り込んでくる。
「はいはい、分かりました! ――で、課長はどうします?」
「お、俺もビールで」
再度聞いてきてくれた瑠璃香にそう答えながら、(お前もビール頼むって……ちょっと飲むペースが早過ぎじゃねぇか? 小笹)と思った晴永だ。けれど、これ以上うるさい上司だと思われるとマイナスポイントになりそうなので、黙っておく。それじゃなくても同期の日下とでは瑠璃香との距離に違いがあり過ぎるのだ。これ以上差をつけられたくない。
***
店内のにぎやかな空気が、少しずつ「次どうする?」のモードへ移りつつあった。
鍋の火はすでに落とされ、空になった皿が積み上がる。
瀬戸部長が立ち上がり、どっかり腰に手を当てた。
「とりあえず会社主催の歓迎会は終わりだ。各自忘れ物のないように速やかに撤収!」
幹事である晴永たちは会計などを済ませなければならないが、他の面々は各々「二次会どうする?」という流れになっていた。
新人たちが「どうする? 帰っても大丈夫かな?」「でも……先輩たちが二次会行くって話してるのに俺たちだけ抜けるとかあり?」と話しているのを小耳に挟んだ晴永は、彼らが帰りやすいように皆へ声をかける。
「帰りたい奴は自由に帰れー。俺も今日は帰る」
実際は小笹や木嶋、それから日下(!)の同期組がどう動くのか気になっている晴永だったが、なんとなくの流れでそう言わざるを得なくなってしまった。
これで小笹が日下とともに二次会へ参加するとなったら、気になって仕方がないではないか。
なにしろ小笹は酒を飲むのが嫌いじゃない。行かないと答えることはない気がした。
(バカなのか、俺は!)
だが、晴永の言葉にパァッと明るい顔で「じゃあ、俺たちこれで帰ります」とホッとした様子になる新人たちを見て、これも上司としての勤めだと、懸命に自分を宥める。
会計を終えて外へ出てみるとまだみんな店の外にたむろしていた。晴永たち幹事が出てくるのを一応に待ってくれていたらしい。
「よーしみんな揃ったな? 二次会行くやつらはこっちに集まれー。行かないやつはここでお別れだー」
瀬戸部長の声に、「お疲れ様でしたぁー!」と手を振って夜の街へ消えていく者、「行きまーす!」と手を挙げて部長のそばへ寄って行く者。バラバラと人の波がばらけ始める。
晴永はキョロキョロと辺りを見回して瑠璃香を探した。
(いた!)
視線の先、一際背の高い男――日下が目印になって、同期三人で固まっているなかに瑠璃香の姿を見つけた晴永である。
「二次会どうする?」
木嶋がチラチラと日下を気にしながら問えば、
「俺はもうちょっと飲みてぇーかな? もちろん小笹もあんぐれーじゃ全然飲み足んねえだろ?」
日下が、まるで瑠璃香が来ることは必然とでも言いたげな口調で瑠璃香へ問いかけている。
瑠璃香が酒好きなことは晴永だって知っていることだ。同期の日下が知らないはずがなかった。
「日下もああ言ってるし、瑠璃香も来るよね?」
彼女がこなければ日下も帰ると言い始めるかもしれない。そう思ったんだろう。木嶋が縋るような目で瑠璃香を見つめた。
(クソッ。これ、絶対行きます! って流れじゃねぇか)
新人たちがサッサと引き上げてくれていれば、しれっと前言撤回で二次会に混ざろうかと思ったりした晴永だが、どうやら新人たちは晴永が帰るまでは自分達も帰れないと思っているみたいだ。
「課長、タクシー捕まえましょうか」
なんて甲斐甲斐しくそんなことを聞いてくる。
(ああ、俺強制退場の流れじゃねぇか)
そう思いつつ、「いや、俺のことは気にせず帰っていいぞ」と言ってみたのだが――。
「このぐらいやらせてください!」
やけに田貫が張り切っていて、断りづらい。
「あ、ああ、だったら頼む……」
言いながら、心の中で『小笹ぁぁぁ、頼むからお前も行くなぁぁぁ』と未練たらしく叫んでいたりする。
と――。
「……ごめん。今日は私、帰ろっかなって思ってて」
申し訳なさげに同期らへ頭を下げるその声は、あんなに飲んだはずなのに全然酔っている気配はなくて……それより少しだけ疲れているように聞こえた。
(そういやぁ小笹、いつも会社の飲みで乱れてんの、見たことねぇな?)
ザル、なのかもしれない。毎回酔い潰れやしないかと心配になる晴永なのだが、実際瑠璃香がそうなったところを見たことがないことに気がついた。
だからこそ、今まで自分にも瑠璃香を介抱するチャンスが巡って来なかったわけだが――。
(って、重要なのはそこじゃなく!)
今、確かに瑠璃香は〝帰る〟と言わなかっただろうか?
晴永の胸が、わずかにざわめく。
「えー、小笹、帰んの? じゃあ俺、駅まで送るよ」
そんな瑠璃香へ、二次会に行く気満々だったくせに、日下が当然のようにそんなことを言い出す。
(いや、お前は二次会へ行け! 男がコロコロ意見を変えるな!)
さっき、あわよくば自分も意見を翻して〝参加〟にしようと思っていたくせに、晴永はしっかりきっちり自分のことは棚上げして、そんなことを思う。
だがそんな日下の申し出に、瑠璃香はやんわり笑って首を振った。
「日下はまだ飲み足りないんでしょう? 悦子と参加してきなよ。ねー、悦子。一人は嫌だよね?」
その一言で、悦子の肩がピクリと跳ねる。
日下は一瞬ぽかんとしたが、すぐに悦子へ視線を向けた。
「あー……木嶋、一人で参加すんの、寂しい?」
「……う、うん! 寂しい! ――だっていつも三人で参加してたでしょう?」
ぎこちない返事だが、目には切実な願いが込められていた。
「あー、もう、仕方ないなぁ」
「やったぁ!」
ギュッと自分の腕を掴んできた木嶋に引っ張られながら、日下が
「小笹ぁ、タクシー呼んでやるからそれ乗って帰れよ?」
と携帯を手に叫ぶ。
瑠璃香はその様子を見て、「そんなの気にしなくていいから前向いて歩けー!」と満足げに微笑んだ。
遠ざかっていく同期二人を見やりながら、「悦子、ファイト!」とつぶやく瑠璃香を見て、晴永はホワリと胸が温かくなる。
出来れば自分も木嶋の恋には全力で助け舟を出したいくらいなのだ。
(ま、俺のは小笹みたいに純粋な気持ちからじゃねぇが……)
「課長、タクシー来ましたよー!?」
田貫に呼ばれて、晴永が振り返ると、「あ、あれ? なんでだろ。二台来た。田貫、二台も呼んだ?」と保城の戸惑った声がする。
「いや、一台だけだけど……」
田貫の声に、周りを見回してみても他にタクシーを呼んだと思しき社員の気配はない。
向こうのほうで日下が「一台は俺が小笹のために呼んだやつー!」と叫ぶ声がして、瑠璃香が真っ赤な顔になる。
(おい、日下。小笹は目立つのが嫌いなんだぞ?)
そう思ったけれど、酔っ払いには通じそうにない。
「小笹ぁー、気ぃ付けて帰れよぉー!」
ブンブン手を振る背の高い男から隠れたいみたいに、瑠璃香が逃げるようにタクシーへ乗り込んだ。
走り去る瑠璃香のタクシーのテールランプを見やりながら、晴永も新人たちが呼んでくれたタクシーへ乗り込んだ。
行き先は――。
***
タクシーのドアが静かに閉まり、短く「ありがとうございました」の声が夜風に流れた。
晴永がタクシーを降りたのは間口の小さな小ぢんまりとしたバーの前。
――バー『Misoka』まで。
タクシーへ乗り込むなり、自宅ではなくそこを目的地へ指定した晴永の胸の奥にいは、小さなざわめきがくすぶっていた。
今日の飲み会は瑠璃香が気になって全然飲んだ気になれなかった。
かといって、瑠璃香が参加しない二次会に行くのも何かが違うと思ったし、そもそも新人たちを気兼ねなく帰らせるためとはいえ、不参加表明をしてしまった。
ならば、行きつけのバーに一人で飲みに行くしかないではないか。
どの道、今日は金曜日。
明日、明後日と会社は休みだ。少々羽目を外して飲んだからといって、問題はないだろう。
(ここ、落ち着くんだよな)
ふと見上げると、ただの丸い白地に手書きみたいに味のある太字の筆記体で『Bar Misoka』と書かれた、控えめな突き出し看板が見えた。中にはLEDライトが入っているうらしく、夜に見るとまるで朧月みたいにぼんやりと宙空に浮いて見える。
この辺りはちょうど街灯の切れ目で暗いのも相まって、小さな看板なのにまるで誘蛾灯のように人々を引き付ける。
厚みのある重い扉を押すと、小さな〝カラン……♪〟というベルの音が夜に溶けた。
店内はいつもと変わらない。
薄暗く、すべてのものが琥珀色の光を纏っている。
グラスの底を揺らす氷の音、聴こえるか聴こえないかのクラシック。
客の話し声は小さく抑えられ、静かな夜の底のような雰囲気だった。
バーカウンターに立つ店長、バーテンダーの――通称〝マスター〟と軽く目が合う。
マスターは、わずかに視線を動かして「お好きな席へどうぞ」とでも言いたげに晴永へ会釈した。
割と常連だ。晴永も心得たもので、座れそうな席を求めて店内をぐるりと見渡した。
いつも通り……のはずだった。
だが、視線が自然とカウンターの一席へと吸い寄せられる。
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