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1章:歓迎会の夜はご用心
ライバル?
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(マズイ……うえに丸のみ出来る大きさじゃねぇ!)
そう思いながらも、何となくやっぱりそれすら嬉しかったりするのだ。
(小笹、あとで手痛いしっぺ返しを食らっても文句は言わせないからな!?)
涙目で巨大椎茸を噛み砕きながら、そんな強がりを心の中で叫んでいる時点で、晴永はすでに瑠璃香に滅法甘い。……のだが、本人にその自覚はない。
「小笹先輩、こういうの、慣れてるんですか?」
新人のひとり――保城常雄が声を掛ける。
自己紹介の際、田貫のカドミくんグッズ自慢で他のメンバーの影が薄めになってしまったけれど、今年企画宣伝部に配属された新入社員は男性二名、女性一名の計三名だ。
瑠璃香の正面に田貫、彼の左隣に保城が座っている。
「慣れてるっていうか、やらないと気になるだけだよ。座ってると落ち着かないの」
保城の質問に照れたように笑う瑠璃香が、可愛い。その愛らしい横顔を見つめつつ、晴永もあわよくば新人らと交流を深めるという名目で瑠璃香と話がしたいのだが。
(椎茸が飲み込めん!)
噛んでも噛んでも飲み込んでいい大きさにならない。
(いっそビールで流し込むか……!?)
そう思いはするのだが、せっかくのビールが椎茸の香りで台無しになってしまうのが惜しくてなかなか決行出来ずにいる。
そうこうしているうちにも、会話はどんどん進んでいくのだ。
「先輩は家でも家事とかすごくテキパキこなしてそうなイメージです。憧れます!」
同じく新人の佐久真理子が話に入ってくると、周りの社員らも、ワイワイ話に入り始める。
「そうそう。瑠璃香ってばお昼もお弁当作ってきてること多いし、本当女子力高いのよ」
瑠璃香と同期の木嶋悦子が言えば、
「……女子力っていうか、節約してるだけだよ」
瑠璃香が、晴永が口に入れたのよりもっと大きい椎茸を美味しそうに頬張ってもぐもぐしながら謙遜する。
(何でそんな美味そうに食えるんだ! 俺はこんなにしんどいのに!)
やっと決意がついて、ビールの入ったグラスを手に持ったところで、フッと席が翳った。
(ん?)
怪訝に感じて見上げれば、でかい男が立っていた。
(日下仁人!)
男の勘。
絶対こいつも瑠璃香のことが好きに違いないと分かっているだけに、晴永としては超絶警戒している人物だ。
そうしておそらくは日下の方も晴永の気持ちに勘付いている。
その証拠。一度だけチラリと晴永を見下ろすと、さも何でもないことのように瑠璃香のすぐ隣――晴永と瑠璃香の間!――にビールジョッキを片手に割り込んできた。
「弁当といえばさー。俺、この前小笹の弁当から卵焼きもらって食ったじゃん?」
それだけならまだしも、あからさまに晴永にマウントを取る発言をぶっ込んでくる。
(日下ぁぁぁぁ!)
だからと言って、別に何か無礼を働かれたというわけではないから、晴永としては心の中で毒付くしかできないのが悔しいところだ。
席順を決める時、すぐ隣はちょっとあからさま過ぎるか? と気後れして、ひとつ席を空けてセッティングしてしまったことが仇になってしまった。
口の中の椎茸臭を、やっとの思いでビールと共に胃のなかへ流し込みつつ、晴永は心の中で一人ギリギリと歯噛みする。
日下も木嶋同様瑠璃香の同期だ。どうあったって、上司の自分より瑠璃香との距離が近い。
「あー、そういえば唐揚げと交換してくれとかやってたね」
ポンッと手を叩きながら木嶋が言えば、
「そうそう! 色も形も綺麗だったからさぁ、つい食いたくなっちまって」
グイッとビールジョッキを煽りながら日下がニヤリとする。そんな日下に木嶋が詰め寄った。
「で? どうだったの?」
「甘くて……すげぇ美味かった! 毎日でも食いたい卵焼きだったわ。小笹、最高!」
酔っ払っているのか、はたまた酒の力を借りてわざと酔ったふりをしているだけか。瑠璃香の頭をグシャリと掻き混ぜるように撫でる日下の大きな手に、晴永は思わず空になったグラスを倒した。
その音にすぐさま瑠璃香が気付いて手を出そうとしたのだが、間に日下がいて巧みに邪魔をする。
「もぉ、日下くん、邪魔っ。――新沼課長、飲み物とかこぼれてないですか?」
せっかく瑠璃香が気にしてくれたというのに、晴永が答えるより先、まるで瑠璃香との会話を邪魔したいみたいに日下が晴永の方を向いてにこやかに問いかける。
「飲み終えたあとだから大丈夫ですよね?」
(クソッ! 飲む前に倒せばよかった!)
などと心の中で毒づきながらも「ああ、大丈夫だ」と答えた晴永へ、日下が勝ち誇ったようにニヤリと笑った――ように見えた。
(絶対わざとだ!)
その表情に、そう確信した晴永である。
「日下は甘い卵焼きが好きなのね? よぉーし、今度私も甘い卵焼き作ってくるから何か美味しそうなおかずと交換してよ!」
大丈夫と答えたから、それ以上晴永の方へ気を配る必要はないと判断されたんだろう。
木嶋が先ほどの話を引き継ぐみたいに卵焼きの話題へ戻した。
その言葉を聞いた晴永は(もしかして木嶋、日下のことを……?)と思う。
思ったのだが……。
「えー、俺は小笹の卵焼きが食いたいんだってー」
鈍いのかわざとなのか。まるで木嶋からの好意に気付いていなさそうに日下が酷い返しをする。
その一瞬、木嶋が悲しそうな顔をしたのを晴永は見逃さなかった。
心の中で、思わず(頑張れ、木嶋!)と応援してしまったのは、〝ライバルを掻っ攫ってくれ〟という思惑からばかりではない。一生懸命秋波を送っているのに気付いてもらえない木嶋のことを、瑠璃香への〝好き〟が伝わらない自分と重ねてしまったのだ。
「だって木嶋、料理あんまり得意じゃねぇーじゃん」
「それでも日下のためにやってみようって言ってるのにー」
「やだよ。俺を実験台にするな」
「ひどーい! 人でなし!」
木嶋のゆるゆるパンチが日下の肩を打つ。ポンという音に〝♥〟の幻が見える。
存外強靭なメンタルで攻め続ける木嶋に感心していたら、
「私の卵焼きはもう日下にはあげないので悦子からもらってくださーい♪」
ふふふっと瑠璃香が笑う声がして、晴永は心の中で『よし!』とガッツポーズをした。
そうして思う。
(今の感じ。……もしかして小笹も木嶋の気持ちに気付いてるのか?)
と。
「ええーっ」
瑠璃香からの塩対応に、日下のわざとらしい抗議の声が上がったが、晴永のほうはそれどころではない。
(小笹! お前、自分への好意には滅茶苦茶鈍いくせに、なんで他人のにはそんなに敏感なんだ!)
もしかしたら木嶋から相談を受けているのかも知れないけれど、それにしたって少しは自分を取り巻く環境にも目を向けて欲しいと希わずにはいられない。
表向きは素知らぬ顔で器に取り分けられた鍋の具材を無心に口へ運びながら、瑠璃香たちの会話へ全集中の晴永としては、瑠璃香攻略のことしか頭にない。
日下の様子を見ていて思うが、うかうかしていたら瑠璃香のことを掻っ攫われる気がしてしまった。
(あいつには少々強引な手を打たんとダメかも知れん!)
日下があれほどあからさまに瑠璃香を依怙贔屓しているというのに気付いていなさそうな雰囲気を見るに、そうとしか思えなかった。
――きっと、瑠璃香に好意を意識させた方が勝ちだな。
チラチラと三人の様子を眺めながらそんな結論に達した晴永である。
晴永たちの並びからは対面にあたる席へ座っている新人たちは、同期の先輩らがワイワイ言い始めた時点で自分たちも新人同士交流を深めようとなったみたいだ。
一向にこちらの様子へ注意を向けていないのを確認して、瑠璃香の動向をチラチラと探る。
時折そんな晴永へ向けて瀬戸部長が「なぁ、新沼君!」などと同意を求めてくるのだけれど、そっちの話なんて元より聞いていないし、それどころではない晴永は生返事をし続けている。まぁ実際問題そのせいで部長との間に何か齟齬が生じたとしても、晴永は何とでも出来る立ち位置の人間なのだ。問題ない。
(なぁ小笹。卵焼き……日下には食わせねぇってことは俺にはチャンスがあると思っていいのか?)
なんだか日下が食べたという瑠璃香お手製の甘い卵焼きが食べたくて仕方がない。
そもそも瑠璃香を好きという気持ちは一緒のはずなのに、同期というだけで日下だけが美味しい思いをしているのはズルイではないか。
(うらやましい……! 俺も小笹が焼いた卵焼き、食いたい!)
自分は食べたくもない椎茸だって、瑠璃香がよそってくれたと思えば頑張って食べられると言うのに。美味いものをもらう権利だってあるはずだ。
そんな手前勝手な結論に達しながら、晴永は皿から鶏肉をつまみ上げた。そのタイミングで瑠璃香が日下を避けるようにヒョコッと顔を覗かせて、「あの、課長……。飲み物頼まれますか?」と聞いてくる。
「んぐっ――!」
すっかり自分の世界へ突入してあれこれ悶々としていたところへ、突然渦中の(?)の瑠璃香から気遣われた晴永は、つまんでいた鶏肉をポロリとテーブルの上へ落っことしてしまう。
ポンと撥ねて太ももに落下した鶏肉を慌ててつまみ上げたら、スッと立ち上がった瑠璃香が、「さっきから何してるんですか」とやや呆れた風におしぼりを差し出してくれた。
(小笹、やめろ! 惚れちまうだろ!)
もう惚れているくせに心の中でそんな雄叫びを上げながら、晴永は「すまん」とそっけなく答えて瑠璃香からおしぼりを受け取る。
(ふ、拭いてくれても構わないんだぞ?)
そう思ってから、(いや、さすがにそんなことされたら勃起しちまいそうでやばいか)と吐息を落とした。
そう思いながらも、何となくやっぱりそれすら嬉しかったりするのだ。
(小笹、あとで手痛いしっぺ返しを食らっても文句は言わせないからな!?)
涙目で巨大椎茸を噛み砕きながら、そんな強がりを心の中で叫んでいる時点で、晴永はすでに瑠璃香に滅法甘い。……のだが、本人にその自覚はない。
「小笹先輩、こういうの、慣れてるんですか?」
新人のひとり――保城常雄が声を掛ける。
自己紹介の際、田貫のカドミくんグッズ自慢で他のメンバーの影が薄めになってしまったけれど、今年企画宣伝部に配属された新入社員は男性二名、女性一名の計三名だ。
瑠璃香の正面に田貫、彼の左隣に保城が座っている。
「慣れてるっていうか、やらないと気になるだけだよ。座ってると落ち着かないの」
保城の質問に照れたように笑う瑠璃香が、可愛い。その愛らしい横顔を見つめつつ、晴永もあわよくば新人らと交流を深めるという名目で瑠璃香と話がしたいのだが。
(椎茸が飲み込めん!)
噛んでも噛んでも飲み込んでいい大きさにならない。
(いっそビールで流し込むか……!?)
そう思いはするのだが、せっかくのビールが椎茸の香りで台無しになってしまうのが惜しくてなかなか決行出来ずにいる。
そうこうしているうちにも、会話はどんどん進んでいくのだ。
「先輩は家でも家事とかすごくテキパキこなしてそうなイメージです。憧れます!」
同じく新人の佐久真理子が話に入ってくると、周りの社員らも、ワイワイ話に入り始める。
「そうそう。瑠璃香ってばお昼もお弁当作ってきてること多いし、本当女子力高いのよ」
瑠璃香と同期の木嶋悦子が言えば、
「……女子力っていうか、節約してるだけだよ」
瑠璃香が、晴永が口に入れたのよりもっと大きい椎茸を美味しそうに頬張ってもぐもぐしながら謙遜する。
(何でそんな美味そうに食えるんだ! 俺はこんなにしんどいのに!)
やっと決意がついて、ビールの入ったグラスを手に持ったところで、フッと席が翳った。
(ん?)
怪訝に感じて見上げれば、でかい男が立っていた。
(日下仁人!)
男の勘。
絶対こいつも瑠璃香のことが好きに違いないと分かっているだけに、晴永としては超絶警戒している人物だ。
そうしておそらくは日下の方も晴永の気持ちに勘付いている。
その証拠。一度だけチラリと晴永を見下ろすと、さも何でもないことのように瑠璃香のすぐ隣――晴永と瑠璃香の間!――にビールジョッキを片手に割り込んできた。
「弁当といえばさー。俺、この前小笹の弁当から卵焼きもらって食ったじゃん?」
それだけならまだしも、あからさまに晴永にマウントを取る発言をぶっ込んでくる。
(日下ぁぁぁぁ!)
だからと言って、別に何か無礼を働かれたというわけではないから、晴永としては心の中で毒付くしかできないのが悔しいところだ。
席順を決める時、すぐ隣はちょっとあからさま過ぎるか? と気後れして、ひとつ席を空けてセッティングしてしまったことが仇になってしまった。
口の中の椎茸臭を、やっとの思いでビールと共に胃のなかへ流し込みつつ、晴永は心の中で一人ギリギリと歯噛みする。
日下も木嶋同様瑠璃香の同期だ。どうあったって、上司の自分より瑠璃香との距離が近い。
「あー、そういえば唐揚げと交換してくれとかやってたね」
ポンッと手を叩きながら木嶋が言えば、
「そうそう! 色も形も綺麗だったからさぁ、つい食いたくなっちまって」
グイッとビールジョッキを煽りながら日下がニヤリとする。そんな日下に木嶋が詰め寄った。
「で? どうだったの?」
「甘くて……すげぇ美味かった! 毎日でも食いたい卵焼きだったわ。小笹、最高!」
酔っ払っているのか、はたまた酒の力を借りてわざと酔ったふりをしているだけか。瑠璃香の頭をグシャリと掻き混ぜるように撫でる日下の大きな手に、晴永は思わず空になったグラスを倒した。
その音にすぐさま瑠璃香が気付いて手を出そうとしたのだが、間に日下がいて巧みに邪魔をする。
「もぉ、日下くん、邪魔っ。――新沼課長、飲み物とかこぼれてないですか?」
せっかく瑠璃香が気にしてくれたというのに、晴永が答えるより先、まるで瑠璃香との会話を邪魔したいみたいに日下が晴永の方を向いてにこやかに問いかける。
「飲み終えたあとだから大丈夫ですよね?」
(クソッ! 飲む前に倒せばよかった!)
などと心の中で毒づきながらも「ああ、大丈夫だ」と答えた晴永へ、日下が勝ち誇ったようにニヤリと笑った――ように見えた。
(絶対わざとだ!)
その表情に、そう確信した晴永である。
「日下は甘い卵焼きが好きなのね? よぉーし、今度私も甘い卵焼き作ってくるから何か美味しそうなおかずと交換してよ!」
大丈夫と答えたから、それ以上晴永の方へ気を配る必要はないと判断されたんだろう。
木嶋が先ほどの話を引き継ぐみたいに卵焼きの話題へ戻した。
その言葉を聞いた晴永は(もしかして木嶋、日下のことを……?)と思う。
思ったのだが……。
「えー、俺は小笹の卵焼きが食いたいんだってー」
鈍いのかわざとなのか。まるで木嶋からの好意に気付いていなさそうに日下が酷い返しをする。
その一瞬、木嶋が悲しそうな顔をしたのを晴永は見逃さなかった。
心の中で、思わず(頑張れ、木嶋!)と応援してしまったのは、〝ライバルを掻っ攫ってくれ〟という思惑からばかりではない。一生懸命秋波を送っているのに気付いてもらえない木嶋のことを、瑠璃香への〝好き〟が伝わらない自分と重ねてしまったのだ。
「だって木嶋、料理あんまり得意じゃねぇーじゃん」
「それでも日下のためにやってみようって言ってるのにー」
「やだよ。俺を実験台にするな」
「ひどーい! 人でなし!」
木嶋のゆるゆるパンチが日下の肩を打つ。ポンという音に〝♥〟の幻が見える。
存外強靭なメンタルで攻め続ける木嶋に感心していたら、
「私の卵焼きはもう日下にはあげないので悦子からもらってくださーい♪」
ふふふっと瑠璃香が笑う声がして、晴永は心の中で『よし!』とガッツポーズをした。
そうして思う。
(今の感じ。……もしかして小笹も木嶋の気持ちに気付いてるのか?)
と。
「ええーっ」
瑠璃香からの塩対応に、日下のわざとらしい抗議の声が上がったが、晴永のほうはそれどころではない。
(小笹! お前、自分への好意には滅茶苦茶鈍いくせに、なんで他人のにはそんなに敏感なんだ!)
もしかしたら木嶋から相談を受けているのかも知れないけれど、それにしたって少しは自分を取り巻く環境にも目を向けて欲しいと希わずにはいられない。
表向きは素知らぬ顔で器に取り分けられた鍋の具材を無心に口へ運びながら、瑠璃香たちの会話へ全集中の晴永としては、瑠璃香攻略のことしか頭にない。
日下の様子を見ていて思うが、うかうかしていたら瑠璃香のことを掻っ攫われる気がしてしまった。
(あいつには少々強引な手を打たんとダメかも知れん!)
日下があれほどあからさまに瑠璃香を依怙贔屓しているというのに気付いていなさそうな雰囲気を見るに、そうとしか思えなかった。
――きっと、瑠璃香に好意を意識させた方が勝ちだな。
チラチラと三人の様子を眺めながらそんな結論に達した晴永である。
晴永たちの並びからは対面にあたる席へ座っている新人たちは、同期の先輩らがワイワイ言い始めた時点で自分たちも新人同士交流を深めようとなったみたいだ。
一向にこちらの様子へ注意を向けていないのを確認して、瑠璃香の動向をチラチラと探る。
時折そんな晴永へ向けて瀬戸部長が「なぁ、新沼君!」などと同意を求めてくるのだけれど、そっちの話なんて元より聞いていないし、それどころではない晴永は生返事をし続けている。まぁ実際問題そのせいで部長との間に何か齟齬が生じたとしても、晴永は何とでも出来る立ち位置の人間なのだ。問題ない。
(なぁ小笹。卵焼き……日下には食わせねぇってことは俺にはチャンスがあると思っていいのか?)
なんだか日下が食べたという瑠璃香お手製の甘い卵焼きが食べたくて仕方がない。
そもそも瑠璃香を好きという気持ちは一緒のはずなのに、同期というだけで日下だけが美味しい思いをしているのはズルイではないか。
(うらやましい……! 俺も小笹が焼いた卵焼き、食いたい!)
自分は食べたくもない椎茸だって、瑠璃香がよそってくれたと思えば頑張って食べられると言うのに。美味いものをもらう権利だってあるはずだ。
そんな手前勝手な結論に達しながら、晴永は皿から鶏肉をつまみ上げた。そのタイミングで瑠璃香が日下を避けるようにヒョコッと顔を覗かせて、「あの、課長……。飲み物頼まれますか?」と聞いてくる。
「んぐっ――!」
すっかり自分の世界へ突入してあれこれ悶々としていたところへ、突然渦中の(?)の瑠璃香から気遣われた晴永は、つまんでいた鶏肉をポロリとテーブルの上へ落っことしてしまう。
ポンと撥ねて太ももに落下した鶏肉を慌ててつまみ上げたら、スッと立ち上がった瑠璃香が、「さっきから何してるんですか」とやや呆れた風におしぼりを差し出してくれた。
(小笹、やめろ! 惚れちまうだろ!)
もう惚れているくせに心の中でそんな雄叫びを上げながら、晴永は「すまん」とそっけなく答えて瑠璃香からおしぼりを受け取る。
(ふ、拭いてくれても構わないんだぞ?)
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