【完結】【R18】キス先② 大安吉日。私、あなたのもとへ参りますっ!

鷹槻れん

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13.好きなものを好きだと思うのは悪いことなの?

年間六千本程度

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 羽住はすみ酒造では量より質を重んじたいという意向で、昔からこしきを使った製法を採用しているそうだ。

 蒸し上がった米は、必要な温度まで冷却してから麹や酒母・ もろみに使うらしいのだが、この際も昔ながらの製法――布の上などに蒸米を広げて冷やす自然冷却法――で冷ましているのだとか。


「うちはこんなだから大量の酒は作れなくてね。どんなに頑張っても年間六千本程度しか出荷出来ないんだけど……まぁそれはそれでいいかなと思っているんだよ」

 目を細めて十升むすこの働く姿を見つめる善蔵ぜんぞうの横顔が、どこか誇らしげに見えた日織ひおりだ。

「だから羽住はすみ酒造のお酒は滅多にお店でお見かけしないのですねっ」

 羽住はすみ酒造の『純米吟醸波澄はすみ』は、扱われている酒屋が限られている、地元でも割と幻の酒だ。

「別に出荷制限を掛けてるわけじゃないんだけどねぇ。昔から取り引きのある酒屋さんにおろすのでカツカツな感じなんだ」

 申し訳なさそうに眉根を寄せながら、

「もう少しあちこちに卸せたらもっともっと沢山の人にうちの酒を飲んでもらえるんだけど」

 と言った善蔵ぜんぞうの顔を見上げながら、日織は「たくさん出回らないのは寂しいですが、変わらないで欲しいのですっ」と思わずつぶやいていた。

「え?」
 という声とともに善蔵ぜんぞうの視線を感じて、慌ててうつむいて、
「あ、すみません。何も知らないくせにっ」
 と前置きをしてから、でもこれだけはお伝えしなければと思って顔を上げた日織ひおりだ。

「私、波澄はすみの温かみのあるお味が大好きなのですっ。もしも大量生産することでそれが変わってしまうんだとしたら……すっごくすっごく寂しいので……それで……あのっ」

 うまく言葉が出なくてもどかしい。

 こんなとき、大好きな修太郎しゅうたろうさんなら、的確に自分が言いたいことを相手に伝えられる気がするのにっ!と思ってしまった。

 そうして修太郎なら、日織がこんな風に途中で言葉に詰まってしまっても、伝えたい気持ちを全部全部汲み取ってくれるのだ。


「ありがとうね、日織ちゃん」

 でも、善蔵ぜんぞうにも日織の「心」は――百パーセントではなかったかもしれないけれど、伝わったみたいだ。


波澄うちの酒を好きだと言ってくれるファンからの言葉は、一番大切にしなきゃいけないものだと私も思っているよ」

 言われてふんわり微笑まれて、日織は何だかくすぐったくなった。
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