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第10話 封印
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黒い球体から現れた邪神の触手は破壊を続けていた。
倉庫は倒壊し、傭兵たちもとっくに逃げ出している。
この化け物の本体が出てきたら被害はもっと大きくなってしまうだろう。
当局か報道関係なのか、いつの間にか、空には多くのヘリコプターが飛び交っていた。
凜夏は、意識を失っている未冬を抱えて破壊された倉庫から逃げ出していた。
倉庫の方を見ると屋根は崩れ、黒い球体が浮いているのが見えた。球体から伸びた触手は、周囲の建物にも伸び始めている。
凜夏が奇怪な黒い球体を見上げていると一機のヘリコプターが近づいてきた。
中型の軍用ヘリUH-60"ブラックホーク"だ。
ブラックホークはゆっくりと凜夏たちの近くに着陸した。
回転するブレードの風に煽られ凜夏の美しいプラチナブロンドの髪が乱れる。
着陸したブラックホークからアサルトライフルと防弾チョッキで武装した数名の戦闘隊員たちが降りて周囲を警戒する。
次に降りてきたのは黒いスーツを着込んだ眼鏡をかけた男だった。男はそのまま凜夏に駆け寄っていく。
「どういうことだ! 凜夏」
眼鏡の男は不機嫌そうに言った。
「ちょっとした手違い」
「手違い? ふざけるな! その手違いが起きないためにお前を潜入させたんだぞ?」
「その話、長くなる? 私には時間があまり残ってないんだけど……」
「はあ? 何を言ってるんだ、おまえ!? 俺はめちゃくちゃ怒ってるんだぞ」
「大丈夫、なんとかできるよ。秋月さん」
そう言って凜夏は未冬を寝かせると取り戻したアタッシュケースを開いた。
「おまえ、それ、魔導書じゃないか。なんだ、確保できていたのか」
「まあね……これであれを送り返してみる」
凜夏は、そう言って魔導書を開いた。
「簡単に言うが、お前にできるのか?」
「出来ると思うよ。もう使ったことあるし、なんとかなるよ」
凛夏の言葉に秋月の表情が固まる。
「使ったことあるし……って、もしかして邪神を呼び込んだのって、お前の仕業か!?」
秋月がとんでもない形相に変わった。
「ああ、邪魔、邪魔。今から"魔導書"使うから邪魔しないで!」
「まてまて! これ以上事を大きくすると俺の立場が……」
凜夏は騒ぐ秋月から離れると魔導書に書かれた呪文を唱え始めた。
魔導書は、ただ読むだけではだめだ。
使用したい魔法や魔術に見合った条件を用意しておくか、それなりの魔力を持った者でないと実行できない。
"不死の魔女"凜夏・ランカスターには相応の魔力と資質があった。
周囲の雰囲気が次第に変化していく。
突如、空中に大きな空間が現れた。
空間は周囲のものを吸い込み始めた。それは邪神も例外ではない。
巨大な触手が瓦礫と一緒に浮き上がっていく。
邪神の触手は吸い込まれまいと抵抗し、何かにしがみつこうとした。だが巨大な邪神がしがみつけるほど頑丈な建造物はない。
勝機を失いそうな恐ろしい咆哮が響いていく。
邪神は、周辺の瓦礫を巻き込み別の宇宙に呑み込まれていった。
しばらくすると触手を一本残したまま球体が完全に消え去った。触手の先は空間の遮断と同時に切断されて地面に落ちた。そして、のたうち回った後、動きを止めた。
邪神の本体は、存在していた元の世界に送り返されたのだ。
それを見届けると凜夏は、魔導書を閉じた。
球体が消えると嵐のような風も収まり、轟音も消え倉庫のあった場所は、瓦礫の山に変わっていた。
その様子を見届けた秋月は冷や汗を拭う。
「まったく、焦らせやがって」
秋月は、ずれた眼鏡を直しながら言った。
「ごめん、秋月さん」
「また、俺は、お前の尻ぬぐいか」
「それもこれが最後だよ」
「あん? どういうことだ?」
秋月が眉をしかめる。
その時、周囲を警戒していた隊員のひとりが秋月に報告に来た。
「生存者を発見しました」
「巻き込まれた一般人か?」
「いえ、どうやら教団の関係者らしいです。顔に火傷の傷がある女ですが、どうも……」
それを聞いた凜夏が報告しに来た隊員につめよった。
「生きてるって!?」
「あ? ああ……脈は弱いですが、まだ」
「お願いだからなんとかその娘を救って……」
隊員は、ちらりと秋月の方を見る。
「しょうがねえなあ……おい、急いで搬送してやれ。乗ってきたヘリ、使っていいぞ」
「了解」
指示を受けた隊員は搬送準備にかかるため、その場から離れていった。
「ありがとう、秋月さん」
秋月に笑顔で礼を言う凜夏。
「珍しいな。お前がそんな顔をするなんて」
「そう?」
凜夏は、照れくさそうに顔をそむけた。
「で、この娘はなんなんだ?」
そう言って傍で気を失っている未冬を指さした。
「任務中に巻き込んじゃって……でも、記憶は消したから大丈夫だよ。私のことも魔導書のことも覚えてない」
「例のあの魔法使ったのか? まったく便利な力だな」
「そうでもない。あまり使いたい能力でもないし」
「そういうものなのかねえ。俺からしてみると便利この上ない力なんだがな。魔術士の気持ちはわからんな」
「ねえ、それより、この娘のこと……」
「わかってるよ。何もなかったように工作しておく。目が覚めた時にはベッドの上だ。矛盾した記憶が多少、残ってたとしても夢だと思うだろうさ」
「……ありがとう」
凜夏は、秋月に魔導書を手渡した。
倉庫は倒壊し、傭兵たちもとっくに逃げ出している。
この化け物の本体が出てきたら被害はもっと大きくなってしまうだろう。
当局か報道関係なのか、いつの間にか、空には多くのヘリコプターが飛び交っていた。
凜夏は、意識を失っている未冬を抱えて破壊された倉庫から逃げ出していた。
倉庫の方を見ると屋根は崩れ、黒い球体が浮いているのが見えた。球体から伸びた触手は、周囲の建物にも伸び始めている。
凜夏が奇怪な黒い球体を見上げていると一機のヘリコプターが近づいてきた。
中型の軍用ヘリUH-60"ブラックホーク"だ。
ブラックホークはゆっくりと凜夏たちの近くに着陸した。
回転するブレードの風に煽られ凜夏の美しいプラチナブロンドの髪が乱れる。
着陸したブラックホークからアサルトライフルと防弾チョッキで武装した数名の戦闘隊員たちが降りて周囲を警戒する。
次に降りてきたのは黒いスーツを着込んだ眼鏡をかけた男だった。男はそのまま凜夏に駆け寄っていく。
「どういうことだ! 凜夏」
眼鏡の男は不機嫌そうに言った。
「ちょっとした手違い」
「手違い? ふざけるな! その手違いが起きないためにお前を潜入させたんだぞ?」
「その話、長くなる? 私には時間があまり残ってないんだけど……」
「はあ? 何を言ってるんだ、おまえ!? 俺はめちゃくちゃ怒ってるんだぞ」
「大丈夫、なんとかできるよ。秋月さん」
そう言って凜夏は未冬を寝かせると取り戻したアタッシュケースを開いた。
「おまえ、それ、魔導書じゃないか。なんだ、確保できていたのか」
「まあね……これであれを送り返してみる」
凜夏は、そう言って魔導書を開いた。
「簡単に言うが、お前にできるのか?」
「出来ると思うよ。もう使ったことあるし、なんとかなるよ」
凛夏の言葉に秋月の表情が固まる。
「使ったことあるし……って、もしかして邪神を呼び込んだのって、お前の仕業か!?」
秋月がとんでもない形相に変わった。
「ああ、邪魔、邪魔。今から"魔導書"使うから邪魔しないで!」
「まてまて! これ以上事を大きくすると俺の立場が……」
凜夏は騒ぐ秋月から離れると魔導書に書かれた呪文を唱え始めた。
魔導書は、ただ読むだけではだめだ。
使用したい魔法や魔術に見合った条件を用意しておくか、それなりの魔力を持った者でないと実行できない。
"不死の魔女"凜夏・ランカスターには相応の魔力と資質があった。
周囲の雰囲気が次第に変化していく。
突如、空中に大きな空間が現れた。
空間は周囲のものを吸い込み始めた。それは邪神も例外ではない。
巨大な触手が瓦礫と一緒に浮き上がっていく。
邪神の触手は吸い込まれまいと抵抗し、何かにしがみつこうとした。だが巨大な邪神がしがみつけるほど頑丈な建造物はない。
勝機を失いそうな恐ろしい咆哮が響いていく。
邪神は、周辺の瓦礫を巻き込み別の宇宙に呑み込まれていった。
しばらくすると触手を一本残したまま球体が完全に消え去った。触手の先は空間の遮断と同時に切断されて地面に落ちた。そして、のたうち回った後、動きを止めた。
邪神の本体は、存在していた元の世界に送り返されたのだ。
それを見届けると凜夏は、魔導書を閉じた。
球体が消えると嵐のような風も収まり、轟音も消え倉庫のあった場所は、瓦礫の山に変わっていた。
その様子を見届けた秋月は冷や汗を拭う。
「まったく、焦らせやがって」
秋月は、ずれた眼鏡を直しながら言った。
「ごめん、秋月さん」
「また、俺は、お前の尻ぬぐいか」
「それもこれが最後だよ」
「あん? どういうことだ?」
秋月が眉をしかめる。
その時、周囲を警戒していた隊員のひとりが秋月に報告に来た。
「生存者を発見しました」
「巻き込まれた一般人か?」
「いえ、どうやら教団の関係者らしいです。顔に火傷の傷がある女ですが、どうも……」
それを聞いた凜夏が報告しに来た隊員につめよった。
「生きてるって!?」
「あ? ああ……脈は弱いですが、まだ」
「お願いだからなんとかその娘を救って……」
隊員は、ちらりと秋月の方を見る。
「しょうがねえなあ……おい、急いで搬送してやれ。乗ってきたヘリ、使っていいぞ」
「了解」
指示を受けた隊員は搬送準備にかかるため、その場から離れていった。
「ありがとう、秋月さん」
秋月に笑顔で礼を言う凜夏。
「珍しいな。お前がそんな顔をするなんて」
「そう?」
凜夏は、照れくさそうに顔をそむけた。
「で、この娘はなんなんだ?」
そう言って傍で気を失っている未冬を指さした。
「任務中に巻き込んじゃって……でも、記憶は消したから大丈夫だよ。私のことも魔導書のことも覚えてない」
「例のあの魔法使ったのか? まったく便利な力だな」
「そうでもない。あまり使いたい能力でもないし」
「そういうものなのかねえ。俺からしてみると便利この上ない力なんだがな。魔術士の気持ちはわからんな」
「ねえ、それより、この娘のこと……」
「わかってるよ。何もなかったように工作しておく。目が覚めた時にはベッドの上だ。矛盾した記憶が多少、残ってたとしても夢だと思うだろうさ」
「……ありがとう」
凜夏は、秋月に魔導書を手渡した。
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