軍将の踊り子と赤い龍の伝説

糸文かろ

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第二章

真剣な眼差し 1

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 たっぷり自然と戯れた後水から上がると、服は水分を含んで重くなっていた。
 急に寒気を感じて犬のようにぶるぶると身震いすると、冷え切った身体を大きな布でふんわり包まれた。
「夜は寒くなると思って、念のため防寒具を持ってきておいて良かった」
 小さな火を焚いて、手際よく脱いだ服を絞り、枝に引っかけ干してくれる。服が乾くまでの間、ほとりに二人で並んで座った。
「ありがとうございます。この景色を私に見せるために、誘ってくれたのですね」
「以前、サニは故郷の自然が恋しくなるという話をしていただろう。唐突にこの湖のことを思い出してな。しかしためらいなく水に入るとは予想できなかったが。サニの行動は時々、俺の予想を遙かに上回ってくる」
「聖舞院がある森の中に、同じくらいの大きさの川と、源流には滝があったんです。朝早く、授業の前によく行っていた記憶が蘇りました。あの景色は、もう二度と見ることができないのだと思ったら、我を失って入水してしまいました」
 サニの声は無意識に固くなった。
 力を失って、既にひと月が経つ。
 最初に抱いていた、身体を休ませればもしかして力を回復できるかもという希望は、もうほとんどない。
「スーラは世界の反対側にあるわけじゃない。気にせず、いつでも訪ねればいいだろう」
「聖舞師にとって望まずして舞術の力をなくしてしまうのは、一番恥ずべきことです。力を失った身で、のこのこと聖舞院に足を踏み入れるなどできません」
「実家に行くという選択肢は?」
「両親たちを落胆させたくないですし、戻ることは考えていません。聖舞師でない私の居場所は、スーラにはもうないのです」
 自分の生まれ育った故郷が、今はとても遠い国に感じられた。
 一人前の聖舞師として修行を積み、沢山の戦に勝つ。満期になりクレメントの派遣を終えたらスーラに戻れることを、ずっと楽しみにしていたのに。
 聖舞院で仰がれる師になり、立派な聖舞師を育てたい。その目標も、術を使えなくなってからは跡形もなく消え去ってしまった。
 かといって、新しい目標を立てたり今後のなりふり方を前向きに考えられるほどの余裕はまだない。
 将来への希望は粉々に砕け散ってしまって、闇の中に一人でぽつんと立っている気分だ。
 サニはどんよりと暗い気持ちに包まれた。
「背中のそれは?」
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